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第218話・レイとグリード、王国最強と邂逅する

 

「来たぜ来たぜぇ! 祭りの始まりだ!! 今日が年貢の納め時だぜっ––––アルス・イージスフォードぉッ!!」


 定刻に達した瞬間、大魔導フェスティバルに湧いていた街で潜んでいた剣聖グリードは剣を抜いた。

 以前はアルスのエンチャントが切れて重さに負けていたが、『フェイカー』によって強化された体は鉄の質量をアッサリ持ち上げる。


「まずテメェの大事なフェスティバルをぶっ潰して、その顔を悔しさと絶望で滲ませてやるよぉッ!」


 周囲の群衆を吹き飛ばそうとしたグリードは、下卑た笑みと共に手近な人間たちへ愛剣を振った。


「あぁ!?」


 しかし眼前に広がった光景は、望んでいたものと明らかに乖離(かいり)していた。

 空が緑色に染まった瞬間、一般人が氷のように固まってしまったのだ。


 斬り飛ばした人間からは、血の一滴も出ないではないか。


「どういうことだ……こりゃ」


 さっきとは一転、動揺に剣を下ろしたグリードに背後から少女が近づく。


「『魔法結界』だわ……、それも常識外れの規模と出力。こんなことができるのはアルスお兄ちゃんしかいない」


 兄と同じ灰髪を下げた、グリードの首にも満たない身長の彼女はレイ・イージスフォード。

 竜王級の妹にして、ルールブレイカーの最高幹部だ。


 そんなレイへ、グリードは苛立ちを隠さずに振り向いた。


「『魔法結界』だと? なんだそりゃ」


「名前の通りよ、指定した空間を周囲の時間から切り離して固定する超高等魔法。いかなる破壊行動も意味をなさず、術者もそれを決して許さない」


「あぁ!? まさかっ……じゃあここでいくらゴミ共を殺しても意味ねえってことかよ!」


 とても“剣聖”とは思えぬ堕ち切った言葉に、レイは無表情で返した。


「そうね、ここはアルスお兄ちゃんの作った空間。固定化された生物は誰も殺せない」


「ふ、ふざけんなっ!! 俺はスカッド様に1000人切りを約束してるんだぞ……! クソクソクソッ!! ゴミクソアルスが……無能エンチャンターのくせに調子乗りやがってッ!!」


 怒りに任せて振った剣が、通りを木っ端微塵に粉砕する。

 しかしこれも、後にアルスの指1本でアッサリ直されてしまうのだろう。


 眼前で激昂する剣聖に、レイは本来の目的を告げた。


「そういちいち取り乱さないで、これだけの結界は安定させるのに時間がいる。今アルスお兄ちゃんを叩けば……きっと簡単に能力を奪えるわ」


「テメェに言われなくてもわかってんだよ! 俺はアルスを超える男だ……。ヤツを殺してからフェスティバルもぶっ壊してやるぜ」


 能力を奪うのが目的なのに、言動からしてどこがわかっていると言うのだろう。


「まぁいい……、俺は世界最強の剣聖だ。今日こそヤツを超えて俺のギルドを裏切った報復といくぜ」


 逆恨みと一緒に飛び上がったグリードは––––


「グガッッ!!?」


 直上からの強烈な踵落としによって、地面へ送り返された。

 レイはすぐさま戦闘態勢に移り、黒の大剣を具現化する。


「ッ!!」


 直後、

 通りの先からいきなり飛んできた衝撃波の伴った弓矢を、レイは間一髪で防ぐ。


「へー、ホントに灰髪じゃん。アルス兄さんが言ってた通りだわ」


 グリードを叩き落とした張本人が、スタリと降り立つ。


「誰だ……テメェッ!! この俺様に不意打ちたぁ舐めた真似しやがって!!」


 土埃を吹っ飛ばしたグリードは、目の前の少女を見て––––思わず固まった。


「アンタがグリードね、ってか今の攻撃も察知できないとか……ちょっと抜けてんじゃない? もしアルス兄さんなら余裕で防いだと思うんだけど」


 腰まで伸びた亜麻色の髪に、シャツとブラウンが基調のベストにプリーツスカート。

 目先まで整った顔立ちの少女は、アルスの義妹にして大英雄の妹、そしてこの国にいる全ての冒険者の頂点に立つ人間––––


「カレン……ポーツマスッ!!」


「あらっ、わたしを知ってるんだ。まぁ当然よね……偽りとはいえ元冒険者ランキング5位だったもんねぇ。剣聖グリードさん」


「はぁ? 偽りだと……? 実力に決まってるだろ!! 俺は実力で剣聖になってギルドを引っ張ったんだ!!」


「アルス兄さんにおんぶで抱っこだったくせによく言うわよ、ペイン」


 カレンが合図すると、彼女の首を掠めてグリードへ矢が突っ込んできた。


「チッ!!」


 全く反応できていないグリードを守る形で、レイが矢を弾く。

 視線の先では、茶髪を短く切り揃えた大弓を持つ男が現れた。


「久しぶりだな、グリード。元雇い主様に再び会えて光栄だ」


「テメェ……、ペインかッ」


 ペインと呼ばれた青年は、頬を吊り上げる。

 彼こそアルス追放後に代わりとして雇われ、グリードたちの貧弱ぶりに愛想を尽かした冒険者。


 現在はカレン率いるドラゴニアに属し、以前はアルス&ユリアのペアとも戦ったことがある。


「竜王級から直々の“依頼(クエスト)”でなぁ、フェスティバル中ずーっと首を長くして待ってたぜ。お2人さん」


「どういうことだ……」


「察しの悪い剣聖ね」


 カレンの全身を、蒼焔が包んだ。

 周囲の気温が猛烈に上がっていく。


「『結界安定までの間、グリードとレイの2人を学園に近づけさせるな』。これが先日ドラゴニアが正式に王立魔法学園 生徒会長から受けたクエストだからよ」


 王国ギルド・ランキング堂々の1位。

 冒険者ギルド『ドラゴニア』のツートップが、剣聖グリードとレイの前に立ち塞がる。


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