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第217話・世界最強の魔人級魔導士

 

 場所は変わって演習場。

 アリサの離脱を確認したユリアは、顔を逸らさず告げた。


「さて、貴方はアリサっちを追いかけてください。この黒騎士はわたしが片付けておきますので」


「うん、わかった……エーベルハルトさんも気をつけて」


「はい、ここは会長が作った結界の中––––周囲の損害は後でどうにかするようです。ブラッドフォード書記も全力を躊躇わないでくださいね」


 コクリと頷いたミライは、その場からイナズマのような速度で消え去った。

 残ったのは、ユリアと膝をついた黒騎士だけである。


「さぁ、これで介入なしの一対一です。そろそろ様子見などという真似はやめたらどうでしょう?」


 ユリアの問いに、黒騎士は夜色だった瞳を赤く光らすことで応えた。

 ノイズのような音と共に、敵から魔力が溢れ出る。


 2倍、3倍、4倍と––––魔力量が底なしに跳ね上がった。


「天使……、天使ッ……。貴様らだけは絶対に許さぬ」


「初めて喋ったと思ったら……、人違いも甚だしいですね。このわたしが天使に見えますか? まぁそれに匹敵する天才ではありますが」


「天使っ、天使……! お前らだけは絶対に生きて空へは帰さんぞッ!! 天使ィッ!!!」


 黒騎士の剣から、業火のごとく漆黒の炎が溢れ出た。

 恨み、怒り、憎しみを具現化したかのようなそれを見ても……。


「貴方の運命を貶めた存在は知りませんが……こっちは会長とのフェスティバルデートを潰されて、いま大変に不機嫌なのです」


 動揺などしない。

 それどころかベクトルこそ違うものの、ユリアも同じ系統の感情を宝具へ乗せた。


「八つ当たりは元の世界へ帰ってからしてください」


 黒騎士の前からユリアが消えたのと殆ど同じタイミングで、彼女は『インフィニティー・オーダー』をハンマーモードにしながら肉薄していた。


「ぬぅッ!!?」


 重い打撃を、剣撃で迎え撃つ。

 しかし恋路を邪魔された乙女のパワーは、天使への怒り云々を完全に超越していた。


「はっ!!」


 小石を打つ要領で、黒騎士が吹っ飛ぶ。


「わたしは天使でもなければ、貴方の宿敵でもありません! ですが––––」


 高速で先回りしたユリアが、ハンマーを振り下ろした。


「刃を向けてきた相手に、容赦は一切しません!!」


「ほざくな天使がッ! また我が故郷を焼くつもりかぁッ!!」


 体勢を高速で立て直した黒騎士が、ユリアの打撃を再び迎え撃った。

 高密度の魔力衝突が、大爆発を引き起こす。


「ぬぅっ!?」


 地面を足裏で削ってブレーキを掛けた黒騎士は、真上から照らす光に首を上げた。

 宝具を魔法杖モードに戻したユリアが、爆発の勢いで上昇––––空中から技を繰り出した。


「星凱亜––––『金星煌爛雨』!!」


 数十もの追尾弾が、文字通り雨のように降り注いだ。


「ぐぅっ! ……舐めるな天使がァッ!!」


 爆撃の中、剣を天へ突きかざす。

 噴き出たのは夜闇のように黒い魔力砲。

 音速で上昇したそれは、『金星煌爛雨』の中央をぶち抜いてユリアの頬を掠めた。


 黒騎士も激しい爆発に飲まれ、また膝をつく。


「驚きました、このわたしに流血させるなんて……貴方を賞賛すべきか。それとも異世界研究部の努力を誉めるべきか、いよいよ迷ってきましたよ」


 右頬の血を拭ったユリアは軽く笑った後に、目をつむり––––


「ですが」


 開眼と同時に、莫大な魔力を自身から吹き荒れさせた。


「わたしはこう見えて世界最強の魔人級魔導士です、このわたしを倒せるのは古今東西遥か未来において––––竜王級アルス・イージスフォードただ1人だけっ」


 太陽が地上付近へ降りたと錯覚しそうなほど熱く、激しい……魔人級魔導士としても規格外の出力。

 杖を振り上げたユリアの頭上に、灼熱の火球が膨れ上がっていく。


「貴方が心底恨んでいる天使ですが、こういう案はどうでしょう」


 魔力量は、先ほど黒騎士が底上げしたにも関わらず比較にすらならない。

 今この場に来て、やっとユリアは本気を出したのだ。


「わたしたちが貴方の代わりに、天使をぶちのめしておきます。なので貴方は––––安心して元の世界へお帰りください」


 極限まで高まった火球を、ユリアは敬意をもって振り下ろした。


「特大魔法、星凱亜––––『太陽神越陣』ッ!!」


 結界内が眩く輝いた。


 向かって来る大火球に抵抗するのは、もはや黒騎士にとってなんの意味も持たない。

 ただ畏怖と、己の怒りを胃で消化するしかなかった。


「––––面白い、その言葉……たしかに受け取ったぞ」


 それだけ言い残し、黒騎士は火球直撃の大爆発に身を委ねた。

 再生能力の介入など微塵も許さず、圧倒的な高圧高熱によって鎧が蒸発する。


 できあがった巨大クレーターの傍に降りたユリアは、しばらくして––––


「ふぅっ……」


 膝をついて座り込んだ。

 貧血に似た感覚と、めまいが彼女を襲った。


 体内魔力の残存量は、これにて殆どゼロである。

 ここまで減ってしまっては、回復に3日は十分な食事と睡眠が必要になってくる。


 他への加勢は、もう実質不可能だった。


「……後は頼みましたよ、アリサっち、ブラッドフォード書記、会長……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒騎士さんは、一体どこから来たのか。めちゃくちゃ恨みもたれとりますね…
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