第214話・双竜の切り札
「よーっし、変身完了! サクッとやっちゃ––––んぅ?」
準備運動代わりにその場で飛び跳ねていたアリサは、直後に遠くからの爆発音を聞いた。
見れば、市街地のあちこちで黒煙が上がっている。
「同時多発テロね……、やっぱりアルスが話してた通りだわ」
「じゃあミライさん、あの黒騎士って……」
「えぇ、予想通り……異世界研究部の召喚魔法は完璧に成功していた。けれど使役の指輪の儀式を”妨害“したヤツが近くにいたのよ」
「なーるほどっ!!」
地を蹴ったアリサが、黒騎士の正面へ走り込んだ。
「じゃあいよいよルールブレイカーのご登場ってわけだ!!」
振られた黒騎士の剣から、黒いイナズマが放たれてアリサを迎撃する。
「ほっ!」
しかし攻撃魔法は、アリサに命中することなく直前で掻き消された。
『魔壊竜の衣』に変身したアリサへ、魔法の類いは一切効かないのだ。
「だっりゃあ!!!」
渾身のパンチが黒騎士を吹っ飛ばした。
相変わらず、か細い腕からは信じられないパワーである。
「ミライさん!」
「了解!」
ペン型魔法杖を具現化していたミライが、折れた木に激突した黒騎士の上空へ回り込んだ。
「『レイドスパーク・フルスロットル』!!!」
雷の連撃が、黒騎士へ襲い掛かった。
周囲の地面が黒く焦げあがり、黒騎士の鎧を変形させる。
「ナイスミライさん! この調子なら余裕でやれ––––ん?」
アリサは、紫に染まった自分の目を疑った。
ダメージを受けたはずの敵が、まばたきした瞬間に元へ戻っているのだ。
傍へ着地したミライは、辟易したような表情になる。
「うっわ……再生能力持ちよアレ」
「えーダル〜、じゃあいくらチマチマ殴っても意味ないじゃん」
「そうね……」
小手先の攻撃では、敵の再起を促すだけだ。
ならば––––
「アリサちゃん! 今こそ練習した”あの技“……やるわよ!」
ミライの提案に、アリサはうろたえながらも返す。
「でもあの技って……、まだ1回も成功してないじゃん」
「下手な技で魔力を使い切るよりかは、まだ確実だと思うの」
「まぁそうだけどさぁ……、失敗したらどうすんの?」
「潔く玉砕よ……」
「わたし道連れじゃん!」
若干気の引けるアリサだが、無傷で起き上がってくる黒騎士を見てシブシブ右拳を握った。
「しゃーないッ! 奇跡を信じるよッ!!」
右拳を魔力と共に、勢いよくミライの横へ突き出す。
「さすがアリサちゃん!!」
同様に、ミライも左拳に魔力を込めてアリサと対局の体勢を取った。
互いの拳に、エネルギー球体が出来上がっていく。
これは空き時間に、血界魔装の練習と並行して行っていた彼女たちの切り札魔法である。
まだ成功したことはないが、ヤツを葬るにはこれしかない。
「行くよ––––アリサちゃん!!」
「よし! せーの!!」
それは、常人では一生たどり着くこともできない……特大魔法のさらに上––––
2つのエネルギー球体が、極限まで密度を高めた。
「「合体魔法––––カオス・エクスプロージョン!!!」」
2人同時に、拳を突き出す。
発射された巨大なエネルギーの奔流が、黒騎士を消し去る––––––––ことはなかった。
「「あっ」」
発射の寸前……高まっていたミライ側の魔力エネルギーが、アリサの能力にうっかり触れて掻き消されてしまったのだ。
同時に、支えの消失によってアリサ側のエネルギーも霧散してしまう。
端的に言うと……技の発動に失敗したのだ。
「ちょっ!! アリサちゃん!?」
「ちがっ、ミライさんが突き出すタイミング早すぎたんだって!!」
「アリサちゃんが遅すぎ––––」
2人が口論を開始したと同時、黒騎士が猛スピードで肉薄してきた。
大技失敗の反動で、ミライアリサ共に回避運動が取れない。
「終わっ––––」
涙目の2人の前で、黒騎士の腹部が熱線で貫かれた。
大きく後ずさった黒騎士が、傷を回復しながら技の主を見上げた。
「全く……2人共何してるんですか、ミイラ取りがミイラになってたんじゃ救援とは呼べませんよ」
空中で黒騎士をアッサリ止めたのは、宝具を手に浮かぶ学園ランキング第2位。
––––生徒会副会長のユリアだった。
まだアルスと別れてから数分も経っていない。
『飛翔魔法』を使い、超スピードでここまで一気に飛んできたのだ。
「エーベルハルトさん……!」
「とりあえずこの場では会長の代わりです、お騒がせな部の後始末も––––我々生徒会の仕事ですので」




