第211話・アルスフィーナとユリア
「アルスフィーナさん……! お久しぶりです! わたしのこと覚えてますか?」
駆け寄ってきたユリアが、開口一番に名を叫んだ。
もはや逃げ道はなし、俺はマスターの店で鍛えた営業スマイルを繰り出す。
「うん、覚えてるよ。夏コミで杖をなくして困ってた子だよね?」
「はい! あの時は本当にありがとうございました!」
何度も頭を下げるユリア。
いやめっちゃ嬉しそうじゃん、そんなにあの日のこと気にしてたのか。
「わたし……この学園の副会長になったんです、こうして少しでも立派になった姿でお礼をずっと言いたかったから、だから今……凄く嬉しいです」
「王立魔法学園の副会長は本当に凄いね、相当頑張らなきゃなれないよ」
「フフッ、アルスフィーナさんに次会う時は胸を張るって決めてましたから」
当時の口調を何となく思い出し、ちょっと噛み砕きながら進めていく。
そこで俺は、ふと気になっていたことを自然に口に出していた。
「でもこの学園の副会長になるほどなのに……、なんであの時テロリストに抵抗しなかったの?」
そう、あの時いくら魔導士モドキに杖を取られていたからといっても、俺と渡り合ったあのユリアである。
素手でもエルフ王級魔導士なら、たとえ100人同時に相手しても圧勝できるだろう。
「あー……実はですね、当時コミフェスに行ってるの、周囲に隠してたんですよ。もし騒ぎを起こしたらバレちゃうと思ってつい……」
そういうことか……。
どうりで行動と実力が吊り合ってなかったわけだ。
「その……だから、アルスフィーナさんがテロリストを全員ぶっ飛ばしてくれて、逆に申し訳なくなってしまいまして……あの後結構大変だったんじゃ?」
「調査とかあったけど気にしなくっていいよ、コミフェス潰されて腹立ってたからどのみち連中は倒してたし。だから別にユリアさんが気にすることじゃないからそこは安心して」
俺の……いや、アルスフィーナの言葉に安堵の息を漏らすユリア。
緊張がほぐれたのか、ユリアはゆっくりこちらを見上げた。
「本当は……生徒会長になってから、冬コミでお礼を言う予定だったんです。でも残念ながらその座にはつけませんでした、理由は簡単で––––天才のわたしを超える人がこの学園に来たからです」
「じゃあ……その人のこと、恨んだりとかしてるの?」
「––––これは内緒の話ですよ。生徒会長選に負けた時……最初は全然信じたくなくって、相手の存在そのものを否定したい衝動にすら駆られました」
しかしユリアは、屈託のない笑顔を俺へ向けた。
「でもその人は……次の瞬間負けたはずのわたしを求めてくれた、必要としてくれたんです。お前しかいないって言ってくれたんです」
叩きつけられる本音を、俺は真正面から受け止めた。
「その時思いました……、この方に全力で尽くしたい。この方の特別になりたい。天才であるわたしを超えた世界に生き、さらに先のビジョンを見せてくれる最強の竜王こそ––––この学園のトップに相応しいと」
「ッ……」
「だからわたしは、こんなわたしを副会長に選んでくれた今の会長へ……本当に感謝してるんです。恨むなんてありえない、おかげでこうして“アルスフィーナ”さんにお礼が言えたんですから」
「……その人、たぶん凄く喜んでると思うよ」
「だったらわたしも救われますね。全く……本当にどうしようもないくらい不器用で、けれど時には身を切って家族を想う––––本当に優しい人」
数歩進んだユリアは、俺の頬に優しく手を当てた。
「ね、“会長”?」
演習場の方から、雷鳴のような炸裂音が響いたのと同時の言葉だった。




