第210話・異世界研究部の野望
「よし諸君! 時は来た! 悪辣なる生徒会に勝利の狼煙を上げるのだ!!」
––––王立魔法学園 演習場。
異世界研究部の部長、ニーナ・バレンシアは魔法杖を手に陣頭指揮を取っていた。
彼女の眼前には、やたらと大きい魔法陣が地面へ刻まれている。
「部長〜、これ本当にやるんですか〜?」
気のない声で聞いてくる部員に、ニーナは当然だと言わんばかりの口調で杖を差した。
「当然だ! 我々は今演習場の隅っこに追いやられているんだ、ここで派手に人目を引かなければ、大魔導フェスティバルにおける知名度アップは図れない!」
「でもでも〜、こんな大規模なやつが生徒会にバレたら大変ですよ〜?」
「リスクは承知の上……! だがここで成果を上げれば分からず屋の生徒会はもちろん、学園自体にも我が部の存在意義が認められる! 学園ランキングアップとそれに伴う奨学金ゲットも夢じゃないのだ!」
杖を振って大仰にアピールするニーナへ、魔法陣を描いていた部員たちが続々と完了の報告を上げてくる。
そう、今日行うは前回失敗してしまった召喚魔法。
異世界の強力な存在を召喚し、この手で使役する。
もし上手くいけば魔導学会に衝撃が走り、このフェスティバルを機に知名度上昇も間違いなし。
善は急げ、もはややるっきゃなしなのだ。
「よしっ、始めるぞ!」
異世界研究部総勢8人で演習場へ描かれた魔法陣を囲み、詠唱を開始した。
「陽は月の影に沈まん、宵闇が世界を覆う時……異世界への扉は開かれん! 来たれ! 来たれ! 来たれ!!」
ドス黒い魔力が魔法陣から溢れ出し、周囲に満ち渡る。
「ぶ、部長……! 凄い魔力です!! これちょっとヤバいのでは!?」
「何を言っている! ここまで来て止められるか! 続けろ! 異世界研究部の荒廃––––この一瞬にありだ!」
なびく髪を風に任せ、ニーナは魔法杖を地面に勢いよく打ち立てた。
「暗黒の使者にして異世界の支配者よ! 絶対なる王道楽土の建築者よ! 我が大命に馳せ参じよ!!! 今この時をもって現世に降り立ちたまえ!!!」
黒のイカヅチが演習場に落下した。
漆黒の瘴気が爆発し、ニーナたち異世界研究部を包んだ。
「部長! 無事ですか!?」
霧の中、副部長が駆け寄ってくる。
「し、尻もちはついたが大丈夫だ……魔法! 魔法はどうなった!?」
見上げた先で、霧が晴れる。
「おっ、おぉ……!」
ニーナは感激のあまり、思わず声を漏らした。
前回は泥にまみれたよくわからないモンスターだったが、今目の前で召喚されたのは体長3メートル近い”黒騎士“だった。
「諸君! 成功だ! これこそ異世界より来たりし絶対覇者に違いない!」
「部長! 早く主従の契約を!」
「うむ、そうだな!」
召喚魔法士の間では一般的なアイテムである、『主従契約の指輪』と呼ばれる魔導具をニーナが取り出す。
「汝の主はわたしだ! 今ここに絶対の関係を構築する!」
右手にはめた指輪が赤く輝いた。
これは上位モンスターのワイバーンロードでも従えさせられる、アルト・ストラトス産の超高級アイテムだ。
これで異世界研究部の成果が現実に––––
––––ピッ––––
ニーナたちがまばたきするほどの時間だった。
黒騎士の目から放たれた光が、演習場の模擬戦用家屋を横切る。
次の瞬間、
「えっ?」
周囲にあった建造物や長い木が、一瞬で溶断された。
切断面が大爆発を起こし、周囲に爆風を引き起こす。
上位モンスターすら支配できる使役の指輪は––––木っ端微塵に砕け散っていた。
「なっ、なにぃぃい––––––––!?」
黒騎士が踏み出すと同時、鎧と同色の巨大な剣を抜いた。
「ぶ、部長! これヤバいんじゃ!?」
「この状況でヤバくないわけないだろう! 総員! 応戦準備!!」
異世界研究部が、一斉に武器を構える。
先頭に立ったニーナは、杖を握りしめた。
「もしこれが周りに知られたら大事だ……! フェスティバルを潰してはもう退学じゃ済まん! 生徒会に気づかれる前に––––わたしたちで処理するぞ!!」




