第206話・非魔力依存・100メートル対抗リレー
《さぁ開幕しました第2競技! 赤組白組の非魔力依存リレー!! 現在赤組の選手がトップ! 今コーナーを曲がりました!!》
この世界の人間は、基本的に肉体が持つ以上の力を発揮するときに必ず魔力を使う。
逆に言えば、それがない場合純粋な本人の身体能力だけがパフォーマンスを決定する。
例えば今横にいるアリサだ。
上着を脱いだことで露出した腕は、男のような筋肉など無くとても華奢なもの。
足も同様で、余分な脂肪はどこにもない……あえて言うなら引き締まった細いスタイルだ。
「よーしもうすぐだ! 緊張するねアルスくん!」
「んっ」
そんな彼女でも、その気になればコンクリートでも平気でぶっ壊すしなんなら砕く。
本気でジャンプすれば屋根より高く飛べるし、怪我をしてもすぐ治る。
これは本人の宿す魔力量の大きさと、コントロールする器用さによって成り立つもの。
つまり、これら超人的な力の源たる魔力使用を禁じれば……。
「おっ、ミライさん女子にしては結構速いじゃん」
いかな魔導士と言えど肉体依存になる。
魔力を使えばイカヅチにも匹敵するスピードのミライが、50メートル8秒タイムだ。
確かに女子としては速いが、戦闘時のそれとは比較にならない。
「っつか、なんで大魔導フェスティバルなのに魔力禁止の競技があるんだ? 普通に謎過ぎるんだが」
「あぁそれね、学園にある昔からの伝統らしいよ。魔法だけに頼るなって意味合いっぽい」
「理解できるが肉体オンリーじゃ魔導士の意味がないな……」
やがてレースは進み、どこか焦燥感に駆られるBGMと共に順番が巡ってきた。
「さぁデッドヒートだ赤と白!! っと、コーナーで赤2人が差をつけた!! 先にバトンが渡ったのは赤組!」
すぐ隣で、赤組のアンカー2人が突っ走った。
2秒ほど遅れて、我らが白組にもバトンが巡ってきた。
「すまねぇ生徒会長!! コーナーで差をつけられた!!」
「心配すんな! バトン託された!!」
俺とアリサは、ほぼ同時に本走りへ突入した。
サイドから聞こえてくる歓声とは別に、真横から声が飛び込む。
「この時を待ってたよ……アルスくん!」
叫んだのはアリサだった。
ここで俺は自らの愚かな油断に気付く、なぜ同じ白組というだけで味方だと信じ込んでいた……!!
こいつは……アリサ・イリインスキーは、
「この100メートルリレー! 君に勝つのはわたしだよ!!」
俺を越えようとしている人間だ!
インコースを良いことに、無駄のない走りでこちらを追い去っていく。
てかアイツ、足はええっ!
「おまテメェッ!! 完全な不意打ちじゃねえか!!」
「ぬっはっはっはっは!! ユリが真面目過ぎるんだよ、勝負は非情! 情けやフェアを貫いて勝利は得られないのだぁ!!」
忘れていた……! こいつは入学当時いきなり学園までの登校でレースを提案し、ミライを担いでいた俺へフライングまで行った勝利至上主義者。
勝てば良かろうの人間なのだ。
「君に勝って、後でユリにいっぱい自慢話してやるぜぇ!」
なら、こちらも話は簡単だ。
「上等だコラァッ! 俺がただ生徒会室で座ってるだけの人間だと思ったか!!」
みるみる内に、アリサとの距離––––先行する赤組との距離が縮まっていく。
「えっ!? ちょ、なんで追いつけれんの!?」
「こちとら『神の矛』時代、文字通り肉壁やってた身だ! モンスターから倒れた仲間担いで逃げる係だった俺に、足で敵うと思うなッ!!」
「ちょっ! 待って! ストップストップストップ!! タンマタンマ! 速い! アルスくん速いってぇ!!」
俺の50メートルタイムは非魔力依存でも5秒台。
学園で魔法の授業ばかりやっている魔導士連中に、実戦で鍛えられた俺の足は越えられない。
いくらしょっちゅう走り込みをやっているアリサさえ、鍛えられた男子の脚力には遠く及ばないのだ。
俺はそのまま全員を抜き去り、トップでゴールテープをぶっちぎった。
《ゴール!!!! 1位は生徒会長アルス・イージスフォード! 非魔力依存の競技でも学園トップの意地を見せましたァッ!!》
第2競技終了、思わぬ敵の出現に驚きながらも学園1位の座は守られた。
3人のアルスへの気持ち、ここでおさらいしときましょう。
ユリア=アルス以外には負けない、けど負けっぱなしは天才として許せないからいずれ絶対勝つ。
アリサ=アルス超えるアルス超えるアルス超えるアルス超えるアルス超えるアルス超えるアルス超えるアルス超える大好き。
ミライ=貴重なヲタ友、まだアルスと干戈を交えていないので勝負へのこだわりはない。このフェスティバルで告白を狙う。




