第204話・今は客として楽しもうじゃないか
「およ? 今の、いまの感じたかえ!?」
学園の外周に展開された出店で買った食事を頬張りながら、大賢者ルナ・フォルティシアは敏感に魔力の流れを感じ取った。
その手には、色濃い具の詰まったパンが握られている。
「ましゃかアルスのやつ……こんにゃっ、もぐ。朝から本気でやりおったのか、全く大人げないヤツじゃわい」
「ハッハッハ! こんな食事に夢中の年齢詐欺賢者に言われたら、イージスフォードくんもさぞ遺憾だろうね」
食事を貪るフォルティシアの横で豪快に笑ったのは、黒一色の軍服に金髪の端正な男。
王国駐在武官、ジーク・ラインメタル大佐だった。
「笑いごとじゃないですよ大佐、いざという時に彼が消耗してたら困るのは我々なんですから」
フォルティシアを挟んで反対側を歩くのは、亜麻色の髪を綺麗に分ける大学教授然とした男。
大英雄グラン・ポーツマスだった。
「もぐっ……ゴクン、おいグランや。おぬしもこれ食ってみい! ものっ凄く美味いぞ!」
「ルナがそんなに興奮するのも珍しいね、なんていう名前だっけ?」
「確か焼きそばパンとか言っとったぞ! こんなに美味いならもっと買っとくんじゃった。ええい日本人め……! こんな美味な物を作るとは」
再びパンにかぶりつくフォルティシア。
しかし金色の瞳は、決して浮かれ切っていなかった。
「で、ラインメタル。そっちの方は何か掴めたのか?」
ニヤリと隣へ振り向いた大賢者だが、幼げな顔にソースまみれなので威厳はない。
一方のラインメタル大佐は、上空に浮かぶ飛行船を見上げた。
「……いや、まだ動きはなさそうだ。この分だと仕掛けてくるのは午後になるかもね」
この3人はどこからどう見てもフェスティバルを楽しむ客だが、当然目的があって共に行動していた。
逃げ出したルールブレイカー王都支部の支部長バリアンが、このフェスティバルのどこかに潜んでいる。
その情報をフォルティシアより知らされた大英雄と元勇者は、こうして街中を歩いている訳だが……。
「んっ!? アレはたこ焼きとかいう日本料理か! グラン、ワシの知的好奇心が未知の味覚と刺激を求めている!」
「端的に言うと?」
「食べたい!! ソースが実に美味しそうじゃ!」
さっきからこれである。
一応ラインメタル大佐が飛行船経由で索敵しているのだが、未だ進捗はなし。
既に数万レルナ分……、グランは出店の食べ物をずっとフォルティシアに奢らされていた。
「グランくん」
「なんですか大佐?」
「今さっき『魔法出力大合戦』のプログラムが無事終わったようだが、君がバリアンだとしてどう思う?」
大英雄は、汗を拭いながらサイフを取り出した。
「生徒会––––特に竜王級だけには見つかりたくないと重々思ったでしょう、さっき発生したのは、僕がそう思うくらいの魔力衝撃波だったんですから」
「あぁ、もし学園内で騒ぎを起こせばあの最強たる竜王級率いる生徒会が事にあたるだろう。しかし裏を返せば––––」
たこ焼き代を出すグランへ、ラインメタル大佐は確信に満ちた言葉を呟いた。
「それによって学外が完全に無防備となる、案外……このロリババアの食事巡りに付き合っていれば、機会は向こうからやって来るかもしれないよ」
大英雄、大賢者、元勇者はそびえ立つ王立魔法学園の傍で、出店巡りに勤しむこととした。
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