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第203話・大人げない生徒会

 

「アイツ赤組だったのかよ!!!」


 俺の絶叫も、黄色い歓声に秒で塗り潰される。

 実況が言うには、去年最高得点を叩き出したのが他でもないユリアとのこと。


 彼女はサンドバッグ前に立つと、穏やかに微笑んだ。


「全く……ブラッドフォード書記もアリサっちも、ここぞとばかりにガチり過ぎですね。少しは自重というものを覚えていただきたいです」


 宝具『インフィニティー・オーダー』に、尋常ではない量の魔力が集中する。

 ミライは汗だくでこっちを振り向いた。


「だ、大丈夫よアルス! 去年出したエーベルハルトさんの記録は3000点。凄いけど今の進化したわたしやアリサちゃんほどじゃないわ!」


 半ば自分を落ち着かせるために叫ぶミライ。

 確かに3000点なら大丈夫だろう、けれどそれは……。


「”去年“だろ……アイツ、まだ俺と戦ったことない状態じゃん」


「あっ」


 そう、進化しているのはなにもミライとアリサだけじゃない。

 この学園の全員、さらに言えば竜王級である俺と直接干戈(かんか)を交えたユリアの成長度合いは––––他の生徒と比較になどならない。


「特大魔法!」


 振り上げたユリアの杖に、極限まで凝縮された火球が日差しのような光を放ちながら出現した。


「星凱亜––––『太陽神越陣』!!!」


 エネルギーの大爆発が発生した。

 灼熱と暴風に覆われる魔法学園……教師たちの防御魔法により、観客たちはなんとか守られる。


 叩き出された数字は––––


 《な、7500点……!!? 7500点です!! 赤組アンカー、ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルト! ここに来て白組を一気に追い抜きましたぁッ!!」


 隣に立っていたミライとアリサが、膝を砕かれたように崩れ落ちた。

 その顔は悲壮感たっぷりの絶望に侵されている。


「終わった……」


「ユリが一番自重してないじゃん……」


 これで向こうの点数は一気にこちらを追い去って9500点、変身したミライとアリサ2人分のスコアを、ユリアはほぼ1人で叩き出してしまった。


 さっきまで盛り上がっていた我らが白組陣営も、一斉に表情が曇る。

 当然か……大人げない滅軍戦技2連発で完全に勝ちを確信してからのこれだ。


「っ……」


 チラリと……、俺はアンカーとして待機している子を見た。


「あっ……あっ」


 女子生徒、それも明らかに学園ランキング100位圏外の人間だ。

 どんなに頑張ったところで、残念だがあのユリアには勝てないだろう。


 負け戦を前に、完全な涙目……圧倒的戦力差で既に戦意を喪失しているようだった。

 傍には応援に来ているであろう弟らしき家族。


 だがアンカーの子は、やがて震えによって握っていたタスキを落としてしまった。


「くそっ……、アイツの彼氏としてはここで座してるのが正解なんだろうけどさ!」


「えっ!? アルス!?」


「アルスくん!?


 俺は白組アンカーの子へ走り寄ると、地面に落ちていた白色のタスキを拾い上げた。


「体調悪くなったなら、代わるぞ」


「せ、生徒会長……! そんな、悪いです!」


「リレーでも怪我した子の代走は認められる、これも同じだよ」


 タスキを手に括り付け、俺はグラウンド中央へ向かった。

 きっと、ユリアもこの展開になることを内心望んで参加したんだろう。


 俺を勝負の場へ引きずり出し、今度こそ勝つために。


 《なっ、なんとここで選手交代! あっ、あの人は……!》


 実況が数瞬息を呑み、大音量で声を鳴らした。


 《が、学園ランキング第1位! 我が王立魔法学園生徒会長にして––––竜王級魔導士、アルス・イージスフォードさんです!!!》


 白組から大歓声が上がった。

 耳が痛くなるほどのボリュームに、思わずビクリと震える。

 あー、こんな場に長くはいられん。


「サクッと終わらせるか」


 俺は体中の魔力を駆け巡らせ、2つある本来は並行使用不可のエンチャントを同時に発動した。

 全身から蒼いオーラがバーナーの如く噴き上がり、上空に鐘の音が響いた。


「『身体・魔法能力極限化(ブルー・ペルセウス)』ッ」


 湧き上がるは祭りの熱気、フェスティバルを盛り上げるのは生徒会長たる俺の務めだ。

 王国最大の祭典を、この一撃でもって開幕させよう。


「悪いなユリア、また俺の––––」


 振りかぶった拳を、サンドバッグへ”手加減せずに“叩きつけた。


「勝ちだ」


 トラック同士の衝突音、爆撃、雷鳴、戦車砲––––それらに類似する音が響き渡った。

 衝撃波が音の速度を超えて広がる。


 サンドバッグがバラバラに砕け散り、吹っ飛んだ固定具ごと防御魔法に叩きつけられた。

 拳の着弾点は、ものの見事に炭化している。


 出た数字は––––


 《え、エラー……。設定上限の突破、突破です……! 生徒会長アルス・イージスフォード、到達不可能と言われた9999点の壁を……た、ただのパンチで突破してしまいました……ッ!!》


 ブルーの変身を解く。

 俺は凡人だったから皆みたく大層な技も持ってないが、とりあえずこれで十分だろう。


 午前の部・『魔法出力大合戦』は白組の勝利で幕を閉じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] オチとして代理出場からのカンストってのは薄々予想してたけど手段と結末が笑ったww 血界魔装×2の戦力を1人で担うユリアってほんと擬似人外だよね(褒め言葉)
[良い点] 真打ち登場と思ったら一瞬で終わったwww
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