第200話・イージスフォード兄妹の邂逅
「久しぶりお兄ちゃん、こうして喋るのは……ファンタジア以来だね」
木の反対側から、実の妹が嬉しそうに語りかけてくる。
しかし、俺はさっきユリアに対して放ったのと正反対の声色で返した。
「小休憩のついでだ、お前らが大魔導フェスティバルに乗じて俺の能力奪おうとしてるのは知ってんだよ」
「さすがお兄ちゃん、鈍感系とは程遠いと自称するだけあるわ」
「王都にお前が来てて、察せない方が無理ゲーだろうが。こんな繁忙期に兄の時間取らせやがって……夜間偵察にでも来たのか?」
「うん、そんなところ。わたしの大好きなお兄ちゃんが主催するお祭りだもの……興味が湧かない方がどうかしているわ」
肝心なところをはぐらかしているつもりらしいが、相変わらず言葉の使い方が下手くそ過ぎて聞くに堪えない。
俺はここまでで得たピースから、1つの確信を突いてみた。
「はっ、お前……その様子だとルールブレイカーがやろうとしてる事の主メンバーから、ボスに見限られて外されただろ」
「ッ……!! どうしてお兄ちゃんがそこまでの情報を?」
「あのなぁ我が妹よ……、兄の掛けたブラフに気づかない上、バカ正直にベラベラ喋りやがって––––それでも幹部級か?」
「どういう意味よ!」
「俺……お前らの計画もなんも、会話の最初から全く知らねーよ」
「なっ!?」
首を曲げなくても、レイがこちらを振り返っているのが容易にわかる。
仕方がないので、幼児に聞かせるつもりで説明してやろう。
「最初の一言目はフェイクだ、お前らがなんで王都に来てるかなんて––––こっちにはなんの憶測も確証も無かった。けどお前はご丁寧にも肯定して頷いた。これだけあれば十分」
「ッ! そんな程度で––––」
「第2に、ルールブレイカー主要要員のお前がわざわざ危険を犯して俺のところに来てる時点で、誰かの隷下に入ってんのは丸わかりなんだよ」
「わたしが大好きなお兄ちゃんに、会いたかっただけよ……」
「いいや違うな、レイ––––俺は今さっきお前じゃなく“お前ら”と言ったんだぞ? 単独で任務を任せられてるなら否定する場面だ。おかしいよなあ」
「ッッ…………!!!!」
これ以上攻めると戦闘が始まりかねないので、俺は手早く得た情報から真実を見つけ出す。
「どうせ剣聖グリードに指示でもされたんだろ? 俺に能力奪う隙がないか伺えってな」
「…………っ」
この無言は肯定と捉えて良さそうだ。
ラント、ミリアが俺に倒された今……最後に残ったアイツが何もしないわけがない。
冒険者ギルド『神の矛』。
そろそろ、この腐食しきった縁も切り時が近いのだろう。
「わたしはお兄ちゃんを幸せにしたいだけなの、この目的だけは揺るがない……! なんとしても変わらないッ」
「幸せの定義によるな、幸福を義務化するとたちまちディストピア化するのと同じ。幸せの押し売りは誰からも嫌われるぞ……未熟な妹よ」
「さっきから未熟だどうのって、お兄ちゃんわたしのこと嫌いなの!?」
「俺の血縁関係者に好きなヤツはいねえよ、両親は借金残して綺麗に霧散。挙句に妹が闇ギルドの幹部だってんだからもはや呪いだ」
「ッ、今はこの理想を理解してもらわなくて良いわ……けど妹として1つ忠告しておくね」
黒い瘴気が足元をゆっくり流れた。
「ルールブレイカーに掛かれば、大魔導フェスティバルなんて一瞬で血祭りにできるわ。いくらでもね」
背後の気配が消えた。
転移魔法か……、捨て台詞吐いて消えるとかもう完全に悪役のテンプレだな。
俺は誰にも聞こえない木陰で、小さく笑った。
「血祭りに上げられるのは、はてさてどっちかな」
レイもグリードも、どうやら全く理解できていないらしい。
俺がギルドを出てから、この王都という場所をどれだけ戦闘に適した土壌として育てたか、どれだけ多くの天才たちを味方に引き込んだか。
総力戦がいかに無意味か……教えてやろう。
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