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第198話・わたしが創作する訳

 

 ––––大魔導フェスティバルまであと4日。

 各種最終調整、会場設営作業のため明日から学園の全生徒が泊まり込みとなる。


 っとなるとその間シフトに入れないため、俺は前日ギリギリまで仕事を詰め込んでいた。


「なぁミライ、お前悔いを残さないようにって思ったら……どんなことをする?」


 マスターこと、大英雄グラン・ポーツマスさんの運営する喫茶店。

 通称『ナイトテーブル』でバイトに勤しんでいた俺は、同じ時間帯でシフトに入っていたミライへ質問してみた。


「んぇ? 後悔……? いきなりどしたの」


「いや、特に深い意味はないんだが……来年は俺たちも3年だ。こうして行事やバイトに精を出せるのも今だけじゃん? だから最高の思い出にしたくてな」


「後悔なくイベントを楽しみたいって意味でおk?」


「うん、おk」


 俺の返事に、相変わらず客のいない店内を掃除していたミライがモップを動かす手を止めた。


「そんなの、悔いが残らないよう全力を捧げるしかないじゃん?」


「質問に対しての答えになってない気がするんですが……?」


「バーロー、さてはおぬし……あの有名な言葉を知らんな?」


「お前みたいな局所的界隈の有名を問われても知らん」


「ふっふん……じゃあ教えてしんぜよう。どこかの日本人が言ったらしいわ! “推しは推せる時に推せ”!! って」


 それのどこが俺の問いへの答えになるのだろう。

 しかしスイッチが入ったミライを止めるのはもう不可能なので、大人しく話の続きを促す。


「で、それが俺の思い出作りにどう関係するんだ? ぜひお前のヲタク的見地とやらで教えてくれ」


「そうねぇ……じゃあアルス、もし面白いと思った配信者やネット創作を楽しんでるとして、アンタはどうする?」


「は? 普通に楽しむに決まってるが?」


「え……それだけ?」


 何を言ってるんだこいつは、面白い物を楽しむのは普通だろう。

 一般的、基本的、そして人間として普遍的な行動だろうに。


「アルス、あんた気に入った作品をただ見るだけで良いの? ただ消費するだけ?」


「当たり前だろ、それが娯楽コンテンツという物だ」


 俺の言葉に、ミライはモップをバケツの水に突っ込みながら顔を逸らす。


「どうしてわたしがコミックフェスタに毎回出てるか、アルス知ってる?」


「いや……詳しくは聞いたことないけど」


「じゃあせっかくだし教えとく。わたしがいつも血反吐吐きながら作品書いてるのはね、わたしの作品を読んでくれてる読み手さんを直接認識できるからなの」


「認識って大袈裟な……ユグドラシルの機能使えば、イラストのアクセス数くらいすぐわかるんじゃないか?」


「ううん……確かにそうかもだけど違うの、作品はね……読み手さんが発する『ここが面白い!』『ここがつまらない!』っていう言葉や応援でシナリオ––––果ては打ち切りやENDまで変わるのよ」


 水を切ったモップが、木の床を滑らかに滑る。

 ……ファンの声で打ち切りやENDまで変わるなんて、本当にあるんだろうか。


 いや、こいつが言うことはきっと間違いじゃない。

 この言葉は、世の中を構成する打算的なリアルそのものだ。


「他でもない作り手本人にそう言われちまうと、頷くしかないか……」


「作品は読んでくれるファンと一緒に作っていくものだと……わたしは勝手にそう思ってる。作り手はいつだって消費者の声を一番待ち望んでいるのよ」


 あー、なんとなくわかってきた。

 こいつが言いたいこと。


「市場の反応がわからない、または薄い作品をいつまでも書くほど……作り手は暇でも聖人でもないってか?」


「そっ、現にわたしだって学生とバイトの合間に創作してる身。コミフェスがなかったらきっとマンガなんて手間も労力も金も掛かるもの……描いてないわ」


「そういやいつだったか話題になってたな……打ち切り後の応援コメントほど、残酷で無意味なもん無いって」


「悲しいけどその通りなのよ、自分が言えたはずの一言で作品の寿命は決まってしまう。つまり何が言いたいかっていうと––––」


 一分の埃すら残さず、ミライは鮮やかなモップ捌きで床を瑞々しく輝かせた。


「ある日いきなり推しの作品が終了して悲しむんじゃなくって、ちゃんと自分も声出せって言いたい!」


 回りくどいが、つまり要約すると……。


「……終わった後の思い出がどうこうじゃなく、大事なのは準備も含めた今この時。自分が主体となって盛り上げれば––––大魔導フェスティバルという皆で創る作品も最高のものになると?」


「そう! それが言いたかった!! さっすがアルス、物分かり良すぎて引くわ」


「ヲタク舐めんな、まぁ……サンキューな。おかげで準備と開催に集中できそうな気がする」


「お役に立てたなら幸いでーす、一緒に頑張って作ろうね。大魔導フェスティバルっていう最高の作品をさ!」


 陽光に輝く水滴が弾けたような笑顔に、今度は俺が思わず顔を逸らす。

 ったく……、ホント真っ直ぐで一貫してやんの。


 まぁ……そこが好きなわけだが。


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