第196話・VSアルス! 3人の大計画
「あの……何があったんですか?」
用事で生徒会室に遅れてやって来た副会長ユリアは、無言無表情……まさしく虚無の顔で部屋を出て行くアルスを見ながら一言。
メイク道具をサッと隠したアリサが、ニッコリと笑った。
「アルスくんは大事な家族のために、もっかい腹切る覚悟したんだよ。さすが生徒会長だね〜」
「はっ、はぁ……。まぁ大事じゃないなら別に良いのですけど」
アルスにとっては十分な大事であるのだが、ユリアに今それを悟れる要素はない。
女子3人だけとなった部屋で、ミライが指をパチンと鳴らす。
「じゃあ計画通りアルスは先に帰ったし、エーベルハルトさんが来たから始めましょう。アリサちゃん」
「オッケー!」
普段絶対に開きっぱなしである生徒会室の鍵をミライが勢いよく閉め、ユリアがその上から防音魔法を三重に展開。
さらにアリサの工作で、生徒会室は現在殺虫作業のため教師含めて誰も近寄らないよう警告する偽の校内放送が流された。
これでどんな異常があろうと、誰もこの部屋に訪れることはないだろう。
「整ったわね、じゃあ––––始めるわよっ」
応接用の机に、1枚の紙が大きく広げられた。
それは王立魔法学園の全体図、しかもただ場所を記しただけのものではない。
大魔導フェスティバルにおいて、午後の部で出店される店が記された見取り図だった。
「わたしたち3人の、対アルス告白&フェスティバル・デート計画!!」
音頭を取るミライと、張り切るアリサ、穏やかに拍手するユリア。
これは夏休み以後––––アルスに内緒で、彼女たち3人が密かに立案したものだ。
その概要は……。
「目標は2つ、わたしとアリサちゃんはこの大魔導フェスティバルという大イベントを機にアルスへ告るッ! エーベルハルトさんはもう付き合ってるから文化祭デートに持ち込む! 以上!」
「いや〜、ミライさんも悪だねぇ」
ニマニマ顔のアリサが、学園マップを見下ろしながら椅子に座る。
「出店の配置、アルスくんと楽しんで巡れるよう完璧に最適化されてんじゃん。デートコースから告白スポットまで書かれてるし」
見れば、そのマップには丁寧な字であちこち書き記した跡があった。
“デートコース(エーベルハルトさん用)”、“告白スポット1(ミライ用)”、“告白スポット2(アリサちゃん用)”。
見る人間がみればこう言うだろう––––
「大魔導フェスティバルの完全私物化、もしバレたらメディア部に総叩きされそうですね」
ユリアの言葉に、ミライは心外そうな様子で笑った。
「フッフン、ちゃんとフェスティバル実行委員会のみんなで決めた配置よ? 誰も気づかないし文句なんて言わないわ」
ここ数週間、ミライは生徒会からのヘルプとしてフェスティバル実行委員会に出向いていた。
圧倒的なコミュ力と生徒会権限を使い、3人がアルスと出店を周る上で完璧とも言えるルート配置へ委員会を誘導したのだ。
「で、お2人はちゃんと告白の準備––––できたのですか?」
「わたしは大丈夫よ、アルテマ・クエストでもう9割告ってる身だし。ぶっちゃけ超余裕ッ」
「そうですか、では––––」
ユリアの視線が、流れるように横の銀髪っ娘へ向いた。
「アリサっち、例の心拍数上がると発作みたいに出る変身癖は直せたんですか?」
「言い方ッ! こう見えてちゃんと頑張ってきたよ。ミライさん」
「はーい、ラジャ」
ミライが私物タブレットを取り出し、バイト中に隠し撮りしたアルスの写真を映した。
以前の彼女ならば、ここで一気に目も髪も紫色へ輝いただろう。
––––しかし、
「あら、銀髪のままですね……」
「どうだユリ! ちゃんと最低限の制御はできるようになったんだよ。これでアルスくんと2人きりになっても大丈夫!」
「驚きました……、この短期間に一体どうやったんです?」
「ミライさんと一対一でぶん殴り合った!」
「こないだの公式戦……そんな理由でやってたんですか」
素直に驚くユリア。
成果を見せれたことでドヤ顔全開のアリサへ、ミライはタブレットをしまいながら話しの続きを行う。
「ってなわけで、この通り懸案事項は無事消滅したわ。2人が良ければ、この配置で実行委員会にGOサイン出すわよ?」
「構いません、よろしくお願いします」
「燃えてきたぁッ! 行っちゃってミライさん!」
2人からの返事を受け取ったミライは、紙ごと机を大きく叩いた。
「決行は当日––––トップバッターはアリサちゃん、2番がエーベルハルトさん、そして最後に……わたしッ。絶対成功させるわよ!」
各々、そして様々な思惑が入り乱れる。
––––大魔導フェスティバルまで、あと18日。




