第191話・異世界研究部の憤慨
『異世界研究部』。
それはあるかもわからない、ぶっちゃけ存在するかも怪しい文字通り”異世界“について研究している部だ。
「異世界研究部の部長さんが、この繁忙期にわざわざお出迎えとは……どういう要件でしょうか?」
かつてこいつらの不祥事で苦い思いをしたユリアが、牽制するような口調で迎え撃つ。
部長であり3年生のニーナは、ユリアと対して変わらない幼げな身長でありながらも全く引かない。
制服の上に着た白衣を翻し、大きく叫ぶ。
「何とはなんだ! 決まっているだろう、忌まわしき悪の生徒会へ抗議しに来たんだ!」
「悪の生徒会て……いつの時代のフィクションだよ」
「現在進行形のリアルだ! 良いかねイージスフォード生徒会長、わたしたちは今学期の待遇について甚だ憤慨しているんだ!」
「っと言うと?」
「まず予算だ! いくら何でも5万レルナぽっちはあんまりだろう! こんな金額でどう研究を進めたら良いんだ!」
「えっと……あとは?」
「次に部屋!! 我々の部室が旧校舎のボロい倉庫というのは納得がいかん! 改善を要求する!!」
指差しでご立派な抗議文を叫ぶニーナ。
相手は三年生だが、俺は学園トップたる生徒会長として当然の反論を粛々と開始した。
「まず予算だが妥当と考える」
「なっ、なぜだ!?」
「部の学期毎予算は、前学期におけるその部がおさめた功績に基づいて決められている。お前ら……何やったか覚えてるよな?」
「ウっ……!」
校庭で召喚魔法を行い、ドロドロくんとかいう訳もわからんモンスターを出現させた行為は論外そのもの。
ユリアに関しては宝具を故障させられた事件なので、予算カットは妥当どころか優しすぎるくらいだ。
「それに部室の改善つったって、やってるのは魔法陣敷くか読書くらいだろ? 誰が見ても今のままで十分だと思うぞ」
「我々がやっているのは偉大な異世界捜索だ! 魔法陣は平行世界を探るために必要な古代の術式で、読む本も異世界由来とされているものだ! バカにするな!」
「部活動発展に必要なのは実績だ、来年にでも異世界旅行ができるようになったら考えるが?」
「め、目先の利益を求めて長期研究を怠った国は衰退するんだぞ!」
「お前が大学や研究機関を気取るんじゃねえ、問題しか起こさない部に渡す無駄金は1レルナもない。話は以上だ」
歩き去ろうとする俺たちを、流れるような銀色の筋が止めた。
「やはり悪の生徒会……ッ、弱小部を徹底的に絞る様はヘドが出るな」
ニーナが腰から抜いたのは鋭利なレイピアだった。
どの視点から見てもわかる、いわゆる脅しというやつだ。
ここまで見守っていただけのユリアが顔色を変える。
「貴女……会長に刃を向けること、それがどういう意味かちゃんと理解しているのですか?」
「もちろんよ悪の副会長、学園1位と2位だか知らないけど––––古今東西、悪は正義によって断罪される!」
レイピアの先端が、俺たちへ勢いよく向いた。
「お前たち2人を”公式戦“で破って、生徒会に支配されるこの腐り切った学園をわたしが変えてみせる!!」
どうやらニーナの目には、俺たちがフィクションあるあるの極悪強権生徒会に見えるらしい。
本気で中二病こじらせてんなぁ……。
どうするかと悩むより早く、隣に立つユリアが一歩前へ出た。
「良いでしょうニーナさん、貴女からの公式戦……今ここでお受けしますよ」
「フンっ……威勢が良いな、2位に転落したお前なんか瞬殺して、すぐに生徒会長も倒してやる!」
「わたしを倒して会長に辿り着く?」
「あぁそうだ! 叩き伏せて下着丸出しになるまで痛めつけて、最後は地面に這いつくばらせてやる!」
「フフッ––––ご冗談を」
瞬間、宝具『インフィニティー・オーダー』を顕現させたユリアが冷笑を浮かべた。
「わたしを倒せるのは、この世で竜王級ただ1人しかいないんですよ? 本当に理解ってないんですね」
覇気が冷たい“殺気”へとなだれ落ちるように変わる。
豹変、いや……変異という表現すら生易しいほどに。
––––忘れていた。
ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトという人間は、俺と出会うまで学園トップの最強にして最恐。
あのミライすら半殺しにした、最も容赦のなき魔導士だということを。




