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第189話・ガーディアン・ルール作戦発動

 

 王立魔法学園生徒会が、なんだかんだ来たるフェスティバルに向けて準備をしている頃。

 街は通常の様子を一部切り取ったような様相を見せていた。


「こちらオーダー戦闘団CP(コマンド・ポスト)、全制圧部隊の配置確認せよ」


 陽も沈み切った王都、1週間前にアルスとセント・レグナム学園が戦闘を行ったこの公園一帯は、無数のテントと軍用車両で溢れていた。


 ライトに照らされる天幕へ、1人夜闇のように黒い軍服を着た男が入った。


「目標区画の封鎖は完了したかい?」


「問題ありませんラインメタル大佐、既にルールブレイカー王都支部は完全包囲しました」


 公園に展開していたのは、アルト・ストラトス海兵隊及びミリシア陸軍だ。

 ここは現在、前線指揮所として機能していた。


「よろしい、ミリシア近衛連隊も待機中とのことだ。他部隊は?」


「ミリシア各地方都市への同時攻撃準備完了、ファンタジア制圧隊、カプリチオ制圧隊、コンチェルト制圧隊、スケルツォ制圧隊––––突入準備よろし」


 時刻は深夜。

 アルト・ストラトス王国軍およびミリシア軍は、1つの巨大な作戦を発動しようとしていた。


 ミリシア政府の安保適用に応じる形で発動された、『ガーディアン・ルール作戦』。

 王国全土のルールブレイカー支部を、一斉殲滅する攻撃プランだ。


「さて、向こうさんは気づいてるかな?」


「まだ支部まで伝わってないでしょう。民家に偽装したセーフハウスでワインでも飲んでる頃です。屋根上で警戒している魔導士の姿はあります」


「愚か極まるとはまさにこのことだね。では連中に教えてやろう––––軍隊が咬ませ犬になるのはフィクション世界のみだとな」


 瞬間、時計の針が深夜2時を差した。

 あらゆる事象が同時に起きる。


 ––––ダァンッダァンッ––––!!!


 響き渡る銃声。

 屋根上から身を出して警戒していたルールブレイカー所属の魔導士たちは、額へ慈悲もなく風穴を開けられた。


 見張りが魔法を発動する間も無く、音速を超える対人ライフル弾が数カ所から同時に発砲されたのだ。


「おい!! 何が起きた!?」


 ルールブレイカー王都支部 支部長にして、魔人級魔導士であるバリアンは飲んでいたワインをグラスごと落とした。

 すぐに部下が地下の大部屋へ駆け込んでくる。


「襲撃ですバリアンさん!! 軍の狙撃で5人がやられました!」


「バカな!? 市街地だぞ! 人口密集地なら軍も手出しできないって話だったろ!」


 筋肉質な肉体をソファから上げる。


「しかし、現に今襲われてる! すぐに迎撃しないと––––ウワッ!?」


 大きな揺れが天井から埃を落とした。


 セーフハウスの防御が破られたのは一瞬だった。

 防護魔法のついた扉は、設置式爆薬でいとも簡単に吹っ飛ばされ、待ち構えていた魔導士ごと破壊する。


 同時に2階のガラスから、ロープによる懸垂降下で兵士が次々に突入した。


「ぎゃあっ!!?」


「があぁっ!」


 9ミリサブマシンガンが、魔法発動よりも早く魔導士たちを射殺する。

 まさに濁流が押し寄せるがごとく、セーフハウスの地上階はたった1分で制圧されてしまった。


 この間だけでワイバーン級魔導士12人、エルフ王級魔導士2人がこの世から退場する。


「スカッド様に報告だ!! 通信魔法の回線開け!!」


「そんなことしたら位置がバレます!」


「奴らはアルト・ストラトスの特殊部隊だ! とっくにバレてる! 残りの人員は『フェイカー』をすぐ袋に集めろ!!」


 付けた人間に宿した能力を付与する人口宝具『フェイカー』。

 ここ王都支部には、魔人級の物も含めて100個余りが保管されていた。


「既に買い手もついてる! 奪われればスカッド様の野望を支える資金が消滅するも同然だ!」


 バリアンの指示で各々が行動するも、銃声はみるみる内に接近してくる。

 間に合わない––––そう判断したバリアンは、棚に陳列してあった『フェイカー』を乱暴に漁り出す。


「こちらルールブレイカー王都支部! 緊急事態発生! 現在襲われている! 建物を放棄して脱出する許可を!」


 背後で通信魔法を開く部下も気にせず、バリアンは必死で目的の物を探した。


「どこだっ! どこだどこだどこだ……!!」


 完全な奇襲攻撃、こんな不利なシチュエーションでかなう相手じゃない。


「家具をバリケードにしろ!! 鉄扉封鎖!! 籠城だ!!」


「なんとしても商品を守るぞ!!」


 懸命に最善手を探す彼らだが、死神はすぐそこまで迫っていた。


「うぐああっ!!?」


 部屋を守る頑強な鉄扉が、周囲の人間ごと指向性爆発によって粉砕された。

 通路の奥から発射された個人携行対戦車弾、通称パンツァーファウストによる攻撃だった。


「待てっ! 助け––––ぎゃあっ!?」


 けたたましい音と共に、銃撃が部屋へ飛び込んでくる。

 通信魔法を使っていた者、フェイカーを集めていた者が蜂の巣にされた。


 その中で、バリアンは煙の燻る奥にあった1つのフェイカーへ手を伸ばす。


「うおおおおおっ!!」


 掴むと同時に発動。

 バリアンの体は、部屋へ充満する煙のように跡形もなく消え去った。


 残ったのは、彼を除く魔導士たちの死体と大量のフェイカーのみである。


「1人逃したか……」


 硝煙の奥から姿を現したのは、アルト・ストラトス海兵隊ともう1人。

 この国において、大英雄の名で知られる人間だった。


「こちら制圧隊。ラインメタル大佐へ、1匹なんらかの手段で逃げおおせたようです」


 《了解したグランくん、『フェイカー』はあるかね?》


「えぇ、それはもう大量に……これがすべて売られたらと思うとゾッとします」


 《君はすぐにそれだけ持って引き上げてくれ、後はこちらの海兵隊で処理する。連中の資金源はこれでかなり潰せただろう》


 ––––大魔導フェスティバルまで、あと30日。


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