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第185話・2人の偉人は語り合う

 

 アルスVSセント・レグナム学園。

 ミライVSアリサ。


 たった1日で行われた2つの激戦は、王都を文字通り大きく揺らした。

 その内の後者にあたる後始末を終えたラインメタル大佐は、深夜に再び演習場へ訪れていた。


「…………」


 巨大なクレーターを中心に、荒んだ地面が見渡す限り広がる。

 これが、たった2人の少女の戦闘が引き起こした結果だと言うならば––––


「畏怖の1つでも覚えましたか? 大佐」


 隣へいつの間にか立っていたのは、大学教授然とした風貌にバーテンダーのような服装をした男。

 彼の質問へ、ラインメタル大佐はクスクスと笑いながら応答する。


「あぁ、もしここが無人の演習場じゃなかったらと思うと……素晴らしくゾッとするね。私や君のように国家へ隷属(れいぞく)してくれるなら安心できるんだがな––––グランくん」


 問われた大英雄は、すぐさま真意を見抜いて叩きつける。


「国家は暴力を独占したがる……という意味ですか?」


「そうだ、ところで君の方はちゃんと後始末できたのかい?」


「公園のセント・レグナム学生は全員重傷者なし、土地の修繕もフォルティシアがやったとのことです。問題はありませんよ」


「セント・レグナムもよく竜王級に挑もうと思ったものだ、聞けば彼はホウキであそこまでの出力を叩き出したのだろう? よく死亡者が出なかったな」


「ホウキだったからこそ……あの程度で済んだのでしょう、大佐もお覚えでは? 彼が剣や魔法杖を持てばたちまち死者を量産してしまう。ああ見えて慣れない武器は破滅を呼ぶと心得てるんですよ」


「そういえば、最初に私のところへ来た時もそんな案件だったな」


「えぇ、我々は彼の絶対的な理性によって大きく助けられています。銃やスコップ、ホウキを持たせて力の制御ができるなら今まで通りそうすべきです」


「全く最近の若者は怖いね、だが頼りにもなる」


 しゃがみ込み、足元の焦げた地面を触る大佐。

 煤のようになってしまったそれは、手で持つと脆く崩れ去る。


「いよいよ始めるのですか? ミリシア全土における闇ギルド掃討オペレーション––––『ガーディアン・ルール作戦』を」


「大魔導フェスティバルの裏で、粛々とやらせて頂く。だから君にも……いや、この国の王族たちにも協力してもらいたい」


「既に第一王女アイリ・エンデュア・ミリシア様を含め、王政府は貴国へ安保適用による掃討協力を要請していますよ」


「あっはっは! 私が聞きたいのはそういうことじゃないんだよグランくん……いや。“王族近衛連隊長殿”?」


「……どういう意味ですかな?」


「母国の大地に46センチ砲弾を降り注がせ、戦略弾道ミサイル攻撃すらもいとわないという––––覚悟があるか確認したい」


「ッ……、それほどの事態になると。大佐は予想しているので?」


「想定は最悪がベストだよ、我々アルト・ストラトスは神を否定し消し去った国だ。だから神の再誕だけは必ず防がねばならない。つまり––––」


 ラインメタル大佐は、黒く焦げた土をグランへ見せつけた。


「君たちが我々を忌避した瞬間、安保同盟は根本から消え去る可能性があるのだよ」


「……相変わらず、貴方がたは合理主義の権化だ」


「この国には不確定要素が多すぎるんだよ、だから我々は常に最悪を想定している。“竜王級の暴走……そしてそれを止めるための核兵器使用”までね」


 冷たく笑う異国の大佐へ、グランは顔色を変えずに土を取った。

 そして––––カレンと同じ青い炎で消し炭にする。


「想定は結構ですが、こちらからも言わせていただきましょう」


 グランは向き合った軍服の男へ、強い意志でもって相対する。


「我々ミリシアはとうに覚悟などできています、必要とあれば艦砲射撃でも核攻撃でも許可しましょう。それが秩序に繋がる限りどこまででもです」


「ほぅ……」


「そして1つ忠告を。竜王級は国家が意志でもって止めることができない唯一の存在です、核兵器でどうにかできるのはキールの如しバカな国家までです。あえて言うならそもそも––––」


 グランの言葉は、ラインメタル大佐へ事の無意味さを伝えるに十分だった。


「彼の意志と力をもってすれば、貴国の誇る戦略核攻撃すら徒労と化すでしょう。考えるだけリソースの無駄です」


 眼前の大英雄の言葉を受け、大佐は纏う空気を緩ませた。


「うーむ、そうバッサリ言われてしまうと……彼を知っている私としても同意しかないんだ」


「知ってました、慣れない演技はしない方が賢明かと」


「そもそも、アルト・ストラトス内では私が一番のイージスフォードくん推しだと言うのは君も知ってるだろう? 竜王級暴走など、マクロの世界でトンネル効果が発生するのと同じくらいの現象だ」


 つまり絶対にあり得ないという意味だろう。


「ではなぜ今さらそんな確認を?」


「さっきも言ったが覚悟を知りたかった、いくら闇ギルド掃討のためとはいえ……我が国の正規軍が実行するからね。主権国家として大事な確認だよ」


「全く、お互い大変ですね……」


 この会話で大佐は、さりげなくアルスという竜王級魔導士を恐れる派閥が、アルト・ストラトス内にあるということを教えてくれた。


 そして、闇ギルド掃討に全力を出すということも。


「お互い人事を尽くそうグランくん、けどひょっとしたら––––」


 演習場を後にしつつ、ラインメタル大佐は軍帽子を被り直した。


「彼がまた我々の出番を奪ってしまうかもね」


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