第184話・ミライVSアリサ 公式戦!
今日という日は、巨大な街がひたすら大きく揺れ動く日だった。
––––ズゥンッ!! ドゴォンッ––––!!!!!
それは比喩ではなく、実際に王都が揺れているのだ。
アルスとユリアが、特別講師として1日働くことが決まったのと同時刻––––
「今日の王都はよく揺れるなぁ……」
タブレットを向けながら、必死に動きを追うラインメタル大佐。
王立魔法学園の誇る演習場は、暴力的なまでに強力な魔力の嵐に見舞われていた。
それはミライVSアリサという、超豪華カードによる公式戦の舞台だったからだ。
広範囲に渡って走る稲光、その先端で杖を持った少女が野を突っ走る。
「だっりゃああああッ!!!」
『雷轟竜の衣』に変身したミライが、雷のような速度で蹴りを打ち込んだ。
「ぐぅっ……!!」
それを正面から腕だけでガードしたアリサは、足裏で地面をえぐりながらブレーキ。
すぐさま体勢を立て直した。
「やるねぇミライさん! 電気みたく腕にビリビリ来るよっ!」
快活な笑顔で八重歯を覗かせるアリサは、髪も瞳も完全な紫色。
ベアトリクス少佐を一撃で倒した変身、『魔壊竜の衣』だ。
「けどまだまだだねっ! そんなスピードじゃ今のわたしは倒せない! せいぜいビリビリ止まりだ!!」
彼女の身体を、烈火のごとくオーラが覆った。
「スピード頼りの攻撃だけじゃ、腕相撲でもわたしが勝っちゃうね!」
「言うじゃない! だったらお望み通りデッカいのあげるわよ!! ––––『レイドスパーク・フルスロットル』!!!」
ミライが杖を大きく振った瞬間、爆撃のような雷の雨がアリサへ降り注いだ。
通常の魔導士なら瀕死に至りかねない出力だが、黒煙からは全く無傷の少女が悠然と歩き出てくる。
「どんな攻撃魔法も、わたしには一切効かないよ」
思わず舌打ちするミライ。
聞いた話によると、入学試験時にはあのアルスの攻撃魔法すら消し去ったらしい。
大小に関係ないというのは、本当のようだ。
「そんなんじゃ––––」
跳ね上がった身体能力で、アリサは一気に肉薄した。
オーラを帯びた肘が振り下ろされる。
「わたしが先にアルスくんへ告っちゃうよ! ミライさん!!」
すかさず杖で防ぐ。
だが真横からいきなり、無防備な脇腹へ衝撃が襲った。
「ごふっ……!?」
杖に掛けた重心を支えに、アリサの回し蹴りがめり込んだのだ。
吹っ飛んだ先で膝をつき、思わず咳き込むミライ。
「同じ竜の力でも、相性的にわたしの方が上みたいだね」
「いったたぁ……っ、アリサちゃんこんな強かったんだ。でもこっちだって––––」
再び加速したミライは、杖による物理攻撃でアリサへ襲いかかった。
「アルスに完成した姿見せて、堂々と告白してやるんだからッ!!」
「上等ッ!! 負けないよミライさん!!」
互いが獣のように獰猛に、激しく竜のパワーでぶつかり合う。
その中心にある想いは、今この場にいないアルスという1人の男へ向けられていた。
一応最初は能力制御が目的だったはずなのだが、戦う内にドンドンヒートアップ。
最終的に、どっちが先に告れるかを競うようになっていた。
「わたしが先ッ!!」
「ムグッ!!?」
ミライによる速度の乗った蹴りが、アリサの腹部へ命中。
強い衝撃で吐き出しかけた胃液を咄嗟に飲み込み、カウンターでミライの脇腹へ拳を叩きつける。
「ゲッホッ……!」
「いいや……、わたしだね!」
よろめくミライへ、アリサは容赦なく拳撃の乱打を浴びせた。
しかしこちらにも意地がある! そう言わんばかりにミライも反撃。
凄まじい肉弾戦の応酬となる。
「今時の女の子は肉食だなぁ……いや、これもまた青春の一ページか。イージスフォードくんも罪な男だ」
審判のラインメタル大佐は、魔力の嵐に動じもせずタブレットを向け続ける。
しばらく互角の戦いを繰り広げる両者だったが、やはりというか差は出てきた。
「あぐっ!!」
攻撃をまともに食らい、地面を転がったのはミライ。
近接戦専門のアリサ相手では、どうやっても彼女が不利になってしまう。
だがそんなことは千も承知、ミライは杖に残った魔力を集中させた。
「これで決める……っ、最後に地面に突っ伏してるのはあなたよ!!」
「その意気込みだけは買うよミライさん!! じゃあわたしも––––全力で迎え撃ってやる!!」
アリサを覆う紫のオーラが、さらに大きく燃え上がった。
「滅軍戦技––––!!」
竜の力の行使者が、己が身で使える最高必殺を繰り出す。
先に発動したのはミライ。
「『天界雷轟』!!!」
本来は異次元規模の出力で放つ雷属性攻撃魔法、しかしミライはこれを自身の足裏で一点に爆発させた。
直接当てても無効化されるなら、運動エネルギーに変換するまで。
彼女の身体は砲弾と同じ原理、だが砲口初速1500m/sの徹甲弾よりも遥かに速い超々高速で突っ込んだ。
無論、それを見切れないアリサではない。
全身全霊の力を右手一本に集約し、竜すら昏倒させる一撃を打ち放った。
「滅軍戦技––––『追放の拳』!!!」
両者の大激突は、王都の地震観測所にマグニチュード4を記録させるほどの衝撃だった。
これは、数時間前にアルスが公園でセント・レグナム学生に向かってホウキを振った時と同じ値である。
舞い上がった砂塵が、風でゆっくり晴れ上がっていく。
そこには––––
「あうぅ……っ」
「んにゅう……っ」
ミライとアリサ、双方が仰向けになって気絶していた。
2人の纏っていた変身が解け、アリサは銀色の髪という普段の姿へ。
ミライも髪の明るさが落ち着き、発生していたスパークもフッと消え去る。
「これは……引き分けだな、彼女たちの覚悟はまさに本物か。恋する乙女の拳は重いぞ––––イージスフォードくん」
タブレットに録画した映像を確認すると、ラインメタル大佐は2人を担いで医務室まで歩き去った。
後にこの戦闘動画はユグドラシルの学園公式アカウントにてアップされ、大反響の末100万再生以上されることとなる。
そして、これが原因で新たなイベントが巻き起こるのだが……それはまだ少し先の話。




