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第182話・公式戦

 

『公式戦』。

 それは王立魔法学園において、学内ランキングを直接変動させる実践的な試合。


 魔法や体術、武器の使用も相手を殺さない限りはどこまでもOKというかなりヘビーなもの。

 過去にはアルスとユリアが、これにおいて歴史的な激闘を繰り広げていた。


「公式戦……わたしとアリサちゃんでですか?」


「あぁ、僕が思うに力を扱うヒントがそこにあるんじゃないかと……内心思っている」


「えっと、ラインメタル大佐……いえ特別顧問。こう言ってはあれですけど、バトル漫画じゃないんですからそう都合よくいきますかね……?」


 怪訝そうな顔のミライは、公式戦に対し消極的なことが伺えた。

 その理由として、彼女が最後に行った公式戦はあのユリアが相手だった時のものだからだ。


『アンタを倒して学園1位の座は頂くわ! エーベルハルト!』


 調子に乗って吐いたセリフは、もはや思い出すのも辛い黒歴史である。


 当時は未完成の飛翔魔法で意気軒昂に挑んだ結果、今のように仲も良くなかったユリアは、ミライを意識不明の重傷に至るまで容赦なく打ち倒した。


 最近話をする中で、ユリアはミライにちょっとやり過ぎたと反省する様子を見せている。

 が……それでもミライの中では既になかなかの恐怖体験として刻まれており、ユリアと関係改善がなされても、公式戦をまだどこか気持ち的に避けている節があった。


「ふむ、君の言いたいことはもちろん理解しているよ。わざわざ戦闘などしなくても上手くいくんじゃないか……だろう?」


「まぁ……はい、そうです」


「ではこういう例えだったら、私の言いたいこともきっと伝わるんじゃないかな。ミライくんは創作を嗜んでいたね」


「はい」


 ラインメタル大佐のタブレットに映ったのは、彼自身が読んでいるであろう戦記小説の表紙絵だった。


「机に座って唸るばかりでは、生まれるアイデアも生まれないだろう? そういう時君はどうする?」


「うーん……身体をめいっぱい動かして、とにかく他のことやったりしてインスピレーションが降りてくるのを待ちま……あっ」


 目を見開いた彼女は、大きく大佐を見上げる。


「身体を動かす……動かして理解する。つまり戦闘用の変身を理解するのに、非戦闘特訓ではあまり効果がない……そういうことですか?」


「さすがに理解が早い、イージスフォードくんもここにいたら……多分同じ考えに至ると思うよ? 彼に本気で気持ちを伝えたいんだろう? 私に言わせれば––––もう躊躇している場合じゃないと思うがね」


 大佐の言う通りだった。

 自室にこもって唸るばかりだと、決して発想は進化しない。

 これは自分の得意な創作と同じだ。


 全力で力を使い、本気で身体を動かした方が魔力の流れも掴みやすいに決まっている。


「……わかりました、アリサちゃんッ」


 振り返ったミライは、魔力節約のために元の姿へ戻っていたアリサの目を見た。

 彼女はどこか得意気に、言葉を先に発する。


「先に言っとくけどミライさん、今のわたし––––数ヶ月前に比べて相当強いよ。その辺ちゃんと覚悟できてる?」


「それはこっちのセリフよ、わたしは現在8位であなたは7位。……いい加減変動させるべき時期だわ」


「言うねぇ」


 ペン型魔法杖に電流をほとばしらせ、その先端をアリサへ向ける。


「学園ランキング7位、アリサ・イリインスキー。あなたに今ここで––––公式戦を申し込みます!」


 闘志の宿った笑みが、アリサの顔へ浮かんだ。

 普段の姿からもう一度一変––––髪も瞳も紫色へ染まり、変身の衝撃波と共に力強い返事は届いた。


「受けて立つよ、学園ランキング8位……ミライ・ブラッドフォードさん。そういえばアルスくんにしかまだ伝わってなかったね」


 激しいオーラに包まれた拳を、凛々しい顔の前へ持ってきながらアリサは一言。


「わたし––––友情は拳で語れのタイプなんだ」


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