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第181話・なんとしても運命の告白がしたい女の子たち

 

 ––––王立魔法学園 魔法演習場。


 かつてここは入学前のアルスが試験を行い、当時勢い全開だったアリサが彼に勝負を挑んだ場所である。

 もちろん、結果は完全敗北のそれであったが……。


 今となっては通常授業で用いる物のほかに、アルスが生徒会長権限で造らせたライフル・トレーニングエリアまで完備する広大な敷地。


 その草原エリアで、2人の少女が息を切らしながら汗をかいていた。


「さすがに……ゼェッ、これ相当キツいよミライさん。ちょっと休憩しない?」


 疲労困憊といった様子のアリサが、水筒を手に進言。

 その格好は制服じゃなく、学校指定の半袖シャツと紺色のクォーターパンツ。


 俗に言う体操服だった。

 既に暑さも相まってか、汗が大量に染み込んでいた。

 もし制服でやっていたら、大惨事だっただろう。


「そうね……、じゃあ10分だけ休憩しましょうか」


 同じ格好で草原に座ったミライが、自分の水筒に口をつける。

 アリサに至っては一気飲みであった。


「はふ〜っ! 水うめ〜! まさか魔力完全に封じての運動がこんなにキツいとは。けどごめんねミライさん……思い切り付き合ってもらっちゃって」


「いいわよそんな、竜の力の制御はお互い課題なんだし。できることは何でもしましょう」


 アルスとユリアが中央通りブランドへアポを取りに行った頃、彼女たちは特訓に励んでいた。

 目的は竜の力の制御。


 既にかれこれ1時間以上、2人は魔力を使わないウォーミングアップを行なっていた。

 それもこれも、これから行うことの前座だ。


「じゃあ体も馴染んできたし、そろそろ本命の特訓やってみようか。アリサちゃん!」


 水を飲み干し、容器をバッグに入れたミライはやおら立ち上がると両手を広げた。


「顕現せよ!!」


 覇気のある声と共に現れたのは、ミライの持つアーティファクト……未だ名も無きペン型魔法杖。

 古代帝国跡地で、アルスに貰った誕生日プレゼントだ。


「血界魔装––––『雷轟竜の衣』ッ!!」


 演習場に雷が駆け回った。

 ポニーテールにまとまった茶髪は一気に明るさを増し、瞳はエメラルドグリーンへと変わる。


 全身にスパークを纏う姿は、まさしく竜の力の具現者だった。


「さぁアリサちゃん、次はあなたよ。ゆっくりで良いからなって見せて」


 変身を終えたミライの正面で、お尻についた葉っぱをはたいていたアリサが両拳を握る。


「はっ!!」


 気合い一閃。

 彼女を紫色の光が淡く包んだかと思うと、まばたきした瞬間それは爆発した。


「血界魔装––––『魔壊竜の衣』!!」


 銀色だった髪が、青だった瞳が––––ほんの一瞬で紫色に変化した。

 さらには全身を、まるでバーナーのようなオーラが覆う。


 しばらく互いの姿を見つめあった2人は、同時にため息をついた。


「ダメね……」


「こっちも同じく〜、全然興奮がおさまらないや」


 2人は竜の力が、激しく精神状態に影響することに最近気づいていた。

 なので、非魔力依存のトレーニングで心身を統一した後から変身をしてみたのだが……。


「わたしはどうしても杖が必須だわぁ……、自力じゃ全くダメみたい」


「それってある意味制御できてんじゃない? わたしなんて興奮とウズウズが変身中ずっと凄いんだよ? しかも魔力めっちゃ消費するし」


 とりあえず、ウォーミングアップは無意味ということだけがわかった。

 こんな調子では––––


「「アルス(くん)にいつ告れるんだろう……」」


 思わず声が重なる。

 2人がここまで必死なのは、この目的のためだ。


 ミライはもっと成長してから彼に運命の告白をしたい。

 一方でアリサは、日常生活中にコロコロ変身してしまうので好意がうっかりバレそうになる。


 こんなことではユリアのような、悔いなき告白などきっとできない。

 せっかく得た力に、振り回されっぱなしの女の子たちだった……。


「だが、そうして行動に移すのは大変素晴らしいと言えるよ」


「「ッ!!?」」


 魔力の奔流が入り乱れる演習場を、顔色1つ変えずに歩いてきたのは真っ黒な軍服を着た若い金髪の軍人。

 メガネの奥の碧眼は、優しくこちらを見ていた。


血界魔装(けっかいまそう)か……、ずいぶんと懐かしいじゃないか。なるほど噂に違わぬ凄まじいパワーだ」


「ラインメタル特別顧問……!? どうしたんですか?」


「いやなに、生徒会長のイージスフォードくんに用事があって来たんだが、どうも今は留守らしいね」


「うん、アルスくんとユリは今日ずっとアポ取り中だよ……」


 それよりも、2人はラインメタル大佐の言葉が気になった。


「この力……血界魔装について、何かご存知なんですか?」


「死んだ竜の残した力というのは知っている、昔……大隊長時代だ。部下に1人同じ力を使う女の子がいたんだ」


「へぇ、どんな子だったんですか?」


「常にアクティブで明るい子だったよ、ちょうど今の君たちみたいな運動しやすい服装をずっとしていた。今はもう訳あって遠い場所に帰ってしまったが……それより」


 大佐は魔導タブレットを取り出すと、2人へ向けた。


「君たちが知りたいのは、その子がどうやって力を制御していたか……ではないかね?」


『ピピッ––––計測完了、魔力評価S。総合判定……魔人級魔導士』


 タブレットは、ミライとアリサ本来の判定よりさらに上の力を示す。


「竜王級の前に立つには、真に竜である必要があるんだろう? だったら答えは1つしかないじゃないか」


 ラインメタル大佐はタブレットを下げると、ニンマリ頬を吊り上げた。


「竜同士のガチンコバトルだ、君たち2人––––今からここで“公式戦”をやってみたまえ」


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