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第180話・大賢者との再会

 

「こりゃまた、どえらく派手にやりおったのぉ〜」


 上空から発せられたのは、落ち着いた老人風の口調。

 しかし美声とも言えるそれは幼気があり、本人自身も老いとは無関係な容姿をしていた。


「全く、美麗がウリの公園がまるで空爆の後じゃな」


 宙に浮かぶ板へ腰掛け、薄い金色の髪を風に揺らす魔法使い然とした一見13歳の少女。

 だが彼女は、俺たちの知っている遥か年上の大先輩だった。


「ルナ……フォルティシア師匠!?」


「よぅユリア、久しいと言うほど時も経っとらんが、元気そうで超嬉しいわい」


 大賢者ルナ・フォルティシア。

 温泉大都市ファンタジアで、ユリアの宝具を直してくれた古の大魔導士だ。


 その実力は超天才のユリアに迫るほどであり、今さっきセント・レグナムの連中を圧倒した『魔法能力強化(ペルセウス)』でも割と苦戦した実力者。


「お、お久しぶりです……フォルティシアさん。なぜあなたがわざわざ王都へ?」


「なぁに息抜きの仕事じゃよ、そこで気絶してる奴ら––––セント・レグナム学園に特別顧問として呼ばれたまでよ」


「特別顧問……っ」


「別に不思議な話ではないじゃろ? そっちにはあの元勇者ジーク・ラインメタルが特別顧問として雇われてるらしいではないか。こう見えて古の大賢者であるしの、未来ある若者に貢献せねば」


「じゃあ、もしかしてこいつらが俺たちへ難癖つけてきたのって……」


 目を回しながら気絶するグラハムたちを見下ろす。


「一応止めたんじゃがの……、カリキュラムの最後に竜王級魔導士を呼ぶかもしれんと言ったら、先走ってこの有様じゃ」


「では師匠、このゲス共は……」


「愚かにも実力を過信したアホ共じゃよ、後で全員連れ帰って生徒指導室行き決定ゆえ、ここはワシが引き受けよう」


 それは助かる。

 正直この人数をどう後処理しようかと迷っていたので、フォルティシアさんの登場はまさしく僥倖(ぎょうこう)だ。


「しっかし……、まさかホウキを持って戦うとは思わなかったわい。エリート魔導士軍団がおぬしの前では埃扱いか」


 空飛ぶ飛行板––––彼女謹製の魔導具である『ぶっ飛び君3号』から降り、焦げた地面に細い足でトンと立つ。


「フフンッ、“ある物は何でも使えるし何にでも有用だ。”ウチの会長––––引いては王立魔法学園生徒会が誇る座右の銘ですっ」


 なぜか隣のユリアが、したり顔でそう言って見せる。

 ぶっちゃけ俺の貧乏癖から生まれただけの言葉だが、小さい身体で胸を張ってるのがすごく可愛いから黙っとこう。


「それ、要するにただの貧乏癖ではないか……」


 言ってる側からツッコまれた。


「そ、そんなことありませんよ師匠! これは節制とエコを志すモデルケースとなるべき理念です! 世に蔓延る大量生産大量消費に対するアンチテーゼ、今ある資本主義社会に打ち出す新しい環境主義の先駆けです!」


「いや飛躍し過ぎじゃろ……、むしろ貴族のおぬしは庶民から風刺される側じゃろうて」


「関係ありません! わたしはこの会長の思想をいずれ別大陸まで広げ、世界中の環境大臣を傀儡にしてでも理念を浸透させます!」


「おいアルスや、おぬしの“彼女”がなにやら熱烈に語ってくるんじゃが……なんとかせい」


 華奢な右手に、宝具『インフィニティー・ハルバード』を具現化する大賢者。

 その顔は若干引き気味なご様子。


「いや、確かにあの理念は俺の根本ですが……ん? ちょっと待ってください! 今なんと!?」


「彼女が彼氏について熱く語ってくるのを、数千年独身のワシが聞くのは辛いものがあるんじゃ。サッサと止めてくれ」


「じゃなくって! なんで俺とユリアが恋仲なの知ってんですか!! まだ教えてないですよね!?」


「わかるじゃろ雰囲気で、大体ファンタジアに来た時だってあのミライとか言うヤツと既にほぼ恋仲だったではないか」


 何てこった……、そんなに今の俺ってそういう系のオーラ出てんのか。

 激しくうつむく俺の横で、フォルティシアさんが宝具に魔力を宿らせた。


「まぁそれはさておき、今回の騒動はワシの監督不行き届きなところがある。とりあえずこの公園くらいは––––」


 そう言って、小さな大賢者は身の丈より大きなハルバードの(つか)を地面へ突き立てた。


「ワシが戻してやろう」


 公園中を魔法陣が覆ったかと思うと、次の瞬間には焼け野原だった地面に新緑が生い茂った。

 見渡せば、噴水や道などの設備も全て元に戻っていく……。


 これは––––


「なぁに、簡単な時間魔法じゃ。このワシを誰だと思っておる」


 10秒も経つ頃には、公園が戦闘前の穏やかな姿を取り戻したではないか。

 すげぇ……もし俺にこんなことができたら、もう周囲の被害を一切気にしなくて済む。


「大賢者の名は伊達ではない……か、さすがはユリアの師匠ですね」


「まっ、ファンタジアの戦闘じゃおぬしに負けてる分……せめてこのくらいは威厳を見せんとな。ところで––––」


 幼女なお年寄りは、ある意味で年齢相応の笑みを俺へ向けた。


「例の量産予定にある『魔導照準器(ホロサイト)』についてじゃが……。試算によればいっぱい純利益が出せそうでな。分け前について話を––––」


 とても嬉しそうに呟くフォルティシアさん。

 その言葉が出た瞬間、俺の脳は光速で自分の頭を下げるよう命令した。


 何故なら––––これから売りに出す予定のそれを、俺はアリサ救出のためにアルト・ストラトスへ大量譲渡すると、彼女に無断で約束してしまったからだっ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いい無双でしたwww [一言] のじゃロリ師匠の、スンッと無表情になる反応を見てみたいっ笑 目を開けたまま気絶するかもですねw
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