第179話・VSセント・レグナム学園
公園でゴミ掃除をするだけのほのぼの回です。
「「『飛翔魔法』!」」
全方位から迫る攻撃魔法。
ユリアと一緒に、俺は包囲陣の中央から空中へ飛び出す。
足元の大爆発を味方にして、焔のドームの頂上まで一気に跳ね上がった。
「さて、連中どうしてくれようか……」
邪悪な笑みを隠さない俺を見て、ユリアは浮遊しながら呆れ顔。
下には、こちらを呆然とした表情で見上げる学生たち。
「飛翔魔法もできない人たちです、わたしまで加わったらオーバーキルも良いところなので、会長が戦う様子を大人しく見ときますよ」
「あぁ、ぜひゆっくりしといてくれ。アイツらがユリアをどうこうしようなんざ––––1万年早いと教えてくる」
「お願いします、正直ナンパでは過去一番腹が立ちましたし」
ユリアが俺の右手を掴んだ。
「ゲス野郎に身の程を教えましょう」
珍しく丁寧台詞を捨てたユリアが、回転と同時に俺を地上目掛けてぶん投げた。
迎撃の魔法が飛んでくるより早く、俺は公園に隕石がごとく突っ込んだ。
「うわああぁぁッ!?」
その衝撃だけで複数の魔導士が同時に吹っ飛ぶ。
土煙の中心で、俺は膝を上げながら笑った。
「さて、どいつから来る? どんな武器で戦う? なんでも良いぞ––––剣でも魔法でも銃でもなっ」
「おっのれぇ……!! だが聞いているぞ! その紅い変身は魔法だけが強化されるとな! であれば肉薄して即終了!! 近接戦闘もできない竜王級など恐るるに足らず!!」
グラハム含めた6人が砂塵を切って、装飾の豊かな剣や杖を振った。
「『高速化魔法』」
俺は全周から繰り出される剣撃を、残像ができるほどの速度で避けた。
そして、
「わからねえか、こっちはあえて––––」
相手の一太刀が終わる時間より速く、俺は6人全員の溝落ちへ蹴りを浴びせた。
「ごはっ!?」
「ガフッ!!」
連中から見れば、全方位へ同時に蹴りを繰り出したように映っただろう。
包囲していた学生が、男女平等に砲弾がごとく弾き飛ぶ。
「身体能力上げずにそのままでやってんだよ、セント・レグナムの意地? 大変結構、なら––––」
俺は近くのゴミ箱に立てかけられていた、清掃用のホウキを掴んだ。
「テメェらには、我が王立魔法学園の聖剣をプレゼントしてやろう」
清掃用ホウキが、魔力コーティングによってリーチと硬度を激的に変化させる。
これに関しては全く加減してないので、おそらく戦車砲弾でも壊れない聖剣の完成。
「グッ……ふざけた真似を……!! おい! ヤツに致命打を与えた部は来学期の予算増額だ! 掛かれ!!」
「へぇ、そうやって釣ってたのか。正直褒められた行為じゃないぞ」
「く、喰らえ! 我ら魔法研究部の共同秘奥義––––グランドクロ……」
魔法陣を展開した数人の女子生徒たちは、詠唱することなく宙を舞った。
俺が軽く振り下ろした聖剣が、横にした竜巻のように彼女たちを衝撃波で吹っ飛ばしたのだ。
後にできたのは、焔の壁まで一直線に伸びた土の道。
「じ、地面が……あんなにえぐれっ」
俺は手に持ったホウキを、縦横無尽に振った。
本当にたったそれだけのことであるが、発生する斬撃は魔人級の爆裂魔法にも引けを取らない威力。
「なっ! なんなのよこれ! こんなデタラメ––––あぐっ!?」
掃除でもする感覚で、セント・レグナムのエリートたちを次々戦闘不能にしていく。
数の劣勢など、俺にとって心配するファクターにすらなり得ない。
渾身の防御魔法も、カウンターで放たれた攻撃魔法も、術者含めて薙ぎ払った。
「どうした、変態生徒会長……数で囲めばいけるとでも思ったか?」
さっきまでの威勢が消滅し、放心状態で立ち尽くすグラハム。
再び空中へ浮き上がった俺は、ホウキを今一度両手でガッチリ握った。
紅色の魔力が放出され、地響きが発生する。
「俺が今までどれだけの魔人級魔導士と戦ったと思ってる、お前らは確かにエリートかもしれんが……ハッキリ言って素手のユリアの足元にも及ばねえ」
輝くホウキを天高く伸びる十字架のように持ち上げ、雲すら消し飛ばす魔力の光が紅く王都を照らす。
必死で支え合いながら、立ちあがろうとする連中へ照準をゆっくり定めた。
「神聖セント・レグナムなんだろう? 変態生徒会長と金銭目当てのゲス部員共––––ほら。テメェの神にでも祈れよ」
世のゴミ共へ向けて、俺は聖剣を真っ直ぐに振り下ろした。
「あぁ……女神アルナ様、大天使様……どうか、我らに救いとご慈悲を……っ」
諦め泣きしながら、生徒会長グラハム率いるセント・レグナムの学生たちは光に飲み込まれた。
ドームの中を爆裂波が覆い尽くし、王都全体が地鳴りで揺れ動く。
「––––高い授業料だったな、俺の慈悲でいくらかは割引いといてやる」
『魔法能力強化』解除。
煙が晴れたそこは、さっきまで公園“だった”焼け野原。
あちこちで、セント・レグナムの学生たちが全員土と瓦礫にまみれて気絶していた。
「お疲れ様です、最後の攻撃は神の姿を借りた悪魔みたいでしたよ」
空中の安全圏から降りてきたユリアが、苦笑しながら俺の隣に立つ。
「神より慈悲深いと思うけどな、一応全員脳震盪だけで済ませれたし。まぁそれでも3日はろくに動けんだろうが……」
「手加減のコツは掴めましたか?」
「そこはまだまだだな、けど殺すわけにもいかんだろ。ほら」
俺が指差した場所は、空中。
「これ以上やったら、あそこの人が黙ってないし」




