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第178話・セント・レグナム、生徒会長グラハム

 

「狼藉を働いた……? どういう意味だ」


「そのまんまの意味だよ、お前たち––––中央通りブランドと協賛するつもりなんだろう? 今年の大魔導フェスティバルでな」


 セント・レグナムの生徒会長グラハムは、金属製の杖を向けたまま俺たちを睨む。

 周囲を見渡せば、同じ緑色をしたコートを着る学生たちが包囲網を築いていた。


「あそことの協賛は既に俺たちが狙っているんでな、君たち王立魔法学園にはぜひ退いてもらいたい。異論は一切認めない」


「ずいぶんと理不尽なことですね、もしや狼藉と言うのは……」


「お察しの通りだ副会長さん、ここ12区は俺たちセント・レグナムの庭と言っていい。お前たち他区校の余所者が––––幅を利かせるべきじゃない」


「ふふっ、セント・レグナムは随分とジョークの授業に力を入れていると見えますね」


「なにっ?」


 露骨に顔をしかめるグラハムたちへ、ユリアは冷笑を浮かべながら見渡す。


「聞こえませんでしたか? たかだか1区内で吠えるセント・レグナム如きが––––わたしたち王立魔法学園の前に立てば決して火傷では済みません。火遊びは他所でやってはいかがです?」


「警告とでも言うつもりかっ!」


「いいえ、これは親切心ゆえの忠告です。我々学園生徒会はフェスティバルと公約実行のため、必ず中央通りブランドと協賛します」


「なるほど……つまり意志は揺るがないと」


 俺たちを囲むセント・レグナムの学生たちが、一斉に武器を取り出した。

 数は––––18人。


「グラハム会長! こうなったら実力行使しちゃいましょう! この人数ならいけます!」


 魔法陣を容赦なく展開する女子生徒たち。


 いずれも向こうの生徒会にそそのかされて、安易に加担しているといったところか。

 一応全員が中間レベルのワイバーン級、グラハムとやらだけがエルフ王級魔導士といった感じ。


「お前ら––––実力に自信があるのは大変結構だが、一応言っておくぞ」


 俺はめんどくささも隠さず、自分の首元を撫でる。


「ユリアの忠告は聞いた方が良い、公約実行が大切なのは同じ生徒会長ならわかるだろ? 一応ここ民主主義国家なわけだしさ」


「フン、ならばこちらも同じことよ……この区で勝手をすることは、我がセント・レグナムの敷地を踏み荒らすも同じ。ただ––––」


 魔力の宿った杖を、グラハムはユリアへ向けた。


「噂に違わぬ可憐さと美貌……そこの副会長さんが、今度我がセント・レグナム生徒会室に赴いてくれるなら見逃してやっても良い」


「……どういう意味ですか?」


「簡単だ、“俺の女になれ”。そうすれば他区の生徒と言えどこの区を好きに闊歩できるようにしてやる。協賛でもなんでも見逃してやるぞ?」


「ッ……!」


 グラハムの言葉に、俺の中で何かが決心される。

 それは何か激しい音、理性で制御できない化け物が解き放たれた音。これをあえて世間一般の言葉で言うなら––––


「ちょーっと君ら、今一度確認したいんだけどさ……」


 堪忍袋の尾が切れた音だ。

 俺は一歩前へ出た、顔にはこびりつくような笑み。


「本当にできてるのか? 自分の人生全部賭ける覚悟がさ。もしどこぞの捜査官よろしくできてないなら––––」


 俺の身体から、心情を具現化したように『魔法能力強化(ペルセウス)』の紅い魔力が噴火のごとく噴き出した。

 振り上げた手を、勢いよく振り下ろす。


「気絶した後にでも後悔するんだな」


 クソ広い公園全体をドーム状に、六角形の焔が一瞬で囲んだ。

 最強の防御魔法––––『イグニール・ヘックスグリッド』。


 これで部外者の出入りも干渉も、中のゴタゴタすら外には漏れない。


「俺の大事な家族に手出したのが運の尽きだ、言っとくがもう逃げられんぞ」


「この甘美な申し出を拒否するとは愚かなっ! 上等だ!! セント・レグナムの意地を見せてやれ!!」


 俺へ向けて一斉に、炸裂、電撃、炎の攻撃魔法が機関銃の斉射がごとく撃ち出された。


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― 新着の感想 ―
[一言] あ、終わったな。 こいつら知らないようだけど、相手から手を出させる為の挑発ですよね。 正当防衛成立するんだし、人数かけるのはいいけど、通常のメンバーだったら勝ち目はあるよね、通常のメンバ…
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