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第177話・突然の来訪者

 

「なんとか交渉のアポだけは取れたな……」


「そうですね、上手くいくと良いのですけど」


「ユリア、それ上手くいかないフラグだ……」


 放課後、俺とユリアは2人して豪華絢爛な建物から出た。

 賑やかな中央通りの端には、この店を目当てとする客が大勢––––見える限りでも100メートルくらい先まで列ができている。


 さすがは王都の誇る『中央通りブランド』。

 客層は女子ばかり、平日なのにここまで賑わうもんなのか……。


「なにも不思議じゃありませんよ、中央通りブランドはわたしの母国……ヴィルヘルムでも羨望の対象です。ミリシアの菓子は美味いものだと世界に広めた企業ですから」


「さっき店の中チラッと見てみたが、ホールケーキ1つ取ってもあんなに種類があるんだな」


「そうですね、ラインナップからも非常に商魂があると伺えました。それだけに協賛が嫌いだなんて……ちょっと不思議です」


 今回のアポ取りも、あくまで話を聞く程度ならレベルでのことだ。

 単に学生を無下に追い返したというイメージを持たれたくないからだろうが、けれども一歩前進と言って良い。


 でもそれだけ––––


「こだわりが強いんだよ、自分たちの力だけで客を集めて舌を唸らすって信念がある。だから生半可な所じゃ取り合ってすらくれないらしいぜ」


「大陸トップの学園の、しかも会長と副会長であるわたしたちが直接出向いてやっとですからね。それだけレベルに自信があるんでしょう」


「ちと過剰過ぎる気もするがな……。もう後の祭りだが、ここまでリソース食うなら別の公約にするんだった。ホントに別の企業じゃダメか?」


 若干期待を込めた俺の声を、ユリアは無情にも跳ね除けた。


「いいえダメです、会長は学園1位だったこのわたしを打ち負かして生徒会長になったんですよ? そんな超天才のわたしに勝った人が、公約ごときに屈するなんて絶対認めません」


「お前も大概意固地だよなぁ」


「前にも言いましたよ、わたしは貴方が選んだ副会長として––––必ず全公約を会長に履行してもらう義務があります。そのための補佐は微塵も惜しみません」


「それに」と、ユリアは柔らかい笑顔を俺に向けた。


「こうして頑張ってる会長の姿が……凄くカッコよくて好きなんです。ずっと考えて唸ってる横顔から……もう目が離せないんです」


 不意打ち。

 あまりに破壊力が強い一撃に、俺は神速で反対方向を向く。


「い、いきなりなんだよ……っ。俺は別に普段通り過ごしてる結果こうなってるだけだ。銃触りたいっていう私欲でなったとはいえ、一応会長だしな」


 雑踏の中、ユリアは胸に手を当てながら隣を歩く。


「そこがたまらなく良いんですよ。自分の求める結果をひたすら追いかけて、必死に苦労する……けれどその過程で絶対に負けない。そんな無敵で最強な竜王級魔導士が––––わたしはひたすらに大好きなんです」


「正直、お前に惚れられるとは最初思ってなかった……。反対も然り」


「当然でしょう、だって最初の関係は––––敵意と武器を鋭く向け合う”敵“同士だったんですから」


「不思議なもんだな、この状況を数ヶ月前の自分に見せてやりたい」


「えぇ、全く……」


 俺とユリアは、通りを外れて王都30管区が管理する広い公園へ出た。

 互いに目で周囲を確認し合う。


「囲まれたな……」


「どうしますか? 魔導士モドキのようなテロリストだと少し厄介ですけど」


「そのために人がまばらな公園に来たんだ。オイッ!」


 俺は未だ通行人のフリをする”そいつら“へ向けて、明確に声を向ける。


「なんのつもりか知らんが、用があるなら直接言って来ればどうだ。っつかストーカーやるならせめて私服でやれ私服で!」


 俺のツッコミに、周りを歩いていた20人近い通行人––––否、同い年くらいの学生たちが全員で一斉に振り向いた。


「さすが竜王級と言ったところだな、恐るべき目をしている……!」


「いや全員制服で尾行してきたら普通に気づくわ……」


 リーダー格と思わしき茶髪の青年は、森のような緑のコートを基調とした格好で杖を具現化する。


「その制服……神聖セント・レグナム学園の生徒ですね、国内有数の著名校が一体なんの用でしょう?」


 セント・レグナム……。

 確か大手ギルドへの就職をサポートする、かなりの有名校だ。

 王立魔法学園に比べれば規模は劣るも、十分実力を持った人材がいると聞く。


「俺は神聖セント・レグナムの生徒会長グラハムだ。単刀直入に言わせてもらおう––––貴様らは俺たちの敷地で狼藉(ろうぜき)を働いたのだ!」


 杖の先端を向けながら、グラハムは勢いよく叫んだ。


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