第176話・紛糾!王立魔法学園生徒会
ユリアとの喫茶店デートから数日経った。
いよいよ学園は来たる大魔導フェスティバルに向けて、準備がなされ始める時期だ。
この祭りは、ハッキリ言って他校のそれと規模からして違う。
王都全体が協賛する、もはや国の一大イベント的位置付けだ。
なので、それにあたる準備もまた膨大だった。
「くっそ……、困ったな!」
生徒会室の机で、頭を抱える俺へソファーに座ったミライが顔を向ける。
「どうしたの? もう万策尽きた宣言は聞きたくないんだけど」
彼女もまた、机に大量の用紙を散らばせていた。
ミライ1人だけじゃない……会計であるアリサも反対側の席でひたすら書類と格闘しており、副会長のユリアも生徒会室と職員室を朝からずっと往復している。
全てフェスティバル関連の仕事だ。
役員たちでこれなのだから、会長である俺はもはや昼食すらまともに摂れていない。
ゆえに、朝から合計で3回も俺は紛糾していた。
「万策尽きたって言いたい……こういう時の定番ネタだろ」
「もう飽きたから、同じネタ繰り返すと鮮度が落ちるわよ」
「くっそ、じゃあお前ならどうすんだよこれ」
余裕のない俺の姿が珍しかったのだろう、こちらまでやって来たミライは投げ出された数枚の用紙を取る。
その顔が一気に曇った。
「フェスティバル実行委員からの増員要請……しかも生徒会から出せ!?」
「あぁ、なんでも……最後のシメで超どデカい花火とイルミネーション魔法を使いたいらしい。王都中に影響するわけだから、実行委員に生徒会役員を寄越せってさ」
「それはキッツイわね……、こっちだってずっとこの調子だしとても増員なんて……。あのエーベルハルトさんですら疲労で帰りたがってるレベルなのよ?」
そう、あのユリアですら現在進行形で根を上げているキツさなのだ。
おまけに––––
「っ…………」
ここまで、アリサはただの一言も喋っていない。
あの、あのアリサがである! ミライいわく超集中時のモードらしく、さっきから無言でペンを動かし続けている。
「あと30分ちょいで一区切りつきそうだけど、この後に労働とかちょっとできる気しないわぁ……」
茶髪と一緒に肩を落とすミライ。
まさかここまで忙しいとは誰も思っておらず、俺もミライもアリサもバイトのシフトをそのままにしていた。
時刻は既に午後5時過ぎ……、6時から10時までバイトが今日もある。
あれ……これって。
「万策尽きてね?」
「もう飽きたそれ〜っ。っつか実行委員のヘルプまじどうすんの? いっそ蹴る?」
俺の机にうなだれるミライ。
「こればっかりは蹴れんだろ……。キツいだろうが頼めるかミライ?」
「全体ブリーフィングと協賛企業の調整に顔出すくらいならギリ……、でも本気でそれ以上は無理よ」
「悪い、俺は俺で結構ヤバいやつが控えててもう胃が痛えんだわ……」
そこまで言って、聡いミライはすぐに察した。
「あぁ……例の“公約”ね、発案者はわたしだけど多分手伝えない……ごめん」
ミライの言う公約とは、俺が生徒会長候補として立候補するにあたって女子層に発したもの。
超人気スイーツ店、名を『中央通りブランド』との協賛。
その交渉をしなければいけないのだ。
「超大国の次は、協賛嫌いな意固地ブランドとの交渉か……本当はこういうの苦手なんだよぉ」
実はヤバい時なら公約など無視しても一向に構わないのだが、そこは生徒会長選挙で俺に敗れたユリアが決して許さない。
しかし––––
「我らが学園の誇る最強格––––アルス&エーベルハルトさんが2人掛かりで行っても、……キツいでしょうね」
そう、この中央通りブランド……超が付くほどにこだわりが強い。
今さら大衆の俗を意識しているのか、大きなイベントには頑として出てこないことで有名なのだ。
「せめて……、あともう1枚手札があればなぁ……ッ」
中央通りブランドを動かすだけの材料か人物が、あと1つ足りない。
どっかにいないか……。
「マスターは……ダメだろうなぁ、既にキールの騒動で色々借り作っちまってるし。今回は頼れない……」
結局その日はなんとか事務作業だけ終えて、生徒会室の鍵を閉めることになった。
「「「「つ、疲れた……っ」」」」
俺たち生徒会4人は、重い足取りで揃って学校を出る。
そんな万策尽きた状態の俺へ、”強襲イベント“が発生したのは実にこの3日後のことだった。
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