第170話・友人の再会
「こっちに来るのは……久しぶりになるのぉ」
王都中央駅から出てきたのは、腰のさらに下まで伸びた薄い金髪を下げる女性。
手には小旅行用のスーツケースが握られており、群衆に紛れてホームを出て行く。
魔法使い然とした見た目の彼女を不審がる人物はいないが、声を掛けるものは1人いた。
一見大学教授を思わせる風貌の彼は、傷だらけのキューベルワーゲン––––その運転席から手を振っている。
「やぁ、まさかこっちに来ているとは思わなかったよ」
「なんじゃおぬしか……、別に迎えを頼んだ覚えはないぞ? なんせ仕事で来ただけじゃからな」
「フーン、仕事ねぇ」
車に乗った男は、怪訝そうな顔をする見た目13歳前後の女性へ、タメ語を崩さず胸あたりを一瞥した。
「ラインメタル大佐の言ってた通り、本当に君は歳をとらないんだね。さすが古の大賢者なだけある」
「相変わらず失礼なヤツじゃわい! おぬしは人生の大先輩にもう少し敬意を払うべきではないか? そもそも前と言っても会ったのはせいぜい2年前の春ではないか!」
「そういえばそうだった、僕が起業したばかりの喫茶店に勤める初代アルバイト店員が君だったあの頃だね。楽しかったなぁ〜」
「一応聞くが……どうじゃ景気は? アルスとミライ……あと妹もたまに働いてると聞くが。3人のバイト代以上の稼ぎはあるのかえ?」
「はっはっは! 赤字も赤字さ、君のポーションや魔導具の売上に比べれば象とアリんこレベルだよ。でも潰れはしない。絶対にね」
「竜王級がいる限り……か?」
「そもそも半分それが目的で作られた喫茶店だからね、ギルドから理不尽に追放された有望株の受け皿となる。喫茶店ナイトテーブルの掲げた初期構想だ」
「もう半分は?」
「完全に趣味だよ、ラインメタル大佐に敗北して自殺すら考えてたナーバスな時期がちょっとあったろ? その時たまたまいた大佐の元部下に言われたんだ……『もし理不尽に追放でもされた子を見つけたら助けて欲しい、なんならいっそ喫茶店でもやってみないか』とね」
「巡りめぐってとはまさにこのことじゃな、おぬしの今の“上司”とはその時に?」
「あぁ、もし国家すら超える希代の人材を見つけたら絶対に保護すると契約した。彼女の身辺警護も含めてね––––大英雄としての責務だと今は思ってる」
「じゃあ喫茶店の赤字補填分は、全てその上司から出てるというわけか。やれやれ……世の真面目な経営者から殴られても知らんぞ?」
「店の目的によって、趣旨はいくらでも変わるということだよ。僕が喫茶店経営を楽しめ、かつアルスくんに住む場所を与えられてる時点で……売上などなんの意味も持たない」
「大英雄の話はドライ過ぎてつまらんわい、雑談に乗ってやったお礼に目的地まで乗せてけ」
「ご、強引だなぁ……っ」
バッとキューベルワーゲンの助手席に飛び込む女性。
「そういえば仕事と言ってたね、どこに行きたいんだい?」
レバーを動かす運転手に、小柄な女性は席にもたれながら指を差した。
「こう見えて大賢者で名が通っておる、ラインメタルのヤツが特別顧問を頼まれたのと同様、ワシにもオファーが来たまでじゃよ」
地図で示された場所は、広大な敷地を持つ施設だった。
魔法を学び、一流の魔導士を輩出する目的の––––いわば学園だった。
「大魔導フェスティバルまでの暇つぶしに、ちょうどいいわい。どんなカリキュラムを組んでやろうか」
大賢者は幼い顔に笑みを浮かべると、脳裏に自分を負かした竜王級魔導士を過ぎらせる。




