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第164話・新たなる息吹、2学期始動!

 

 ––––新学期。

 それは新たなる始まりの息吹であり、長くて短い学生たちの青春詰まった夏休みが明けた瞬間である。


「久しぶりー! めっちゃ肌焼けてんじゃん〜」


「お前イメチェンし過ぎだろ! 誰かと思ったわ!」


 一ヵ月という時間は、人間自身ももちろんだが人間関係すら大きく変える。

 登校した生徒たちは新たなカップルだの、イメチェンだので話題をたちまち沸騰させている。


 そんな熱気の中、まず2年A組に姿を現したのは銀髪の少女だった。


「おっはよーう!! みんな久しぶりー!!」


 生徒会会計、アリサ・イリインスキーだ。

 本来彼女は今日ここに来れない、処刑により死ぬはずの人間だった。


 しかしアルスたちの計画が達成され、彼女は釈放––––公安の監視が数ヶ月続く程度の減刑で済んだのだ。

 地下牢獄で、夢にまで見た……最高の現実であったが。


「ヤッホー、メディア部たちも元気かい〜?」


「元気もなにも、お前どうした……! その怪我!」


 クラスメイトたちの目に映ったアリサは、身体のあちこちに包帯を巻いたなかなかに痛々しい姿。


「いや〜……今日登校するために、めっちゃ頑張ったからね〜」


 またぞろヤンチャでもしたのかと普通なら思うが、クラスメイトは即座に先日の騒ぎを思い出す。


「もしかして……! ファンタジア事変か!? 聞いてるぜ! お前ら生徒会が闇ギルドの奴らと戦ったんだろ!?」


 男子生徒の声に、しばしの間思案したアリサはニッと笑う。


「そんなとこ、まぁこうして登校してるわけだからさ。みんな無事だし安心して」


「やっぱウチの生徒会すっげえ!!」


「当たり前でしょ、なんたってあの生徒会だもん!」


 やはり、先日の王都での救出戦は隠されているのだなと悟る。

 たしか、アルスくんが突入した収容所にも相応の理由が付けられていたはずだ。


 聞いた限りでは、警務庁の教導部隊が行った抜き打ち侵入訓練ということになったそうである。

 セキュリティから何から強化するらしいが、竜王級相手に彼らを責めても可哀想なのは王政府もわかっているとのこと。


「そんなわけで、一応怪我しちゃったアリサちゃんはしばらくわたしが面倒見るってわけよ」


 後ろに立っていたのは、ちょうど入室してきた生徒会書記。ミライ・ブラッドフォードだった。


「おはようミライさん、ごめんね新学期早々……色々面倒、よろしくお願いします」


 両手を合わせて詫びるアリサに、ミライは首を横に振った。


「全然いいわよ、むしろアリサちゃんには夏コミでコスプレについて勉強させてもらったままだったし。ヲタ友として全力で援護するからねっ」


「ミライさん……!!」


 ヒシッと抱きつき合う2人を見て、教室内もとりあえずの落ち着きを見せる。


 そこへ、唐突に声が掛けられた。


「ずいぶんと元気そうじゃないか、生徒会メンバーは」


 幼い声色を発したのは、森林と同じ髪色をしたセミロングの少女だった。

 身長は2人と同じくらい、その目はどこか忌々しげである。


「誰かと思えば、異世界研究部の部長じゃない。名前は確か……」


「ニーナだ!! いい加減覚えろ! それよりどうなってるんだそこの会計さん!!」


「へ? 何が?」


「へ? じゃないが! 今学期の異世界研究部(ウチら)の予算––––1学期の3分の1以下なんだがどういうことかね!?」


「当たり前じゃん、校内でいきなり異世界の化け物……名前ドロドロくんだっけ? 召喚したんだから。廃部とか同好会落ちしなかっただけだいぶ情け掛けたよ?」


 時系列は遡ること夏休み前––––

 この異世界研究部が召喚した化け物を、生徒会が必死の思いで処理したのだ。


 おまけにユリアは宝具まで壊れたのだから、ファンタジアへ行くことになったのも、ほとんどこいつらの不祥事のせいである。

 予算減額は当然だった。


「ッ……!! とにかく! 異世界研究部としては活動に支障が出かねない! 生徒会長のアルス・イージスフォード君を出したまえ!」


「あ〜……それが今アルスは––––」


 ミライが言いかけたところで、校内放送が教室に響き渡った。


 《これより始業式が始まります。全校生徒は上履きに履き替えた後、総合体育館に集合してください》


 淡々とした放送が終わる。


「と、とにかく……! 我々は現状の予算に極めて遺憾と言わざるを得ない! 後で生徒会室にも行くから!」


 それだけ言い残して、ニーナは2年A組の教室を出ていく。

 この辺りで、勘のいい生徒は……気づき始めていた。


「これより始業式を始めます、礼! 着席」


 まず最初は学園長のテンプレートなお話で始まり、次に今学期から始まる各種イベント。

 特に、“大魔導フェスティバル”についての内容が重点的に語られた。


 そして、生徒たちはずっと感じていた違和感の正体に気づく。


「最後に、生徒会からのお知らせです。“副会長”ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトさんがお伝え致します」


 壇上に立ったのは、金髪が煌びやかになびく可憐な女の子。

 王立魔法学園ランキング総合2位、生徒会副会長でもある天才魔導士のユリアだった。


 だが、本来その隣でお知らせを喋るはずの生徒会長––––アルス・イージスフォードがどこにもいない。

そういえば……朝から全く見かけていなかった。


 彼が所属する2年A組はもちろん、生徒会室、休み時間によく行く隣の演習場……。


 そのどこにも、この学園のトップに君臨する竜王級の姿はなかった。


いつも読んでいただきありがとうございます。

今回より新章です、引き続きの応援と良ければ感想のほどよろしくお願いします!!

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