第163話・キールの結末、クラーク捜査官の最期
今回の騒動に対する関係各所の行動は、非常に速かった。
まず当事者のキール共和国––––
「どういたしますか首相……」
「どうしたもこうしたもないだろう……」
自身の執務室で、頭を抱えて文字通り唸るキール首相。
アルス達により計画の全てを粉砕され、失敗を悟った政府上層部は、計画を主導していたゴルシコフ党書記長の命をアッサリ投げ売った。
既に大使館からは、ゴルシコフ書記長本人の遺体収容が報告されている。
かろうじて彼を切り捨てることで、与党への大ダメージは避けたものの……。
「アリサ・イリインスキー元少尉を捨て駒にした“初代竜王級調査計画”。その全てが頓挫し消し飛んだんだ。おまけに……」
眼前の紙は、ミリシアとアルト・ストラトスの連盟で出された要求書類。
向こうで捕まったベアトリクス政治少佐、およびセヴァストポリ政治少佐、さらには派遣した特殊部隊の身柄引き渡しに関してだった。
内容は簡潔。
「返して欲しくば、我々が貴国へ輸出する工業・魔導製品全般の関税を今すぐ撤廃しろ」。
正直言ってクソ喰らえと叫びたい気持ちだった。
ただでさえ計画が看破され、潰され、あまつさえ調べ上げた内容を竜王級がアルト・ストラトスに渡したのだ。
この上でさらに貿易面でも絞り上げるというのか……!
首相の胃袋は、まさしくいつ穴が空いてもおかしくないレベルでストレスに晒される。
「生徒会室の下に爆弾を仕掛けただけで、竜王級の生殺与奪権を握ったつもりになっていた……。本当は逆だったというのか?」
嘆く首相は、天井を仰ぐ。
要求書には、アルト・ストラトスの名でこうも書かれていた。
絶対的な力と正義をバックにした、刺激的過ぎる文言。
「もし貴国が我が『連合王国同盟』の加盟国内で再び武力行使を行えば、海外資産凍結も含めた大規模金融制裁、海上封鎖、果てには”核攻撃“も辞さない。貴国の賢明な判断を期待する」
首相は遂に机へ突っ伏した。
一方のミリシア王国内では、1人の元捜査官が屈強な警務官に両脇を押さえられていた。
「離せ! ふざけるな!! 俺は悪くない! 全部ヤツに––––キールの連中に騙されてやったんだ!!」
地下の収容所でやかましく喚いていたのは、クラーク元捜査官。
己の行ってきたあらゆる汚職がバレ、さらにはキールの国内活動を支援していた事実が発覚。
放り込まれたのは……“死刑囚専用の独房”だった。
「黙れ、貴様には外患誘致罪の判決が下された。全ての手続きが完了次第––––お前は死刑となる」
「死刑だと!? やめろ!! 金なら払う!! 俺は愛国心が強いんだ、竜王級やアリサ・イリインスキーにもちゃんと謝罪する!! だから……ッ」
涙と鼻水でグシャグシャの顔を鉄格子から向けて、必死に懇願する。
『外患誘致罪』とは、言ってしまえば外国の敵を引き入れた者が下される最も重い罪だ。
ミリシアにおいては、これまで100%死刑となっている。
当然だろう……ベアトリクスとセヴァストポリの国内闊歩を許し、キール製銃器の国内搬入、あげく特殊部隊の入国まで手伝ったのだから。
「助けてくれ!! 死にたくないッッ!! 俺はこんなところで終わる男じゃない、こんな死を待つだけの時間なんて過ごしたくないッ!!」
つい先日までのアリサと、完全に立場が入れ替わってしまった。
「助けて……!! 誰かっ……!」
クラークとアリサが明確に違う点。
「自業自得だろ、売国奴め……」
それは、全力で助けてくれる仲間の有無だ。
罪を重ね、アリサを蹴り、嘲笑った彼にそんな人間は存在しない。
ゴミを見る目で吐き捨てた警務官は、地下の収容所を後にする。
「やめろおおおおおぉぉおッ!!!! ここから出せッ! 俺は次期局長なんだぞ! ここで––––終わりたくないんだッ!!」
彼の人生はここでおしまいである。
あの日、生徒会室に踏み込んだ時点で決まっていた運命と言っていい。
少女を出世の踏み台として死刑にしようとしたら、自分が死刑になっていた……。
クラーク・ミルドゥク元捜査官は、この4日後に銃殺刑でアッサリその生涯を終えた。
奇しくも、アリサ・イリインスキーに彼が申請した銃殺という執行方法で彼は処されたのだ。
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