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第162話・ラインメタル大佐VSゴルシコフ書記長

 

「気に食わんな……、竜王級をそこまで無条件に信頼できるほど、超大国とやらは思ったより甘ちゃんなのかな?」


「甘ちゃんなのは貴国でしょう、銃や爆弾を突きつけて言うことを聞かせられるのは––––」


 ラインメタル大佐はまばたきするより早く、間に横たわるテーブルを蹴り上げた。


「無防備な市民だけです」


 ゴルシコフがサイレンサー付きハンドガンを連射するも、空中へ浮き上がったテーブルに防がれる。

 それどころか、蹴りの勢いそのままで彼の体に激突した。


「ぐぅっ!?」


 鈍い痛みと共に倒れ込む。

 だがここはキールの大使館だ。

 倒れ込んだ書記長は、すかさず大声を上げようと息を吸い込むが……。


「無駄だ」


 気づけば、部屋全体を防音魔法が覆っていた。

 非常に小規模であるが、その分全く気がつけなかった。

 慌てて落とした拳銃を拾おうとするも、ゴルシコフの右手は軍靴に踏み潰される。


「ぐおあぁああぁッ!!?」


「イージスフォードくんに防音魔法の類を教えたのは私だ、もう勇者ですらなくなり魔法も思うように使えないが……無力だとでも思ったのかい?」


 骨の潰れるグロテスクな音と。ゴルシコフの絶叫が響く。

 それでも部屋は完璧に防音され、扉1枚隔てた通路ではなにも異常がない。


「答えは否だ、その点イージスフォードくんは他人の実力を測ることのできる人間だったよ。私の戦闘力と権力を正当に評価し、真っ向から交渉を行ってきた––––驚くほどに達観した青年だ。そこがキールという愚かな国家との違いだよ」


「ぐっがぁ……! ふざけるな! 貴様は、貴様らは……竜王級という国家すら凌ぎかねない力を放置するのか!? それは国家滅亡への最短コースだぞ!」


「そんな傲慢な考えだから、貴様らはいつまでも発展途上国なんだよ」


 大佐が着る漆黒の軍服から、これまた銃種は違うものの拳銃が取り出される。

 銃弾は、一切の躊躇なくゴルシコフの右肩を撃ち抜いた。


「アガアアアアアァァアアッ!!?」


「彼は我々すら驚くほどの力、何よりそれを自ら律する気丈な意志を持っている。貴様らキールが猛々しくコントロールしていた気になっていたのも、全て幻想なんだよ」


「幻想だと? 後悔するぞ……! 我々はいつでも竜王級率いる生徒会を葬ることができるんだぞ……ッ」


 ゴルシコフは痛みの裏で大きく笑う。

 自分の指示1つで、王立魔法学園の生徒会室は跡形もなく吹っ飛ぶ。


 なにせ、あの部屋の真下には––––


「もしかして、これのことを言っているのかい?」


 ラインメタル大佐が内ポケットから取り出したのは、1本の小さい矢……金属製フレシェットだった。

 ゴルシコフの顔が、血の抜けたように青ざめていく。


「そ……れはっ」


「君たちが生徒会室の直下に仕掛けていた“遠隔操作式爆薬”、および“対戦車時雷“、ならびに”122㎜フレシェット弾頭“……生徒会長の要請で全て撤去させてもらった」


 ラインメタル大佐の悪魔のような笑みの裏に、アルスの顔が過ぎった。

 まさか……ここまで、そんな!


「どうやって……。どうやって撤去した!! 少しでも触れれば即起爆するよう仕掛けたのだぞ!


 それに対する大佐の答えは簡潔だった。


「我が国の爆弾処理班(EOD)を舐めないでもらいたい、貴様の国とは技量が違うんだよ。イージスフォードくんは実にそのあたりもよくわかっていた」


 ゴルシコフの太ももが、銃弾により抉られた。


「ガッ!!!」


「ルール・ブレイカーに協力したのも、アルスくんの能力を奪わせ、買い取る算段だったんだろう? 実にいい手だが––––」


 眼鏡の奥で碧眼を不気味に覗かせながら、大佐は照準を定めていく。


「市場の自由がない、コミーらしい発想だったな」


 銃口がゆっくり、上へあがっていった。


 ––––あ、アルス・イージスフォード……ッ! ヤツはただ魔力が高いだけの愚鈍ではなかったというのか!


 走馬灯すら遮り、ゴルシコフは己の過信と間違いをひたすら反芻(はんすう)し続けた。


 ––––ヤツは戦略家であり、天才的な政治家ですらあるッ、”戦いの終わらせ方“を理解している竜王など––––この世の誰に手が負えるというのかッ!!


 心中をアッサリ読んだラインメタル大佐が、白い歯を見せた。


「竜王級アルス・イージスフォードは、人類最強の意志でその力を完璧に律している。それは我らアルト・ストラトスと、ミリシア王国が100%保証するものだ」


 恐怖と出血で、抵抗もできずに涙を流すゴルシコフ。

 トリガーの遊びが、ゆっくりと絞られ––––


「ご都合主義な幻想は、始めから砕かれていただけだ」


 頭部を撃ち抜かれたゴルシコフが、その場に肉塊として倒れ込む。

 マガジンを抜き、スライドを引いて残弾をキッチリ処理しながら大佐はフレシェットを指でつまんだ。


「君の命は、既にキールのトップから見捨てられている。トカゲの尻尾切りとしてね……せいぜいあの世で後悔するといい」


 振り返りざまに捨てられたフレシェットが、絶命したゴルシコフ書記長の傍で音を立てて血溜まりに沈む。


「喧嘩を売る相手を、間違えたとな」


 セヴァストポリの秘密ケースを持って、ラインメタル大佐は部屋の扉を開けた。


「契約完了だ生徒会長、これでキールは二度と……君たち生徒会に手を出せない。彼らは知るだろう、竜王級は国家を利用し国家をも超えるとね」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラインメタル大佐、かっこええ… これはいよいよ前作を読み始めないとね… 元勇者の力が弱くなっていたとしても、強いと。
[一言] え? 骨が潰れる音って密度にもよりますけど、いい音じゃないですか?
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