第159話・秘密の暴露
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「よっ! アルスくん」
気絶したクラークの手足を縛っていると、後ろから声が掛けられた。
「そっちは……終わったようだな」
「おかげさまでね」
アリサが抱えていたのは、さっきまで彼女が戦っていたベアトリクス政治少佐本人だった。
気絶したそいつをクラークの隣へ置きながら、彼女は1つ息を吐いた。
雨上がりの日差しが、血を流したアリサの横顔を照らす。
「お互い……もうすっかりボロボロだね」
「傷だらけなお前はともかく、俺がそんな風に見えるか?」
「隠さなくっていいよ、アルスくん……もう4日以上寝てないでしょ。おまけにブルーまで発動して、もう魔力すっからかんじゃん」
「ちぇっ、バレてたか……その目をもうちょっと寄付金運用の監査に役立てて欲しいんだがな」
冗談混じりの俺の問いに、軽く笑って見せるアリサ。
この際だ……せっかくだし、こっちも1つくらい秘密を暴いてやろう。
「なぁアリサ」
「ん? なんだいなんだい? 有能な会計が勝利と共に帰ってきて嬉しいのかな?」
俺はクラークを拘束する最後の縄をギュッと縛り、腰を上げながら彼女を見つめる。
「––––お前、会った時からずっと快活な元気っ娘気取ってるけど……、ホントはかなり内向的な性格だろ。イメチェン前の陰キャだったミライがビックリするくらいのレベルで」
「…………」
一瞬押し黙ったアリサだが、銀髪がほんの僅かに紫色へ変わったあたり、図星を突かれ動揺したらしい。
少しの沈黙の後、彼女はゆっくりと口開いた。
「い、いつからそれ……察してました?」
その声にいつもの自信はなく、それでいて全く飾らない抑揚が抑えられたトーン。
普段のアリサとは、ほぼ別人に近い口調だった。
しかし、紛れもないアリサ本人の偽りなき言葉だ。
「会った時からに決まってんだろ、なんというか……ミライと同じ匂いがしただけだ」
「えっ、に、匂い……ですっ?」
「無理に陽キャ気取って、周囲に元気アピールしてる時点でわかるんだよ。まぁそれが悪いとは言わねえけどさ」
そう喋りながらなんとなく罰が悪くなった俺は、ずぶ濡れのローブを脱ぐ。
現れた王立魔法学園を象徴する、白の制服を整えながら俺は続けた。
「俺と2人きりの時とか特に顕著だったぞ。元が重度のコミュ障だから話題に困って、つい“下着”だのセンシティブな話題に走ったと見ている」
「だっ、だってぇ〜っっ……男の人と一緒にいると緊張して頭真っ白になるんだもん〜!」
顔を真っ赤にしてしゃがみ込むアリサ。
「はぁ……我ながら演技向いてねぇな〜、よりにもよってアルスくんにバレるとは……マジ不覚の極み」
「だから常々俺は言ったんだよ」
未だしゃがみ込むアリサを、俺はソッと立たせた。
「お前にスパイなんつー器用な真似は向いてねえ、俺の生徒会でガバガバな会計やって、ユリアにでも叱られてる方が絶対楽しいって」
「人の全力演技を暴くのは楽しいですか〜? 性格悪いぞ生徒会長〜」
「言ってろ、まぁあの元気スタイルもお前の持つ大事な一面だ。今さら変えるのは逆に大変だろ?」
「さっすがアルスくん! わかってるじゃん!」
笑顔で背中を叩いてくるアリサは、あっという間にいつもの彼女へ戻ったサイン。
「もしかして、魔法使わないで近接戦ばっかすんのも演技の一環だったのか?」
「あ〜……違う違う、わたし––––お父さんからスキルを受け継ぐまで魔法1つ使えない無能だったんだ。いわゆる超普通少女」
飛び出た一言は、何気に衝撃的だった。
「マジかよ……それで拳一本で戦うバーサーカースタイルになったのか」
「ちょっ! 言い方っ! バーサーカーは酷くない!?」
「あっはは、いやでも……俺は好きだよ。そのスタイル。無いものねだりじゃなく、持ってる長所を最大限生かすの––––人間らしくて大好きだ」
なぜかアリサの頬が、一気に紅潮した。
同時に口調が早くなる。
「で、でしょ? 王立魔法学園に入ったのは、スパイもそうだけどどうやったら魔導士をより効果的に倒せるか学ぶためだったの」
「敵を知り、己を知れば負けはない的な考えか?」
「そういうこと、だから驚いたよ……」
スゥッと息を吸ったアリサは、想いと一緒に息を吐き出した。
「アルスくんやユリみたいな、『マジックブレイカー』だけじゃどうやっても勝てない最強の存在に出会ったのは……正直ショックだった」
「キールという井の中にいたカワズが、大海に飛び出たんだ……その行動は誇って良い」
「いや……自分を隠して勝てる相手じゃなかったよ、今まで舐めた態度取ってて本当にごめん」
「俺は良いが、謝るなら––––」
アリサの後ろに、2人の少女が走り込んできた。
片方は茶髪をポニーテールで纏めた俺のヲタク幼馴染、そしてもう片方は金髪を緑色のシュシュで括った、アリサの親友––––
「アリサちゃん……」
「アリサっち……」
生徒会書記ミライ・ブラッドフォード、
そして……副会長ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトだった。
「キッチリ全員に向けてだ、アリサ」




