第156話・人生全部を賭ける覚悟、あんの?
俺とアリサは2人の敵を、それぞれ背中合わせに正対していた。
彼女の正面には、キール政治将校ベアトリクス少佐。
そして––––
「竜王級……! アルス・イージスフォードッ! さっきの魔力波はまさかっ」
「よぉ捜査官さん、王政府直々の命令をガン無視してるとは正直思わなかった。キャリアを求めてるくせに命令違反とは––––」
俺がこの場に駆けつけることを、全く予期していなかったのだろう。
怯え切った表情のクラークへ、俺は最高の笑顔を見せた。
当然、過去最高の怒りも込めて……、
「組織人として頂けないなぁっ、そんでもってその拳銃で……」
次の瞬間には、クラークの手からハンドガンが弾け飛んでいた。
ヤツの手へ目掛けて、非殺傷弾を撃ち込んだのだ。
非殺傷とは名ばかりに、死なないギリギリの威力なだけだが。
「グオッ……がぁ!!」
「なんにも悪くない少女を撃ったんだ、無実の子供を撃つということの意味と重みと責任––––テメェならわかってるよなぁ?」
すぐさまコッキングし、俺は次弾を発射した。
「あぐぇっ!!?」
非殺傷弾がみぞおちを直撃し、カエルのような声でひっくり返るクラーク。
すかさず肉薄しようとした俺の真横へ、数瞬の間も無くベアトリクスが立っていた。
「貰ったッ!!」
振り下ろされた拳を、銀色の風が防いだ。
肩や腹、スカートまで血で赤く染めた少女が両手で受け止めていた。
「アリサ・イリインスキー……!!」
「お前の相手は……わたしだッ! もう倒れない! アルスくんと約束したんだ! 絶対絶対絶対––––」
放出された魔力は、さらなる輝きを放ってベアトリクスを怯ませた。
「何があってもアルスくんのエンチャントには頼らない! わたしの壁は、わたしの力で超えるって!! 約束したんだ!」
今の今まで劣勢だったであろうアリサが、ベアトリクスを気合いだけで弾き飛ばした。
思わずニヤける。
これほど嬉しい感情が湧いたのは、アルテマ・クエストにおけるミライや、ファンタジアにおけるユリア以来だ。
「そうだ、それでいいんだアリサ! 俺は自分を持つヤツにエンチャントは一切掛けない! この意味がわかるな?」
「うん! わかるよ……っ! ベアトリクスは任せて、アルスくんはそいつにキッツイお仕置き、頼んだよ」
「任されたっ」
「よっしゃっ!! いっくよぉ!!」
覚醒したアリサは、なんと勢いの乗った蹴り一発でベアトリクスを吹っ飛ばした。
崩れる家屋のさらに向こうへ追撃していくアリサ。
「べ、ベアトリクス政治少佐……」
「アイツはアリサがぶっ倒す、さぁて捜査官さん」
コッキングで排莢した俺は、悪魔もかくやという顔で恐怖に震え続けるクラークを見下ろした。
「改めて言ってやる、少女の人生を台無しにしようとしたんだ––––テメェの人生全部を賭ける覚悟くらい、とっくにあるんだよなぁ?」
「ふざけんなっ!! 俺を殺すつもりか!? その銃で!」
「おや、公安なのにご存知ないんだな。これ非殺傷弾だから絶対死なないよ」
俺は「いや……」と、すぐに訂正した。
「滅多なことじゃ”死ねない“の間違いか」




