第155話・夏休み最後の宿題、残さず片付けようぜ!
「蒼色の魔力……!! しかもこれは、探知魔法か……!? なんて異次元な出力!」
今の今まで余裕を崩さなかったベアトリクスが、初めて動揺の色を見せた。
北の方角から噴き上がった光を見て、アリサの意識は急速に覚醒へ持っていかれた。
「ア……ルス、っくん……!」
彼は諦めていなかった。
呼びかけが聞こえる、あの光は……わたしを呼び求めるアルスくんの叫び声だ。
「ッ!」
ついさっきまで死を受け入れようとしていたバカな自分を殺すがごとく、彼女は瓦礫を押し退けた。
震える足に鞭を打ち、重力に逆らってその場に立ち上がる。
「マズイ!! クラーク!!」
衝撃波で吹き飛ばされていたクラークが、急いで手から離れた拳銃を拾い上げる。
銃口が再びこちらを向こうとした。
「アガッ!?」
クラークの手に、拳サイズの瓦礫が直撃した。
拳銃が再び地面へ落ちる。
アリサによって投擲されたそれは、彼女が叩きつけられて粉々になった噴水オブジェの残骸。
そんなものすら利用するのかと、クラークは腫れる右手を押さえながらアリサを睨め付けた。
「ある物は……なんでも使うっ、謙虚で質素でしかし効果的……! そんな会長の考えを、役員が持たなくってどうするよ!」
「クッ! 無能がッ!!」
ベアトリクスから黒いオーラが伸びる。
触手のようなそれはやがて先端が槍状となり、アリサ目掛けて撃ち出された。
「アルスくん……本当に君は」
アリサの足元から、紫色の光が全身を包み込んでいく。
今まさに貫かんとしていた触手群が、ボロボロと崩れ去る。
解除されていた『マジックブレイカー』が、再び発動されたのだ。
「本当に罪深いよ、こんなどうしようもない嘘つきを求めてくれて、生きたいと––––願わしてくれるんだからッ!!」
瀕死の体がなんだ! 今まさにアルスくんが命を賭してわたしを探してくれているッ。
差し出された手を逃すようなヘマは、
「もうしないッ! してたまるか!! わたしはここにいる!! ここで君を待っているッ!! だから––––」
呼応するように、アリサの身体を中心に魔力が燃え上がった。
王都の空を、蒼い光に加えて紫の光が貫いた。
「もう一度––––君に会いたい!! 会わせて欲しい!! こんな酷いことする奴らへ、わたしと一緒に立ち向かって欲しいッ!!!」
「そんなことッ、させるかぁああああッッ!!!」
魔法による攻撃を諦め、ベアトリクスは雨に打たれる石畳を蹴った。
「お前は汚れた血の子供だ! 我々キールの管理を離れて存在するなど決して許されない!! 今ここで––––」
渾身の一撃を、ベアトリクスは右拳からアリサへ放った。
「お前を殺すのが、キール社会主義共和国の意志だッ!!!」
拳が今まさに、魔力を放出するアリサを貫こうとした刹那だった。
「じゃあそのキールの意志とやらを、どこまで貫けるか見ものだな」
ベアトリクスは何が起きたか、しばらくの間わからなかった。
地面を激しく転がったと気付くのに数秒、アリサの立つ正面に、”蒼色“の光が輝いていることに5秒……。
「バカな……十数キロの距離を、こんな一瞬で……!?」
そして……恐れていた最悪の事態が起きたことに気づき、絶句すること3秒。
「よっ、アリサ。俺の声……聞こえたようで何よりだ」
蒼色の変身を解除した、世界最強の竜王級魔導士。
王立魔法学園生徒会長にして、学園ランキング堂々の1位––––アルス・イージスフォードは、アリサの頭を優しく撫でていた。
「……ッ! 君の声が半端じゃなくデカすぎるんだよ。おかげで永遠に寝ようとしたのを叩き起こされちゃった」
「はっ! そりゃ何よりだ」
M1897ショットガンをコッキングしたアルスは、彼女––––アリサ・イリインスキーと背中を合わせた。
「来学期は生徒会忙しいんだから、こんなところで寝られちゃ困る」
「うん、そうだよね……ゴメンっ」
「謝るのはみんな揃ってからだ、とりあえず––––」
アルスは銃を、アリサは拳を構えた。
「夏休み最後の宿題、残すことなくクリアしようぜッ」
「うんッ!」
アリサがメインとなるキール編もついに佳境です、引き続きの応援とよろしければ感想など頂けると非常に頑張れます!




