第154話・必ず見つける!そのために出し惜しみはしないッ!
雨の降りしきる鉄道基地で、俺はため息をついた。
「……こんなもんでいいか」
俺はボロ雑巾のようになってしまったキールスパイ、セヴァストポリを見ながら吐き捨てた。
簡単だ、言い過ぎやり過ぎの彼には少しばかり罰を受けてもらった。
「アッ……ガガ!」
「安心しろ、殺しはしない。お前には生きた証拠としての仕事が残ってるからな」
全身の筋肉を痙攣させたセヴァストポリは、それでもケースへ手を伸ばそうとする。
頭を鷲掴みにして、俺はそれを優しく止めた。
そして––––
「アガががガァがががッ!!?」
電撃魔法を直接流し込む。
もうこれで覚醒と気絶を繰り返すこと26回、さすがに心が折れたらしいセヴァストポリは涙目で首を振った。
「お前……は! 悪魔だっ、国家に等しい力……我々キールは––––お前を決して野放しにしないぞ……っ」
「死ぬ以外の全てを失ったスパイさんが吐く、最後の捨て台詞だな」
「捨て台詞か……、はっ! 貴様はクソだっ、クソに暴言を吐いてなにがおかしい」
俺は頭から手を離し、必死の形相でこちらを睨むセヴァストポリへ、最後にあることを聞いておくこととした。
これはいずれ……キール人に絶対、必ず聞いておかねばならない超重要事項だ。
「なぁセヴァストポリ」
「ゼェっ……機密は、絶対に喋らんぞッ」
「いや、別に機密とかそういうのはどうでもいいんだけど……」
俺は自身でも困惑しながら、口開いた。
「キール国じゃ、飯食ってる時に“恋人の下着”について話したりするのか?」
「ッ………………ふざけているのか?」
「いや真面目だよ! それで……どうなんだ?」
「そんなの話すわけがないだろう、貴様まさか変t––––」
セヴァストポリが余計な一言を放つ前に、俺はヤツの身体を持ち上げて、スラムダンクの要領で地面に叩きつけた。
上半身がめり込んだ非常に無様な姿で、失神するスパイ。
これで判明した、キールに食事中変態チックな話題をする文化はない。
「ったく……今までのやつ、全部アリサの性癖だったのかよ。キールから取り返したら絶対引っ叩いてやる」
俺は荒れきった周囲を見渡すと、『魔法能力強化』を全力で発動した。
「『広域魔力探知』」
さっきも使ったこの技は、自身の魔力を波のようにして放射し、跳ね返ってきた魔力反応を測定するというもの。
非常に膨大なリソースを使う上、時間もかかる技だ。
…………。
10秒ほどして、いくつかの反応が返ってくる。
「移動中のデカい魔力が2つ……、方向的にミライとマスターか。こっちは––––」
視線を横へ移す。
「巨大な反応がいくつも集まってる……たぶんドラゴニア、そしてこれは––––ユリアっぽいな。さすが……やっぱ来てくれたのか」
っとなると、キール特殊部隊はユリアとドラゴニアによって制圧された可能性が高い。
公安にも、今頃追跡中止の命令が届いたことだろう。
あっちの車で移動しているのは、おそらくラインメタル大佐。
なら後はアリサだ、アイツの位置を––––
「……」
どういうことだ、アリサらしい巨大で快活な魔力が一切返ってこないぞ。
他にはもう、普通の王都市民や冒険者レベルの魔力しか感じられない。
もし『マジックブレイカー』を発動していたとしても、アレは攻撃魔法をメインに打ち消すはずだ。
索敵系は普通に通るはず……。
「まさか……っ!」
もうこっちが魔力を認識できないほどに、死ぬ寸前までアリサが弱っている?
かなり全力だが、一向に探知できない以上そう考えざるを得ない。
「殺されかけてる……、アリサがっ」
俺は数秒だけ逡巡した。
魔人級を遥かに上回る『魔法能力強化』をもってしても、もはや彼女の小さすぎる反応を探知できない。
「だあぁッ!! 貴重な4本だが仕方ねえ! 俺は生徒会長だ––––役員を守る義務があるッ!」
ポケットから取り出したのは、一見すると栄養ポーションにも似た飲み物。
名を『マジタミンB』。
ファンタジアで大賢者フォルティシアさんから貰った、魔力回復ポーションだ。
フタを開けて一気に飲み干し、空っぽの容器を放り捨てる。
消費されていた魔力が完全復活した。
両拳を握り、歯を食いしばって俺は全身の魔力を燃え上がらせる。
「30秒が限界だ!! 頼むから応えてくれッ! アリサ!!!」
元々纏っていた紅色のオーラに金色の魔力が合わさり、合体して蒼の業火が膨れ上がった。
竜王級の真価であり、切り札––––『身体・魔法能力極限化』を発動したのだ。
世界に天使の鐘を鳴らしたような音がこだます。
蒼色のオーラが嵐のように吹き荒び、雲を貫いて光の柱をそびえ立たせた。
右手を空に掲げる。
繰り出すは、ブルーの力で神の領域へ達した『探知魔法』。
「『超広域・超々高出力アクティブ魔力ソナー』ッッ!!」
ドーム状に広がった巨大魔力波が、極超音速で世界を飲み込んでいった。
王都どころか、大陸全土の魔導具を一時使用不能にしてしまうほどの出力で魔力を放つ。
「どこだ……! どこにいるッ!」
必死で探す中、俺は極限まで高まったソナー反射の中である感触を捕まえた。
懸命に生きようと、俺の声に応えようと、残った炎を必死に燃え上がらせる……大事な家族の魔力だった。




