第135話・生徒会の足元
アリサの濡れ衣を晴らすためには、まず公安の汚職––––正確にはクラーク捜査官を調べねばならない。
彼に誠実な捜査官としての態度は、欠片も見当たらなかった。
プロにあるまじき言動行動……調べる価値は十分あった。
そのために超短期間で“ある魔法”を習得する。
だがその前に––––
「ねぇアルス……、ホントにここにあんの?」
生徒会室の扉を開けた俺へ、疑問符を浮かべたミライが訪ねてくる。
ユリアも来て欲しかったが、あのメンタル状況ではなかなか難しいと判断。
寮に待機をしてもらっている。
近いうちに出向く予定だ。
「アリサが北の隣国キールに脅されてるのは、十中八九間違いないからな。アイツの送ったシグナルには全部意味がある」
「だからって、なんで生徒会室に来る必要があるのよ?
他にもっとやるべきことがある、そう言いたげな彼女へ俺は書類の詰まったファイルを渡した。
非常に分厚いそれを、彼女はワタワタと慌てて受け取る。
「それ、読んでみ」
「えぇ? なになに〜? 工事の全工程表? 意味わかんない」
「職員室にあったのを借りてきた、まぁ読んでみろよ」
しぶしぶ目を通すミライ。
内容は単純だ––––俺の学園入学から少し経った時期。
つまり、この生徒会室を誰も使えない期間の間で工事に入った業者がいる。
「壁と床の補修、空調魔法の点検、その他保守整備……これがどうしたのよ。専門用語多すぎて意味わかんないのが多いけど、アリサちゃんに関係ないってだけは明らかだわ」
「普通そうだな、正面から見たら直接は関係ないだろう。でも世の中ってのは色々繋がってるもんなんだぜ……表紙見てみ?」
「表紙〜表紙〜、えっと……『ピョートル・ヴェリキー株式会社』? 名前の雰囲気が……あっ!」
ファイルを再び、バッと開くミライ。
「キール共和国の企業……!? なんで!」
「他にも数社関連している会社はあるが……生徒会室を担当したのはその会社だ。全く恐れ入るよなぁ」
持ってきた”物“を床に置き、部屋を見渡す。
「安いからってだけで迂闊に仕事をさせたら、大体ロクなことにならん。ギルドも会社も––––全く変わらない」
細い金属製グリップを掴み、皿のように平べったい先端を床へ近づけた。
「なんか実感こもってるわね……」
「ブラック時代……安いギルドに仕事を代行させたら、筆舌に尽くしがたい事態になってな。それ以来額面の安さで判断するのはやめてるんだ」
特別な道具のスイッチを入れた瞬間、けたたましい警報音が響き渡った。
ビクッと驚いたミライが、後ずさりながら声を出す。
「アルス……これって」
「あぁ……、思った通り」
なるほどな……こんなのが足元にあったんじゃ、アリサがなにもできないわけだ。
俺は思わず頬を吊り上げた。
「大当たりだ。バカな共和国企業の杜撰さが表に出たな」
「ど、どうするのこれ……? その––––『金属探知機』だっけ? めっちゃ音鳴ってるけど」
「慌てんな……多分まだなんも起きねーよ。既にマスターとカレンには動いてもらっている、今は存在が確認できただけで十分だ」
「でもっ、早くこの生徒会室の下をなんとかしないと––––」
「これは後で良い、まずは魔法の特訓から始めるぞ」
スイッチを切り、俺は時計を見上げた。
「忘れんな、俺たちが夏休み終了までにアリサの濡れ衣を晴らせなきゃ––––アイツは退学。そのままスパイとして処理される……もう二度と会えないぞ」
「ッ……!!」
足元の物は、俺たちが下手に触るべきものじゃない。
“専門のプロ”に任せるのが一番だ、そのために夕方あの場所へ赴く。
タブレットを取り出し、地図上の赤い点を見つめた。
「絶対助け出すからな、どんなことされても耐えるんだぞ……! アリサ」




