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第134話・竜王級は、大英雄と大陸トップランカーを仲間にする

 

 あの騒動の後、結局仕事など手につくはずもなく解散した。

 特にユリアの心傷は計り知れるものではないので、ミライにケアを頼んで寮へ帰す。


 俺はその足で通学路を歩いた。


「ただいま」


 喫茶店ナイトテーブルの扉を開け、いつも通りの帰宅の言葉。


「んっ、アルス兄さんか。おかえりー」


「おーう、ただいまー」


 テーブルでケーキを頬張りながら出迎えた義妹のカレンに、俺は努めて普段と変わらぬ声色で応答する。

 素気なく通り過ぎようとするが、腰まで伸びた亜麻色の髪を揺らす彼女は––––ゴクリとケーキを呑み込んだ。


「浮かない顔ね」


「やっぱ……わかる?」


「当然でしょ、アルス兄さんがこんなおやつ時に帰ってくるなんて絶対理由あるもん」


「今日は途中で仕事ができなくなってな、とにかく急いで対策練らなきゃなんだ」


 そう言って奥の生活空間へ行こうとするが、何かの潰れる音と金属音が同時にこだました。

 振り返れば、ケーキの上からフォークを突き刺したカレンがジーッと見ている。


「な、なんすかね……?」


「教えて」


「いや何をだよ」


「可愛い義妹が教えてって言ってんだから、隠し事しないのは兄として義務でしょ!? 絶対でしょ? 当然でしょ!?」


 駄々をこねる王国ギルド・ランキング1位の冒険者。

 ここで1人事態を隠して抱え込むのもまぁアリだが、こうまで言うならぜひ巻き込ませてもらおう。


 俺は使える手札は徹底的に使うタイプだ。


「やぁアルスくん、おかえり」


 ちょうどマスターがいつものほのぼのした空気と共に、店内スペースへやってくる。


「マスター、カレン……少し時間が欲しい」


 俺は今日起こったゴタゴタの全て。

 アリサのスパイ疑惑、公安による連行などを包み隠さず2人へ話した。


 真っ先に感情をあらわにしたのは、やはりというかカレンだ。


「その公安超ムカつくんだけどッ! 仕事するにしても言い方やり方があるじゃないっ!」


 誰もいない場所で拳を振り回し、怒り散らすカレン。

 彼女はアリサのことをまだ知らないが、それでも理不尽だと憤慨する。


「聞いてみた限りずいぶん手荒い……、少なくとも僕の知る公安のやり方ではないね」


「っと言いますと?」


「王国国家公安本部とは、そもそも外国勢力の干渉––––今回みたいなスパイや集団を相手する対抗組織だ」


「俺も僅かですが調べました、国内の極左勢力や果てには軍まで監視しているんですよね?」


「その通りだ、国家に害を与えかねない不安因子の監視が主任務と言っていい。とにかく不審がることが好きな連中だよ」


 紅茶を啜ったマスターは、ウンザリ気味にため息をこぼす。


「まぁ僕も絶賛監視対象なんだけどね〜」


「マジすか………」


「マジだよ。僕だけじゃない……公安はアルスくんやカレンのことも日頃から警戒しているだろうね」


 寒気を覚えたのか、ブルリと震えるカレン。


「問題は、そんな公安が順序をほとんどすっ飛ばしてアリサちゃんの確保に踏み切った点だ。アルスくん––––君もそこが引っかかっているのだろう?」


「そうですね、そこはもちろんなんですが––––」


 俺は今日の昼を思い出す。

 アリサの顔は、全てを諦めたような顔だった……。

 本気でスパイ行為に精を出していたなら、あんな反応はしない。


 暴れてもおかしくないどころか、ユリアの拳を無抵抗で受けたのだ。

 そんなの、考えられる可能性は1つ––––だが自分でもぶっ飛んでいると言わざるをえない仮定。


「アリサは––––いわゆる同意の上での“捨て駒”だったんじゃないか、俺はそう思っています」


「捨て駒?」


「はい、アイツは超がつくほどの素直でバカ正直、スパイなんつー器用なこと絶対できません。一連の行動や公安の証拠は……1つの答えを示していると考えます」


 俺は、彼女を知る最も身近な人間として忌憚なく言葉を発した。

 入学試験で拳を交えた––––彼女と戦った者としての感想を話す。


「アイツは多分……音声をワザと録音されたんです、自分の口からじゃ、絶対言えないから––––言えば俺たちに危害を加えるとたぶん脅されている」


「つまり……本当のスパイは別にいて、そいつに危険が迫ったからアリサちゃんに罪を着せたというわけか」


「そう睨んでいます」


「なるほど……そうなると、話は変わってくるな」


 ガタッと、マスターが立ち上がった。

 黙っていたカレンも目つきをスッと変える。


 眼前に立つ、大英雄と大陸トップランカーの冒険者を––––俺は今作戦最初の仲間に迎えた。


「俺はアリサを助けたい、そのためには協力に協力を重ねてもらう必要がある。最初に言うけど––––公安に加えキールという“国家”を相手にする。めっちゃ危険だ」


「フン、よく言うわね––––」


 カレンはニッと笑った。


「これからその国家も汚職公安も、アルス兄さんはボッコボコにしようってんでしょ? いいわ……協力してあげる。アルテマ・クエストの借りを返す絶好のチャンスだわ」


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