表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/497

第133話・生徒会最大の危機

 

「アリサ・イリインスキー、貴様には我が国への不法な諜報を行った容疑が掛かっている。大人しく付いてくるんだな」


 生徒会室に踏み込んできた公安のクラーク捜査官は、気怠そうに告げた。

 それは、1人の少女に告げる言葉にしてはあんまりな言い方だ。


「ちょっと待ってよ! アリサちゃんがスパイだなんて絶対間違いよ! 公安かなんだか知らないけど、勝手なこと言わないでッ!!」


 庇うように前へ出るミライ。

 さっきまで喧嘩していた彼女は、肩を震わせ威嚇していた。


「チッ……! これだからガキの友情ごっこは嫌いなんだよ……おいアレ! サッサと聞かせろ」


 クラークが顎をしゃくると、後ろの公安職員がタブレットを取り出した。

 映し出された画面から、会話であろう声が響く。


 《フーン、じゃあ副会長ちゃんの宝具は壊れちゃったのねぇ》


 誰かわからない女の声に続いて、聞き慣れた––––この場でありえてはならない声が再生された。


 《……はい、ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトの力は大きく減退しました……。今なら同志のご希望に叶う状態かと》


 聞き間違いようがない、紛れもなく“アリサ”本人の声だった。

 うつむき、先ほどの陽気が嘘のように彼女は表情を暗くする。


 《それでファンタジアへ行くことになったのねぇ、たしかに件の大賢者なら十分データの実証もある。日程は?》


 《2泊3日……。2日後の午前7時30分、3番ホームから発車する軍混合の列車です……》


 再生が止まる。

 ミライは震えながら固まっていた、……後ろを見るのすら怖いと言わんばかりに。


「他にも重大な国家機密漏洩に関与している。そういうことだからさぁ、ほらどいて。突っ立ってられると邪魔だからさぁ」


 クラークが、呆然自失とするミライを強引に押し退けた。

 俺は誰にもバレないよう、タブレットの“録音状態”を確かめた。


 スイッチは既に押されている。


「アリサ、もし今のが何かの間違いなら……会長の俺がまだ助けてやれる。質問に答えてくれるな?」


 しばらく黙っていた彼女は、やがて小さく笑いをこぼした。

 まるで……全てを諦めたように。


「はは……全部本当だよ……、わたしは祖国のために生徒会の行動を––––厳密には竜王級アルス・イージスフォードの動向を報告するよう命令されていたの」


「笑える……」と、アリサは吐き捨てた。


「竜王級の存在は安全保障に直結する……、だからわたしはみんなをずっと裏切ってた! ずっとずっと!! 生徒会に入ったのも、全部ぜんぶそれが理由だよッ!」


「貴様ッ、本性を見せたな社会主義者め……。確保しろ!!」


 どこか嬉しそうに命令を出すクラーク。

 このままではあまりよろしくない、せめて全員の気が一瞬でも逸れれば––––


「ッ!!!」


 俺の横を金色の風が駆け抜けた。

 拳を握り、大きく振りかぶった彼女––––副会長ユリアは涙目で、怒りに満ちた顔のまま突っ込んだ。


「バカァアアァアアアアアッッ!!!」


 鈍い殴打音と共に、アリサは床に倒れ込んだ。

 ユリアが、本気で彼女をぶん殴ったのである。

 どういうことか、アリサはそれを避けなかった。


「ふざけないでくださいッ! 裏切ってたなんてそんな告白。貴女から聞きたくなかった! 聞きたくなんてなかった!!」


 拳だけに収まらず、ユリアは激情に呑まれて『インフィニティー・オーダー』まで具現化した。


「バカバカバカッ!! バカァアアァアアアアアッ!!!!!」


 泣きながら杖を振り上げる。


 公安が慌てて身を引いた。

 だが、振られた杖を間一髪でミライが後ろから止めた。

『雷轟竜の衣』に変身して、ステータスを大幅に上げた状態で後ろから羽交締めにしたのである。


 ––––今だっ。


 俺は全員の気がユリアへ向いたのを確認し、倒れたままのアリサに”ある物“を投げつけた。

 極小のそれは、彼女の襟にピッタリとくっつく。


「落ち着いてエーベルハルト!! そんなの当てたらアリサちゃんが死んじゃう!!」


 必死でユリアを食い止めるミライ。

 どこかビクついた様子で、クラークは倒れたままのアリサへ手錠を掛けた。


「ほら立てッ、ったく……これだからガキは嫌いなんだ」


 銀髪を掴まれ、乱暴に立ち上がらされるアリサ。

 怒りで握った拳から血が出るも、俺は机の後ろへ隠す。

 生徒会最後の砦である俺が、決して事を急いてはいけないのだ。


 眼前の捜査官の“裏”も含めて、既に色々見えているのだから。


「っ……そこの乱暴女を押さえておけよ、我々はこれで失礼する」


 たったそれだけ言い残し、公安は俺たちの目の前でアリサを連れ去っていった。

 泣き崩れるユリア、ガンケースに隠していた魔導タブレットを俺は拾い上げる。


「裏切ってた……か」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ