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第130話・俺の有意義な休み時間

 

 王立魔法学園は、大規模な魔法授業をするときグラウンドではなく専用の演習場を使う。


 そこは広大な面積の平野に、丘陵や草原––––果ては森すら完備している素晴らしい施設だ。


「よっ!」


 かつて入学試験を行ったここへ、俺は最近よく来ていた。

 持ってきたガンケースから銃を取り出す。


「さて……気分転換だ、今日も練習するか」


 耳に掛けた透明なグラスは、砂塵や火花から目を守るための保護メガネ。

 さらに今回はいつものスナイパーライフルではない。


「良いッ……、やはり銃は素晴らしい工業製品だ」


 自分でもキモいと思う笑みを浮かべながら、俺はその銃––––『M1897トレンチガン』を持ち上げた。

 一般には聞き慣れない名前だが、要はオーソドックスなショットガンである。


 引き金をひけば、9個の散弾が広がるように発射されるのだ。


 これに持ってきた銃剣を先端部へ取り付ければ、あらビックリ––––近接戦最強武器のできあがりである。


 ––––ダァンダァンダァンッ、ダァンッ––––!!


 俺は10メートル先の的を、次々に撃ち抜いていった。

 ポンプアクションと呼ばれるコッキング動作を終えると、薬室(チャンバー)チェックをしてから銃を下ろす。


「やっぱ散らばる分狙いやすいな、モンスターや対人––––諸々オールマイティに使えそうだ」


 俺がやっていたのは、タクティカル・トレーニングという訓練。

 近距離の的を素早く正確に、できるだけ早く撃ち抜いていくというもの。


 最近の俺の、有意義な休み時間の過ごし方だ。

 生徒会長権限で射撃場を作ってみたが、基礎的な練習にはもってこいである。


「最近お昼に見ないと思ったら……、ここにいらしたのですね会長」


「ウッ、ユリア……!」


 振り返れば、両手を後ろに回した副会長が立っていた。


「生徒会室を任せたはずだが……何か用か?」


 脳裏に、さっきまくり上げられたスカートが浮かぶ。

 ここへ銃を撃ちにきたのも、あまりにエロ過ぎたその光景を一時的にでも忘れるためだ。

 そんな俺の心中を鋭く察したのか、ユリアはケラケラと笑う。


「ご安心ください、下着云々はアリサっちのテンションに合わせただけですので。軽い冗談です」


「見せたら冗談じゃない気がするけど……」


「えへへ、会長の困った顔が見たくて……つい」


 めちゃくちゃ可愛げのある顔で、嬉しそうにからかってくる。

 まぁこっちとしてもやぶさかじゃなかったし! 腹立つどころかご褒美だったので良いけどねっ。


「ところで会長、例の件はどうするのですか?」


「例の件?」


 いきなりの仕事モード。


 俺が真面目に当惑の色を示すと、ユリアが一枚のチラシを取り出した。

 カラフルでオシャレなそれは、中央通りブランドなるスイーツ店の広告だ。


「“大魔道フェスティバルにおける中央通りブランドとの協賛”。前に会長自身が打ち出した選挙の公約じゃないですか」


「あぁ〜、そういえばそんな公約出してたな」


 ユリアに選挙で勝つべく、いつかミライと一緒に考案したものだ。

 これもあって、女子層からかなりの票が取れたっけ。


 正直かなり望み薄な公約ではあるものの、ユリアはキッと居住まいを正す。


「わたしが副会長となったのですから、会長にはなんとしても全公約の実行をしてもらいます」


「つってもあの超意識高いスイーツ店が、わざわざ学園と協賛してくれるか……断言した手前言いにくいが、可能性低いんだよなぁ」


 悩む俺を尻目に、ユリアはショットガンの(シェル)を指で掴んだ。

 おもむろに見つめた後––––


「では会長」


 ピッと、俺へ向かって勢いよく投げた。

 片手でキャッチしたのを確認した彼女は、不敵に笑みを浮かべる。


「1つ勝負をしましょう、会長のやってるタクティカル・トレーニング。その一般的な競技ルールでどっちが良い成績を出せるか……負けた方がスイーツ店との交渉役です」


 宝具『インフィニティー・オーダー』を具現化し、ユリアは俺の前に立ちはだかった。


 すぐさま受け取ったシェルを、薬室(チャンバー)から銃へ突っ込みコッキングする。

 ガシャンッと、小気味良い音が鳴った。


「実に魅惑的な提案だな、詳しく聞こう」


 ユリアへ吊られるように、俺も笑みを浮かべた。


【M1897トレンチガン】


地球においては、第一次世界大戦で使用されたショットガン。

当時の塹壕戦において非常に強力な武器で、使われたドイツ帝国軍が「国際法違反だ!」と叫んだほど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう主人公好き!自分に自信持って、鈍感でもなくて、力の出し惜しみしない!!!
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