表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/497

第128話・剣聖グリードの自信

 

 神殿のように広大な空間へ、冷め切った声が響く。


「無様な結果に終わったな、レイ」


 冷えた大理石の上で、灰髪の少女レイ・イージスフォードは両膝をついていた。

 それを玉座から見下ろすのは、緑色に染まった長髪を下げる高身長の男。


 闇ギルド・ルールブレイカーのマスター、名をスカッドだ。

 背中から生えた純白の翼は、彼が人間ではないことを示している。


「ノイマンとドクトリオンの計算支援を受けておきながら、儀式と竜王級の能力奪取失敗、さらに魔人級フェイカーの喪失……なにか言い訳はあるかい?」


 真っ逆さまに落ちた天井のようなプレッシャーが、潰さんばかりにレイの肩を襲う。

 彼女が今回ファンタジアへ送られたのは、その圧倒的自信がゆえだった。


 副会長ユリアの宝具が使用不能という事態を利用し、力を得たミリアを差し向けてアルスから能力を奪う。

 最後は儀式によって、”神へのアクセス“をする手筈だったのに……!


「お兄……竜王級は、必ずわたしが能力を奪って見せますっ。この損害も想定の範囲内、です……」


「ほぅ……範囲内か、既に対竜王級戦で30億もの大金が消え去っている。レイよ、30億もあれば何ができたと思う?」


「っ……」


「軍隊であれば最新鋭の戦車隊を揃えることができる額だ。我々は既に、竜王級アルス・イージスフォードというたった1人の個人に、これだけの犠牲を強いられているのだよ?」


 スカッドの語気は強まっていった。


「レイ、投資と浪費は違うと再三教えたはずだ。そして––––権力と責任はいつだってセットともな」


「ッ!?」


 スカッドが指を向けた瞬間、光が瞬いた。

 まばたきする間もなく、レイの腹部を爆裂魔法が直撃する。

 詠唱すらしていないにも関わらず、威力は絶大だった。


「カハッ……!!」


 吹っ飛んだレイは床を転がり、内臓を混ぜられたような痛みに激しく喘いだ。


「やはりお前ではまだ荷が重かったらしい、竜王級の妹だからと期待していたんだけどなぁ……。本当に残念だよ」


「カヒュッ……! ぅ、あ……!」


「君はしばらく休暇にしたまえレイ、ドクトリオン博士の助手でもやって休んでいると良い。怪我をした人間なんぞ仕事の邪魔だ」


 スカッドが指を鳴らすと、玉座の横に魔法陣が現れた。

 光の粒子は、少しずつ形を作っていく……。


「竜王級奪取の任は……君に託したい、剣聖––––グリードくん」


 床に横たわり、涙目で胃液を吐いていたレイに、転移したグリードは笑みを浮かべる。


「お任せくださいスカッド様、俺は史上最強の剣聖––––そこで無様に転がるガキとは違うことを教えてやりますよ」


 ドヤ顔で決めたイケメンな風貌の彼を見て、レイはいよいよ危機感を募らせた。


 脳みそが警鐘を鳴らす。

 こいつはヤバい、絶対に仕事を任せてはいけないと。


「血迷っては……ゼェッ、なりませんスカッド様! こんな無能力者に我がギルドの一大構想を託すなんてっ」


「はっ! 実の妹だとかは知んねえが、お前じゃアルスには勝てねえよ。ファンタジアで完敗してるようなお子様じゃぁな」


 アルスにいどむ権利すら与えられなかった男が、どの口で抜かすかとレイは激昂しそうになる。

 そもそも、『フェイカー』を彼に与えたのは他ならぬレイ自身だ。


 先日まで敬語だったくせに、スカッドが味方するやもうこの態度だ。

 変わり身するにしても早すぎる。


「口をわきまえろ……ッ! お前を選んだのはわたしなんだぞ!」


「わきまえるのは、お ま え だっ。剣聖たるこの俺にはもはやなんの懸念も障害もない––––わからねえか? スカッド様はやる気のないヤツが一番嫌いなんだよ」


 やる気だけはある無能が、異常に腹の立つ表情で見下ろしてくる。

 さらに指まで差してくるのだから、怒りが痛みを上回りつつあった。


「スカッド様……正気ですかっ!」


「今の君よりはマシだよレイ、彼はこんなにもやる気と自信に満ち溢れているんだ……一度くらい任せてみても大丈夫だろう」


 レイは思い起こす。

 そういえば、ファンタジア事変以前にも、スカッドは自分の自信を買って任務を任せてくれた。


 眼前のギルドマスターは、強い自信のある人間ならばアクティブに仕事をこなしてくれると、本気で信じるタイプだったか!

 これだから”天使“というヤツは……ッ!


「とりあえずお前はベッドで寝てるんだな。剣聖であり知将とも謳われた俺に全部任せろ、もう手は打ってある––––」


 剣聖グリードは、ニッと前歯を覗かせた。

 まさかこいつ……!


 レイは、”大切な情報源“に危機が迫っているのを直感で悟る。

 だが悲しいかな……、今の彼女にどうにかできる身体と権限はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レイが繋がっている人物が、生徒会に…? [一言] (前話の続き) ユリアイラスト、有償にしたくなる件は理解できます。 いずれ何らかの形でこちらからもお布施できたらいいのですがw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ