第124話・ホワイトライフを邪魔する者は決して容赦しない
「なんとっ……! なんという力、これぞまさしく青の死星! 衣や鎧なんかに依存しない––––純度100%の竜の力かァアア!!」
白衣を着たいかにもMADっぽい男が、ぶっ飛び君1号のような飛行板に乗って叫ぶ。
その傍らには、ファンタジアへ来るまでに遭遇した亜人ホムンクルスと……。
「まさか、ここまでなんて……」
俺と同じ屋根の上––––実の妹を名乗り、同じ灰髪を下げた少女レイ・イージスフォードが、ありえないと言いたげにこちらを睨んでいた。
小さな口で歯噛みし、灰色の瞳を忌々しげに向けてくる。
「言っただろ? チンケなシナリオなんざ俺らを前にして通用するわけない。せめてよく練られた小説を100冊くらい読んで、もうちょいマシなストーリー考えてから出直すんだな」
「ふぅむ、おっしゃる通り……今回は我々が稚拙だったようですねぇ」
科学者の方はアッサリ認めた様子だが、レイは依然として納得しない。
「ッ……!! ミリアは相場にして20億はくだらない額の『フェイカー』魔導士だったのよ!? クッソ! くそくそくそぉッ!!」
端麗な女子らしくない言葉を吐く。
「もういいや……」と、彼女から漆黒の魔力が滲み出た。
戦闘モード……やる気か、ブルーを使った戦闘で俺に戦うだけの魔力はない。
だが、連中の行動はもう既に遅かった。
––––パンッ! パンパンッ––––!!
「ッ!?」
街の外れから、何発もの照明弾が打ち上がった。
まばゆく光るそれは、停電を起こしたファンタジアを太陽のごとく照らす。
「言っただろう、時間切れとな」
「なっ! クソォッ!!」
またも悪態をつくレイ。
それは待ち望んだ増援––––
郊外から、続々とミリシア王国軍の機動即応歩兵部隊。
そしてアルト・ストラトス王国海兵隊の、機甲戦車連隊が侵入してきていたのだ。
近場の基地から、2個師団規模の軍隊が出動したらしい。
「たしかに彼の言う通り、時間切れのようですよレイ」
「まだだドクトリオンっ! 手土産もなしにスカッド様へ顔を見せられるかッ!!」
すぐさま真っ黒な大剣を具現化し、俺へ斬りかかるレイ。
しかし、振られた渾身の一撃は巨大なハルバードによって防がれた。
「闇ギルドとやら、これ以上ファンタジアを傷つけるつもりなら、この命を賭してでも……貴様らを殲滅するぞ!」
宝具『インフィニティー・ハルバード』を顕現しながら、大賢者ルナ・フォルティシアが俺の前で立ちはだかる。
今の敵戦力で、到底叶うレベルの相手ではない。
激しく舌打ちしたレイは、大剣をしまった。
「王立魔法学園生徒会……ッ! アルスお兄ちゃんを取り巻く害悪共め、わたしだけのお兄ちゃんをたぶらかしやがって!」
お前だけの物になったつもりはないんだがなぁ……。
憤った様子のレイを、魔法陣が覆った。
「そう遠くない内に……アルスお兄ちゃんを毒する悪いヤツら、全部ぶっ壊してやるから。そんでアルスお兄ちゃんを竜王級の宿命から解放してあげる。待っててね……わたしだけのお兄ちゃん」
それだけ言い残し、レイとドクトリオン、ホムンクルスは転移魔法で消え去った。
なぜか、ホムンクルスの少女は……終始俺をジッと見つめていた。
「終わったか」
山の向こうから、朝日がゆっくりと覗いてくる。
もうすっかり朝を迎えたようだ。
「はぁ、ったく……まさかいると発覚した妹が闇堕ちしててさらにクソ重いヤンデレとか。つくづく平穏には過ごせなさそうだ」
「それは心中察するわい、しかしルールブレイカーめ……やはりアルスの能力を狙っておるか」
「ん〜まぁ子供のような欲を否定はしませんけど、連中は––––」
ほんの僅かに残っていた魔力を使い切り、俺は2色のオーラを混ぜ合わせながら頬を吊り上げた。
「闇ギルドがそれを手にすることはありません、代わりに法外なほど高い授業料を、その身をもって支払わせてやりましょう」
『身体・魔法能力極限化』を纏いながら、連中の宣戦布告を受け止める。
俺のホワイトライフを邪魔してくるヤツらは、この世で最大の苦しみを味わわせながら消し去ってくれる!
「フッ……おぬしは、かつて共に過ごした片割れを思い出させるわい。しかし––––」
フォルティシアさんは、朝日に照らされた顔をしかめた。
「ヤツらの上に……、ワシは“言い知れぬ不気味な存在”がいるようで仕方ないんじゃよなぁ」




