第122話・ユリアVSミリア・クラウンソード
「はッ……! 無駄な足掻きって何度言えばわかるかしらね。竜の鎧を着た私はアルスを超えているのよ? いくらお前でも勝てはしないッ」
手を広げ、堂々と姿を見せつけるミリア。
どこからどんなヤツが来ても負けない、まるで自信が山のようにそびえ立っているようだ。
「そうですね、確かに貴女はズルしてでも強くなりましたよ。しかし––––」
先ほどアリサがやられた閃光のような肉薄を、今度はユリアがやってみせた。
一瞬の出来事に、全く反応ができない。
「わたし、こう見えて天才ですので」
「がぁ……ッ!!?」
強烈な剣筋がミリアを鱗ごと切り裂いた。
2刀短剣モードになった『インフィニティー・オーダー』を、ユリアは空中で回転しながら振った。
「星凱亜––––『彗星連斬』!!」
公式戦でアルスに対しぶつけた怒涛の42連撃を、竜の身体へ連続で叩きつける。
両腕でガードしたミリアは、血を噴き出しながら蹴りを浴びせる。
だが、それで仕留められる相手ではない。
「貴女––––さっき会長を超えたとおっしゃいましたね?」
咄嗟に剣で受け止めたユリアは、靴裏にグッと力を込めて踏ん張り切った。
「その言葉の重みを、本気でわかって口にしたのですか?」
「ッ……!!!」
ユリアの中では、腹立たしさがマグマのように煮えたぎっていた。
アリサを殺されかけたこと、レナを殺されかけたこと、せっかくの旅行を邪魔されたこと。
だがそれと同等に、彼女は1つの想いを怒りで燃え上がらせていた。
「貴女はさっき……軽々しく会長を超えたと言った、わたしの、このわたしの前で!」
それは決して許されない言葉。
覇気のこもった声と同時に、魔力も輝きを増していく。
「会長と素で交える勇気もなかったお前が、本気であの人と戦ったわたしの前で……超えたと抜かす資格はありませんッ!!」
瞬時にモード変更。
重なった剣先が一気に面積を増し、ミリアに向けられた。
一目でわかる、巨大なハンマーに変貌したのだ。
「星凱亜––––『木星巨弾』!!」
鉄筋コンクリートが粉微塵になる威力の打撃。
野球ボールがごとく吹っ飛んだミリアは、無人の建物をぶち抜いて地面を転がる。
顔を上げれば、殺気と怒りに満ちた顔のユリアが距離を詰めてきた。
ハンマーが振り下ろされ、ミリアは直前に回避する。
地盤が噴水のように液状化して盛り上がった。
「ッ!!」
「わたしはあの人と戦った! 殺す気で、殺される気で戦った!! あの人の強さを真に語れるのは––––世界で唯一わたしだけの特権なんです!!」
生徒会長アルス・イージスフォードと、この世で唯一張り合えた彼女だからこそ。
猛る想いを吐き出し、叫ぶ。
「なにが特権だ!! なにが天才だ!! お前もアルスもズルばかりの有害物––––クソッタレの肥溜めに過ぎないのよッ!!」
空中に飛び上がった彼女は、驚異的な勢いで傷を治癒していった。
「なるほど、再生能力ですか」
なら……もうやることは1つだった。
「魔導士ミリア、貴女がどういう想いで『フェイカー』なんて物にすがったのか……わたしは知りません」
宝具を魔法杖モードに戻し、ユリアは残る魔力を奮い立たせた。
「知る必要なんてないからです、今––––貴女の目論見は完全に潰えますっ」
膨大な魔力がユリアの杖に収束していく。
やがてそれは夜にも関わらず、街の明かりすらかき消す光を放っていった。
超高熱、超高エネルギーの火球がユリアの『インフィニティー・オーダー』に宿る。
かつての公式戦でアルスに放った、彼女が誇る最強の特大魔法。
完全必殺の一撃––––
「星凱亜––––『太陽神越陣』ッ!!!」
これで私を消し炭にする気か!!
秒針が動くほどに過ぎない時間で結論を出したミリアは、すぐさま障壁を展開した。
最強の変身である『慟哭竜の鎧』を手に入れた私なら、必ず防げる!
そう確信と共に笑みを浮かべたミリアは、直後にユリアの表情へ気づいた。
––––笑っている……? まさかっ!!!!
全てが遅かった。
軌道を変えたユリアの『太陽神越陣』は、防御態勢のミリアを無視して上空へ––––
『神結いの儀式』が行われている空へ昇った。
「わたしの……勝ちですっ」
空いっぱいの魔法陣が、鉄球の直撃を受けたガラスのように粉砕された。
光のカケラが舞い落ち、ファンタジアに降り注ぐ。
街に散っていたレイが、ドクトリオンが、目を剥いて空を見上げた。
「ッ……!!!!! ユリアアアアァァアアアアアアアァァアアアア––––––––––––––––––––ッッッッ!!!!!!!」
怒号が天へ轟く。
激昂したミリアが、腕の筋肉を肥大化させながら急降下––––ユリアへ超高速で突っ込んだ。
もう避ける力もない。
ユリアはまぶたをゆっくり閉じていった……。
「会長……わたし、副会長として頑張れたでしょうか……」
爆発にも似た拳の衝突音が、ファンタジアを揺らす。
ユリアの眼前では……“六角形の焔”が花開いていた。
幾重にも重なった蒼色のそれは、竜の力を纏ったミリアの一撃をアッサリ防いでいる。
脱力したユリアを––––彼、生徒会長アルス・イージスフォードは背中からソッと支えた。
「あぁ、本当に……みんな本当によくやってくれた」
ポーションによって魔力を完全復活させた彼は、2つのエンチャントを同時に発動––––
全てを圧倒せし竜王の力、
『身体・魔法能力極限化』の蒼い魔力を纏った。
「あとは全部、俺に任せろ」
世界を揺るがす魔力量に、鐘の音にも似た音が鳴り渡る。




