第117話・努力せず、寄生ばっかの魔導士モドキ
屋台の並ぶ大通りで、ユリア&アリサのコンビは激しい戦闘に身を投じていた。
「合図で行くよっ! ユリ!」
「わかりました!」
相手は『神の矛』の元魔人級魔導士にして、アルスの元パーティーメンバー。
ミリア・クラウンソードだ。
彼女は『フェイカー』によって大幅なパワーアップをしており、身体能力ももはや常人のそれではない。
「ちっ。ウッザイわね……!」
だがそれも、王立魔法学園が誇るエリートには到底及ばない。
ミリアは高位炸裂魔法を避けた矢先、アリサの速度が乗った蹴りを見舞われて舌打ちする。
彼女の攻撃は、さっきからその全てが『マジックブレイカー』によって無効化されていた。
「こっちの攻撃魔法が効かないんじゃ……、不公平極まるわね」
「不公平? グリードってやつもそうだったけど、他人の能力でよくそこまで自信満々に振る舞えるもんだ」
地を蹴り接近、風で銀髪が勢いよくなびいた。
普段こそ快活な印象のアリサだが、その声のトーンは低い。
以前剣聖グリードがアルスにパーティーへ戻るよう学園に押しかけたときも、一番激昂したのは彼女だ。
「イキって逆恨みして、挙句にテロとかほんっっっとダサい。そんなやつが––––」
「がっ! ぐぅッ!!」
連続で殴打をミリアの顔面へ叩き込む。
「平等云々を語んなァッ!!!」
渾身の回し蹴りが叩き込まれた。
「ゴフッ……!?」
咳き込んだミリアは数メートル先で膝をつく。
唇からは鮮血が滴り落ちていた。
「ッ……!!!」
アリサにとって、強さとはストイックな努力によって磨かれる鋭利な聖剣に等しい。
だからこそアルスやミライ、親友のユリアを普段心の底から尊敬し、ミリアのような金で強さを買う輩は決して許しがたいのだ。
「努力せず、寄生してばっかの魔導士モドキが……わたしたちに勝てるわけないじゃん」
世の中にはハンディキャップがありながらも、必死の努力で輝きを手に入れた者が大勢いる。
そんな人間を、楽に強くなるしか脳のないヤツが語るのはさらに腹立たしい。
アリサ・イリインスキーとは、それほどに真っ直ぐで実直な人間なのだ。
「フッフ……、確かにアンタたちは強いわ。ユリアなんて同居時代は他の追随を許さない天才だった」
「今さら貴女に褒められても、嬉しくなんかありませんよ」
「でしょうねぇ、でもだからこそ……当時を知る私だからこそよくわかったわ」
アリサの攻撃で血塗れになった顔を、ミリアは不気味な笑みと一緒に上げた。
「ユリアぁ、アンタその宝具の力––––いま殆ど使えてないわね?」
「……ッ!!」
「図星みたいねぇ……義母さんが言ってたことを思い出すわあ。宝具が持ち主を認めない不機嫌な状態に入ったとき、その宝具は本来のスペックを絶対発揮しない」
「フン、その雑な記憶力をもう少しマトモに使えてたら……フォルティシア師匠もよろこんだでしょうね」
「アッハッハッハ! 無理に決まってるじゃない、私がアイツの養子に入ったのは研究室を使うためだけよ。親子の絆なんか求めてないわ」
「さすが……病院から人間の血と内臓を盗み、禁忌のドーピング魔法を発動しようとしただけはありますね。師匠が勘当した気持ちもわかります」
2人の会話へ、アリサが体ごと割り入った。
「マジで救いようがないねアンタ……。ユリが出るまでもない、わたしだけで十分! 魔導士モドキなんか––––」
周囲の魔力がアリサへ集中し、流れ込んだ。
「わたしの敵じゃないッ!」
彼女の髪が、再び壮麗な白銀から淡い紫色に変わった。
ブルーだった瞳も同様である、先ほどから戦いを有利にしている彼女のユニークスキル––––『マジックブレイカー』だ。
ミリアは口元を拭いながら立ち上がる。
「たしかにアンタは強いわ銀髪、その変身をされると攻撃魔法が一切通らない。まさにお手上げね」
「だったら大人しくぶん殴られなよ、今なら胃の中のもん全部吐き出させるくらいで、勘弁してあげるからさ」
だが、ミリアは不敵に笑う……。
「ニュースで見なかったかしら? 最近アルナクリスタルが大量に略奪されてるって」
「そんなの知ってるよ、わたしたちの列車もそれで襲われたしね。っていうか現実逃避でも始めちゃった?」
「いえ……フフッ、でも私はこう見えて結構親切なのよ?」
ボロボロになったローブを脱ぎ捨てるミリア。
新たにさげ直した『フェイカー』を、彼女は強く握る。
「アルナクリスタルは世界のあらゆる魔導具を活性化させる……。当然、この人工宝具も例外じゃないわ」
直感で危機を察知したアリサが詰めようとするも、ミリアの足元から黒色にまたたくオーラが爆発のように噴き出した。
「っ……!!」
「教えてあげるわ!! 数万個のアルナクリスタルを凝縮することで作り出された––––究極の『フェイカー』の力をッ!!!」




