第112話・VS大賢者ルナ・フォルティシア
豊水祭のイベントなのか、街中で色彩あふれる花火が打ち上がりまくっていた。
「綺麗じゃの〜、月夜の祭りにピッタリじゃわい」
そんな騒ぎをよそに、俺は小橋の上で大賢者––––ルナ・フォルティシアと対峙していた。
小柄な彼女は持ってきた板を地面に置くと、その上へ両足を乗せる。
彼女は飛翔魔法が使えないらしいので、自作魔導具『ぶっ飛び君1号』に乗って戦うらしい。
昨日のコロシアムといい、相変わらずネーミングセンスは謎だ。
しかし……。
「ポーションがぶ飲みしますね」
「ぷぅ……っ。これを作れる技術も含めてワシの持つ力じゃ、竜王級と戦うのだからこれくらいはさせてもらうぞ?」
「お構いなく、俺もそのまんま戦うわけじゃないので」
精神を鎮めた後、全身から紅い魔力を膨れあがらせた。
2つあるエンチャントの1つ、『魔法能力強化』を発動したのだ。
「凄まじい魔力じゃのぉ、こりゃあこっちも本気出さんと負けかねんわい」
妖艶な笑みを浮かべつつ、コップ代わりの試験管をしまうフォルティシア。
杖を持ったユリアが、前に出ながら先端を上に掲げた。
「2人共……準備はよろしいですか?」
「あぁ」
「もちろん」
眼前の大賢者を見据えた。
負ければ俺の古代帝国跡地における苦労は、全て消え去る。
これまでの冒険を否定するような結果は、絶対に出さないっ。
「勝負––––開始ッ!」
大賢者は必ず先手を取ってくる、そんな俺の確信は当たっていた。
「『高速化魔法』!!」
開幕で『ぶっ飛び君1号』を加速させたフォルティシアは、俺を無視して上空に飛び上がった。
花火に負けない閃光が真上で走り、まるでシャワーのごとき流星が俺目掛けて降り注いだ。
「『飛翔魔法』!!」
こちらも上空目掛けて飛行。
攻撃をかいくぐり、地面を覆った爆発を背に避け切った。
先制攻撃のアドバンテージを消すように、俺はフォルティシアへ蹴りを打ち込んだ。
「ほぅ、今のを避けるか……!」
木製の杖でガッチリガードされる。
「あんな派手な爆発、良いんですか?」
「既に市には通告済みじゃ、花火大会で人間もコロシアムに集まっとる! だからおぬしも存分にやるが良いッ!」
再び距離を取る。
加速してこちらを突き放す大賢者へ、俺は同速度で追いかけた。
ああは言ってるが、手加減しないと街に被害が出過ぎる……。
ならば。
––––ダァンダァンダァンッ––––!!
拳銃を使う。
しかし、建物を使って巧みに機動する彼女には残念ながら掠りもしない。
それどころか、高層タワーを利用して急旋回––––俺へカウンター魔法が放たれた。
「『レイド・スパーク』!」
鍛えた反射神経で咄嗟に回避。
マトモに食らえば、灰になりかねん出力だ……!
花火と街明かりで輝く広い屋上へ、転がるように滑り込む。
フォルティシアは、速度にものを言わせて突っ込んできた。
『ぶっ飛び君1号』速すぎだろっ。
「やはり思った通り、距離を詰めれば終いじゃな! 竜王級!」
「あぶっ!!」
最大速度で空中へ回避。
高層建築群をかわしながら、俺は拳銃を撃ち続けた。
……どうする、市街の中央で全力なんか出したら多分、市の想定する被害を超えてしまう。
かと言って逃げ続けて何とかなる場面じゃない。
「当たるわけなかろう! 拳銃ごときでワシは止められんッ!!」
放たれた魔法を回避。
彼女は、『魔法能力強化』が身体能力まで上げないことを見抜いている。
だから執拗に隙潰しをしているのだ。
肉弾戦や近接戦に持っていけば、俺が空中じゃなにもできないと踏んでるらしい。
「じゃあ––––こう言うのはどうだ!」
空のマガジンに炸裂魔法を付与して投擲。
フォルティシアへ直撃した。
「小賢ッ……しい!!」
やはりこれじゃ効かないか。
もう少しだけ我慢だ。
「はっ!」
俺はさらに加速。
市街エリアを一気に飛び越え、ファンタジアを切り裂く河川に躍り出た。
こっちの予想通りなら……そろそろだ。
現在の戦局を大賢者が有利だと思ってくれたなら、いつ仕掛けてきてもおかしくない。
そこが唯一の狙い目だ。
「掛かったッ!!」
フォルティシアが叫ぶと同時、俺の周囲を瞬時に光が包んだ。
トラップとして仕掛けられていた大規模空間魔法が、空中で俺を捕らえた。
大幅に動きが封じられる。
なるほど……、これをずっと狙っていたのか。
「おぬしなら––––必ず街を気遣い、この河川上空へ飛ぶと思っておった。
間違いない、来る……!
「大命に馳せ参じよ! 宝具––––『インフィニティー・ハルバード』!!」
亜空間から現れたのは、名前の通りフォルティシアの身長を超える大きさのハルバードだった。
問題は、それがユリアの物と同等の”宝具“であること。
「滅軍戦技––––!!」
杖の代わりにそのグリップを掴み、大きく振りかぶる。
刃の先端に至るまでをとてつもなく膨大な魔力が覆う、あまりの量に地鳴りが起きるほどだった。
これが彼女の全手札……っ。
大陸を統べる大魔導士にして、古の大賢者。
あのユリアを育てた師にして親かッ!
「これで終わりじゃあッ!!『アルファ・ブラスター』ァアア––––––––ッッッ!!!!」
黒鉄のハルバードが振られ、次元ごと全てを貫通する攻撃が放たれた。
街の全ての構造物を貫いてなお、山すら穿ちそうな出力の魔法。
「……やっとだな」
俺の右手で、紅色と金色の魔力が合わさった。
ここまでの全部、すべてが思惑通りだ。
「相手の全手札を切らせた上で完勝する……それが俺の勝ち方だ! 借りるぜカレン!!」
突き出した手の先で、青色の焔が六角形を形成して集合する。
俺が知る限りで……史上最強の防御魔法!
「『イグニール・ヘックスグリッド』!!!」
展開した最上位障壁に、『アルファ・ブラスター』が直撃する。
光の柱と共に大河が割れ、衝撃波が街を駆け抜けた。
大賢者の攻撃は––––完全に防がれた。
そして彼女は数秒後、俺へ勝負を挑んだ現実に絶望することとなる。




