第111話・インフィニティー・オーダー修理完了
襲撃者を退けた俺とミライは、とりあえずフォルティシア邸の近くでユリアらと合流していた。
中央街からバスに乗って10分ほどなので、さして苦労はない。
「……なぁユリア」
「は、はい会長……」
「俺が言いたいこと……わかるよな?」
真っ青かつ汗だくの顔を逸らすユリアへ、俺はあくまでニコニコ顔を崩さず問いかける。
簡単だ、彼女は嘘をついていた。
「なんでフォルティシアさんに用事があるって言ってたお前が……、俺と同じ反対方向のバスに乗ってたんだ?」
「いえ、それは……ですね会長。アリサっちがハチに刺されちゃいまして……薬局へ行った帰りに偶然同じバスに––––」
「ほぅ、徒歩30秒のドラッグストアがそこにあるというのに……お前ともあろう人間が見過ごしたと?」
「うぐっ……!」
苦虫を噛んだような表情のパートナーへ、アリサが恐る恐る近づく。
「ねぇユリ、もう素直に謝ろうよ。尾行してましたごめんなさいってさ」
「い、言えるわけないじゃないですか! 生徒会副会長たる者が会長をストーキングだなんて……学園どころかエーベルハルト家末代までの恥ッ!!」
「でもしちゃった事実は変わらないよ? ユリ、このままだと会長に痴女認定されちゃうかも」
「痴……女!?」
うつむき、ワナワナと震え出したユリアは両手で頭を押さえる。
「……ヴィルヘルム帝国トップの大貴族令嬢にして、学園ランキング2位、生徒会副会長のわたしが……痴女……っ!?」
相当な精神的ダメージを負ったらしいユリアへ、ミライが親切心でカバーに入った。
「だ、大丈夫よエーベルハルトさん……! もしあなたが痴女だとしても、わたしはずっと友達だから!」
「ゴフッ!!」
完全な追い討ち、オーバーキルが炸裂する。
よく思うが、ユリアって上流貴族なのにどこか隙が多いんだよなぁ……。
そこが良いんだけども。
「ほれ行くぞ、あんま遅いと大賢者様にどやされる」
「あれ、アルスくんから追求はなし?」
「全然気にしてないと言えば嘘だが、俺だってくっつきそうなヤツら見たら焦ったく思う。今回はチャラにしてやるよ」
「会長……」
「だが––––」
振り向きざまに、金髪で覆われた頭をガッと掴む。
「1つ貸しだ、副会長なら落とし前くらいつけれるよな?」
「あうぅっ……」
これで俺が“気づいてない”と思ってるんだから、我が副会長もまだまだ隙だらけだな。
ベルを鳴らして、入室。
相変わらず雑然とした廊下を進んでいくと、途中で家の主が迎えてくれた。
「やぁやぁ待っておったぞ、待ちくたびれてポーションを3つくらい作ってしまったわい」
黒い帽子をかぶった、いかにも魔法使いという風貌で大賢者ルナ・フォルティシアは両手に持ったフラスコを掲げる。
「師匠、それ魔力ポーションですか?」
「そうじゃユリア、後はこの3つを調合すれば魔力ふっかーつ!!な超ポーションができあがるぞ!」
「さすがです! 今度わたしにも作り方を教えてください」
「良いぞ我が愛弟子よ、お前にはワシの全てを教えておきたいからな––––あ、そうじゃ!」
バタバタと研究室の奥に駆けていったフォルティシアは、ポーションではなく1つの金色に輝く杖を持ってきた。
俺にとっても、非常に見慣れた宝具だ。
「ほれユリア、預かっていた物を先に返そう」
「ッ!『インフィニティー・オーダー』……! ありがとうございます師匠!」
受け取るや、まるで我が子のように杖を抱き締めるユリア。
目尻には涙さえ浮かんでいた。
「良かったねエーベルハルトさん」
「はい……ありがとうございます、今度は誰が相手だろうともう折らせません」
喜ぶ彼女らを背に、フォルティシアは俺に数枚の書類を差し出した。
「件の魔導照準器量産についてじゃが、一応目処が立った……。権利申請と工場の確保もワシに任せてくれ」
「ありがとうございます、利益の分配についてはどうしますか?」
「それについてじゃが……」
フォルティシアはニッと、端正な顔を笑みで埋めた。
「おぬしの実力を見て決めることにした、本当にあの古代帝国跡地から自分で持って帰ってきたものか……正直疑っておっての」
「……っと言いますと?」
「勝負がしたい。おぬしとワシ、勝った方が分配率を決められる。まさか受けられんとは言えんな? ––––300年ぶりの竜王級エンチャンターよ」
床まで届きそうな亜麻色の髪を下げた、外見13歳の大賢者はニマニマとこちらを見て舌なめずりした。
あっ、この人……お金には結構がめついタイプだ。




