第108話・襲撃者? 論外だ、狙撃の戦術を一から学んで出直してこい
落下してきた大量の鉄柱を、俺はミライへの命中弾のみ突っ込んで蹴散らした。
轟音と土煙の中で、ミライを抱えながらブレーキを掛ける。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……っす!」
突然の状況が掴めないのか、腕の中でキョトンとするミライ。
「早速で悪いがお姫様抱っこはおしまいだ。肩に抱えさせてもらうぞ!」
「ひゃっ!」
俺がその場を飛びのいた瞬間、石畳が紫色の炸裂で弾けた。
魔力弾による狙撃……、鉄柱が防がれるのは想定内ってわけか。
俺は身体から、『身体能力強化』発動のサインである金色の魔力を溢れさせた。
襲撃上等––––撃ち抜けるものなら、撃ち抜いてみろッ!
パニックに陥る路上。
走り回る人間や、玉突き事故を起こす車両を飛び越えながら、俺は超高速で機動した。
「ちょ! アルス速いッ!! 横から車来てる! 怖い怖い怖い怖いッッ!!!」
怖がるミライを悪いとは思いつつ無視。
俺に向かって放たれる魔力弾は、控えめに言っても正確ではなかった。
それゆえに、こっちが動きをしくじれば市民に巻き添えが出かねん。
俺は大通りだけではなく、高層タワーの小路を使って逃げ回る。
「さて……」
雑な奇襲だったが、とりあえずここまでで分析はできた。
そろそろやるか。
「『広域探知』!」
索敵を開始してみるが、異常な動きをする物体は感知できない。
情報1:敵は魔導偽装を行っているようだ。
「よっしミライ、もう降ろすぞ」
「う、うん……。でもレイちゃんが……」
「今は自分の身を案じろ、他人は気にすんな」
心配をなんとか顔から拭ったミライが、地面へ靴底をつける。
「たぶん襲撃者は高等魔導士だ、鉄柱落としによる俺のポイント誘導から狙撃まで念入りに計算されていた……。おまけに探知魔法にも引っかからん」
「すっご、よくあんな状況でそこまで緻密に分析できるわね……」
「ヲタクの性分ってやつだよ……雑な映画の展開は先が読めるし、分析してツッコミ入れたくなるだろ? それと似てる」
「あー、なるほど」
っと、どこか納得するミライ。
俺はベルトに隠していたM1911ハンドガンを取り出し、スライドを引いて離す。
これで薬室に弾が入ったので、あとはトリガーを引くだけだ。
「俺の背中にピッタリついてこい。それと、『雷轟竜の衣』には変身するな」
「えっ、どうして……!? アレめっちゃ強いのアルスは知ってるじゃん」
「あんな芋スナごときに切り札使うなって意味だ、それ行くぞ!」
走り出した瞬間、背後から魔力弾が次々に飛んできた。
レンガや街灯が、またたく間に砕けて四散する。
「どうすんのよ!? めっちゃ撃たれてますけどぉッ!!?」
「スピード自信あるんだろ? こんなん学校の実習でいくらでもやったじゃねぇか。それでも学園8位か?」
「はあぁ!? 上っ等ッ! 全部避けてやるわッ! インドア勢舐めんなァッ!!
俺とミライは、巨大な河川の側まで一気に走り抜けた。
そして––––
「よっしッ! 飛ぶぞッ!!」
彼女の手を掴み、俺たちは幅がえらく大きい川へジャンプした。
着地点は当然水––––なんかではない。
ドゴンと、船が大きく揺れた。
「な、なんだアンタら!?」
「すみません、乗船料は後で払うんで!」
川をクルージングする屋台船……その天井だ。
すぐさま銃口を、ジャンプした河岸の建物屋上へ向けた。
––––ダァンダァンダァンッダァンッ––––!!!
4発を発砲。
撃ち出された45ACP非貫通弾は、屋根上からこちらを伺った瞬間の人間を撃ち抜いた。
明らかに魔導士、敵だ。
「アルス、当たった……?」
「手応えありだ、死んじゃいないだろうが……もうこっちを追撃なんかできないだろうな。魔法信者め––––銃弾舐めんな」
「や、やっぱアンタ凄いわ……、拳銃当てる腕もだしよく見つけたわね」
「大したことじゃねーよ、敵が狙撃の初歩すら知らないミリヲタ以下のヤツだっただけだ」
銃をしまい、彼女にニッと笑顔で応える。
「こちとらどんだけ強敵を相手してきたと思ってる。俺を狙撃したいならビル全部借り切って、部屋の最奥から銃口見せずに対戦車ライフルくらい撃ってこなきゃ話にならん。せいぜい出直してもらおう」
敵は屋根上なんていう目立つ場所から、派手極まりない魔力弾を放ってきた。正直言って論外である。
俺はマスターと以前、サプレッサー付き狙撃銃による襲撃回避訓練もしたことがある。
大英雄殿の立ち回りに比べれば、雑多な戦術極まりない。
「で、どうすんのよアルス……」
「あぁ、とりあえず––––」
俺はこちらを呆然と見つめる船長さんへ頭を下げた。
「金払って、穏便に立ち去るぞ」
「りょーかい!」
それにこれから、大賢者フォルティシアさんのところにも行かなくちゃだし。
レイや襲撃者の正体については、一旦後回しだ。
……まぁ、もう大方予想できてるけど




