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第104話・超大国アルト・ストラトス始動

 

「さて諸君、状況は非常に面白くなってきた」


 ––––王都 アルト・ストラトス大使館。


 この建物は、砲撃から武装集団の襲撃まで考慮して造られている。

 現地諜報員を統括する司令部としての機能も持っており、それに相応しい部屋がいくつもあった。


 その一室である地下オペレーションルームで、黒が基調の軍服を纏った男––––ジーク・ラインメタル大佐が立っていた。


 彼は新大陸では勇者という、グランとよく似たポジションの人間だった。

 あえて違いを言うならば、軍属で戦闘狂(ウォーモンガー)ということ。


「我々がデスクワークへ夢中な間に、幼稚な闇ギルド共は島を丸ごと消し去ってしまった。友邦の領土消失は実に、じつに痛ましい……」


 わざとらしく、悲しんでいるよう振る舞って見せる。

 大型魔導モニターには、艦上からのリアルタイム映像が映る。


「これが、アルストロメリアのあった場所か……!」


「なんと……! おぞましいッ」


 大使館員や、派遣軍人たちが顔を歪める。

 モニターには、海から空まで突き出た巨大なクレストを中心にあらゆる残骸が浮かんでいた。


 ミリシア海軍の練習艦や、補給船などが水面を離れて瓦礫と一緒に漂っているのだ。


 常軌を逸した光景に、言葉が出ない者すらいる……。

 ラインメタル大佐を除いて。


「これは海軍の軽巡洋艦が、重力消失エリアのギリギリまで寄って撮っている。元が無人島なので犠牲者はゼロ……それだけがミリシアにとっての救いだろうね」


「ラインメタル大佐、原因は不明なのですか?」


「目下調査中……っというのが建前だ少佐、“安保”を盾に大使が直で聞き出してくれたがね」


 ミリシア王国は、交流以来アルト・ストラトスと同盟に並んで安全保障条約を結んでいる。

 これは、どちらかが戦争になったら協力して敵を倒そうぜ。的なものだ。


「状況は流動的かつ、危機的ですし……多少の強引さはやむを得ないと考えます」


 実際の力関係は、圧倒的にアルト・ストラトスが上だ。

 そもそも軍事力とGDP(国民総生産)を始めとした経済力からして違う。


 超大国にゴリ押されれば逆らうことなどできない。


「まぁ、そこは大使も深く反省しておられた。後日の経済協力交渉ではかなり譲歩することになるだろう」


 もっとも、だからといってガキ大将を気取れはしない。

 いくら力があっても友達がいなければ、国際社会じゃやっていけない。


 今回ゴリ押した分を、ミリシアにはキッチリ見返りとして払うだろう。


「それで、ミリシアから得た情報はどうだったんです?」


 少佐階級の軍人の問いに、ラインメタル大佐はモニターの画面を変更することで応える。


「結論から言おう––––あの島では『神結いの儀式』、その試験が行われたらしい」


 全員が一斉に立ち上がる。


「『神結いの儀式』だと!? 人間が神へ至ろうとした古代の原罪じゃないか!!」


「ありえん!! 儀式用の神器も、それを行える人間ももう無いはずだ! 本当に事実なので!?」


 ラインメタル大佐はただ一言、「事実だ」とのみ告げる。


「三大闇ギルドの仕業に違いはないだろう、そして『ルールブレイカー』にはかの天才……ドクトリオン博士がいる。不可能ではない」


「魔導タブレットの試作機を開発したというッ? たしかにヤツならば……」


「それが事実だとすれば大佐……、ヤツらは能力売買市場(ヘブン・マーケット)のみならず、喪失した神に成り代わろうと……!?」


「大いにあり得るだろうな、それは我が国にとって大変望ましくない事態だ」


 魔導モニターは、一枚の図を映し出した。

 それは––––ミリシア王国全土を描いた地図、そして在ミリシア駐留軍の展開プロットだった。


「そしてもう1つ、今日より急激な磁場の乱れが【温泉大都市ファンタジア】で観測された。これは『神結いの儀式』の前兆と推測できる」


「文献では……万単位の命を引き換えにするとされています、今すぐ避難勧告を!」


「大尉、これはミリシア王国内での話だ。我々にここの国民へ強制させるような布告は出せない」


「しかし……!!」


 その瞬間、オペレーション・ルームの扉が勢いよく開かれた。

 入ってきたのは、大使館職員だ。


「緊急の議題中失礼します! 先ほどミリシア政府より正式に、安全保障条約適用による対テロ掃討作戦の要請が出されました!!」


 職員の言葉に、ラインメタル大佐は我慢しきれず歓喜の声を上げた。


「素晴らしい!! 大変結構だ! 我々はついに安寧への挑戦者に逢う機会を得た!!」


 モニターの画面、その様相が一気に変わる。

 アルト・ストラトス王国軍を示す符号が、一斉にグリーンから“戦争準備態勢”を示すオレンジへ変わったのだ。


「まったく、まったく人生とは愉快極まりない……!! いつだって人間は塔を建てたがる、それが言語ごと崩れるのもわからずにな!」


 全員が起立し、ラインメタル大佐へ傾注する。


「諸君––––新大陸に来て数年……遂に戦争を始めるぞ、我が国は全ての力をもって、新たな神へならんとする愚者を殲滅するッ!!」


 ざわつく大使館内、オペレーション・ルームから1人出たラインメタル大佐は頬を吊り上げた。


「だが残念ながらまだ我々では間に合わない、ファンタジアは任せるよ……数少ない私を負かした最強の竜王級。アルス・イージスフォードよ」


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