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第102話・ファンタジア温泉バトル

 

 尻もちをつきながら、忌々しげにこちらを睨め付ける少女––––レナは汗をダラダラ垂らす。

 湯気の中で、桃色の髪を下げながら硬直していた。


 その姿はなんと水着である。


「ッ……! なんで、バレたのよ。こっちは大金叩いて透明化ポーション買ったのに……ッ」


 その言葉に、温泉でくつろいでいたミライが縁にもたれながら一言。


「透明化ポーションねぇ……ここ女湯なんだから、別に姿隠す必要なくない?」


「ハァッ!? 大アリよ大アリ! これは隠密偵察、アンタらにバレたらアウトなのよ!」


「じゃあもうアウトだねぇ」


「ッッ……!!!」


 バッと立ち上がったレナは、3人に指を差しながら叫んだ。


「ええぃうっさいうっさい!! 姿を隠してたのは竜王級の弱点を見つけるためよ、アンタらの会話から探ろうと思ってたの!!」


「わざわざお風呂で、会長の弱点なんていうピンポイントな話題すると思いますか……?」


「んなこたすぐわかったわよ! アンタら普通にめっちゃ温泉楽しむばかりでバトルにすら触れない、しくじったって後から気づいても引き返すには遅かったし……!!」


 やはりバカだ……。

 そんな言葉をギリギリ飲み込んでから、アリサはとりあえず聞いてみる。


「っで、結局ユリに看破されちゃったわけだけど……どうする? もういっそ開き直って一緒にお風呂入る?」


「誰がアンタらと! ここで会ったが数時間ぶり、全員ぶっ倒してやるわ!!」


 空間から大弓を具現化したレナは、矢先をユリアへ向けた。

 だが……そこまでだ。


「んぎゅぅッ!!?」


 超高速で肉薄したユリアが、その場でレナへ足払いを繰り出す。

 体勢を大きく崩した彼女の腕を掴み、そのまま温泉へ投げ飛ばした。


 バッシャーンと、しぶきを盛大に上げてレナはお湯へ頭から入場する。


「ぷはぁっ……! な、なにすんのよ!」


「それはこっちのセリフです、荷物はちゃんとロッカーにしまってきてください」


「そこ!? っつかわたし、男湯方面から外伝いに侵入したんだから無理に決まってるでしょう!?」


 ずぶ濡れのレナへ、ミライが忍び寄り––––


「えいっ!」


 素早い手つきで水着を脱がした。


「はっ……!? お前ええぇぇえええええッ!!?」


「怒鳴られる道理なんてないわよ? ここ水着入浴禁止だし」


「そ、そうなの!?」


「そうそう、だから水着なんて着て入ったらダメ。ちゃーんと脱いでから入りましょうね〜」


 とても良い笑顔のミライだが、それを見るユリアの瞳は若干冷たかった。

 なぜか? 簡単である……ここは“水着入浴可”だと張り紙に書いてあったからだ。


 まぁ……今回は良いだろうと、ユリアは冷めないうちに温泉へ入り直す。

 水着を手でヒラヒラさせながら、ミライはニマニマしていた。


「で、レナちゃん……この水着返して欲しい?」


「あっ、はい……返してほし––––じゃなくて、返せっ! なにかぶろうとしてんのよ変態!!」


「まぁまぁ、良いではないか良いではないか。じゃあね〜1個言うこと聞いてくれたら返してしんぜよう」


「……もし聞かなかったら?」


「タオルよろしく、これを頭からかぶってあげる♪」


「ッ!!!!」


 この変態ぃ……ッ!!!

 だがお気に入りの水着を人質に取られたレナは、悔しさに身を震わせながら肩までお湯に沈めた。


「……1個だけだっ!」


「おっけーい、じゃあ単刀直入に言うね」


「早く言え! そして返せッ!!」


「はいはい、じゃあ––––––1つ。“イキってごめんなさい”ってちゃんと謝れる?」


「はぁっ!!? わたし今日竜王級に1回謝ってんだけど!?」


「わたしやエーベルハルトさんは、まだアンタの昼の態度で不快になったこと忘れてないわよ?」


「うぐっ……!!」


 真横でジーッと、コロシアムでチビ呼ばわりされたユリアが見つめていた。

 歯を食いしばりながら、レナは顔を真っ赤にして下へさげる。


「い、イキってごめんなさい……。チビ呼ばわりしてすみませんっ。わたしがおバカちゃんでぢた……」


 レナに水着を返しながら、ミライはニッコリ微笑んだ。


「うん、最初からわかってたわよ」


「ッッッッ!!! 全員いつか、いつか絶対絶対ぜーったい殺す!!! おぼえてろおおおぉぉおおおおおおッ!!!」


 そのまま風呂場を飛び出し、タオルだけ巻いて更衣室から外へ走り去るレナ。

 そんな彼女とすれ違ったのは、風呂上がりでご機嫌のアルスだった。


「あれ? 今のヤツって。ん〜……まぁ良いか」


 コーヒー牛乳の瓶を持ちながら、アルスはわき目も振らずソファーへ向かった。

 このファンタジア旅行を提案した時からずっと目論んでいた。自身の計画を実行に移すために。


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