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人形少女は踊らない  作者: 白神 怜司
幕間 Ⅱ
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閑話 エリルナファンクラブ

 ――今日も尊い……ッ!

 薔薇姫様ことエリザベート様の麗しいストロベリーブロンドの髪は煌めいていて、さすがは公爵令嬢と言いますか、育ちが違うと言いますか、同じ世界に生まれてきてごめんなさいと言いますか、ふわりと纏った香水の香りが鼻を掠めるだけで鼻血ものです。


 そんなエリザベート様とはまた異なる魅力を持つ、殲滅姫ことルナ様。

 悲惨な境遇、不遇された時代を乗り越えた代償とも言える変わらない表情は、しかし薔薇姫様と共にいる時のみ弛緩した空気を纏っているように思えます。

 痩せているお姿は過去を考えれば至極当然ですが、それでももう少しぐらいお肉がついて女性らしさを得たら、きっと花開くような美少女となるのは間違いありません。


 あのパーティー以来、ルナ様こと殲滅姫様がお肉をお肉様と呼び、非常に気に入っていらっしゃる事は周知の事実。

 一時期はルナ様に食べ物を献上して取り入ろうとした愚か者共がいました――私も含めます――が、しかしルナ様、私達の顔より食べ物にしか全く興味を持ってくれませんでしたね。


 ただ、それでも良いのです。

 たとえルナ様に覚えてもらえなくても、私達が渡した食べ物をなんだかんだでエリザベート様に分けようとして、慎み深いエリザベート様が「一人で食べなさいな」と言いながら微笑んでルナ様の頭を撫でる姿――尊いッ!


 おっと、いけませんね。

 ついつい滾ってしまいました。ごめんあそばせ、おほほほ。

 エリルナファンクラブ会員一桁番号所有者の矜持として、人前では無意味に騒ぎ立てず、にわかファン共に目を光らせつつ尊さを愉しんでこそ。それを破ってしまう訳にはまいりません。


 そんな私達だからこそ、エリルナの戯れ――もとい、騎士科での訓練というものは是非見学させていただきたく、侯爵家の令嬢としてついつい張り切って学園に交渉してしまいましたわ。


 本来ならば部外者立入禁止となっている騎士科訓練への見学――ただし、魔装持ち近接クラス限定――を利用して、生徒達からの“善意の寄付”を募ってはいかがでしょうか、と。

 戦闘を間近で見る事によって、有事の際に恐怖に凍りつかぬ耐性をつける事ができれば、避難する事も容易くなりますし、設備に投資できると考えれば決して悪いお話ではないでしょう、と。


 学園長はかなり渋っていましたが、昨今では貴族社会も魔物の大量発生に対する警戒に力が入っていますし、私達エリルナファンクラブの上位メンバー陣は貴族の子息令嬢が多いので、署名もあってか割とすんなりと許可をいただけました。


 何をしたかと言えば……ふふふ。

 いくら子息令嬢であろうと、私とて貴族社会に生きる者。

 交渉における数の力と、交渉におけるメリットをしっかりと挙げ、断る事によるメリットを潰すぐらいは当然です。


 いえ、そんな事を語る必要もないでしょう。

 私のような些末な存在はさておいて、エリルナファンクラブについて、皆様には改めて説明しておくべきでしょう。




 ――――私達エリルナファンクラブの母体となっているのは、社交界の華として名高く、次期社交界の女王となると目されていたエリザベート様ファンクラブでした。


 他者を寄せ付けず、これまで孤高を貫いていらした社交界の華であらせられたエリザベート様が、あのクソ……コホン、ジェラルド殿下のせいで悪役扱いされていましたが、『白百合寮の覚醒』と名付けられた、かの一件――殲滅姫様の登場によって汚名は払拭されました。


 高等科に入った途端、流星の如く現れたルナ様。

 私達の誰もが、最初の頃はあまり良い印象を持っていなかったものです。

 殿下やその他一行によって孤立しているエリザベート様の権力を目当てに吸い寄せられた不届き者、というのが共通認識でした。


 貴族の子息令嬢である私達は、殿下から敵視されているエリザベート様を庇おうとしても、かえってエリザベート様のお心を痛める結果となりかねませんでした。

 それ故に、せめてエリザベート様がお心を煩わせないようにと距離を取るしかなかった無力な私達とは違い、平民であるが故に貴族社会の風聞を気にする事などなかったルナ様に対し、私達は有り体に言ってしまえば嫉妬していたのでしょう。


 自分達が指を咥えて見ている事しかできない状況にありながら、エリザベート様に近づく者。


 それは実に羨ましく、そして同時に妬ましく。


 私達は愚かにも、ルナ様がエリザベート様――延いてはファーランド公爵家へと吸い寄せられた有象無象と同じように見ていたのです。


 ですが――あの御方は殿下や高位貴族ら相手に堂々と立ち向かわれた。


 あの白百合寮での殿下らに対するルナ様のお言葉の数々。

 あれは私達の嫉妬に狂った目を覚まさせるという意味でも、まさしく『白百合寮の覚醒』であったのです。

 そして同時に、私達はエリザベート様ファンクラブから、エリルナファンクラブという存在に進化する事を決意、合意しました。


 もしも殿下が権力を利用して、エリザベート様とルナ様を陥れようものならば、次こそは私達がお二人を助けよう。ありとあらゆる人脈を駆使し、あのお二人を守れるよう、力をつけよう、と。

 エリザベート様の為に立ち上がるルナ様は平民なのですから、あっさりと排斥されてしまうかもしれない。そうなれば、エリザベート様もまた深く傷ついてしまうだろうからと考え、私達もまた陰ながら立ち上がったのです。


 これこそが、『白百合寮の覚醒』が持つ真実。

 私達がするべき事を、できる事を自覚し、立ち上がるに至ったあらましです。


 ――もっとも、あの御二人は私達が手を貸すまでもなく、全てを華麗に決着させてみせましたが。

 せっかく動いているのに、といった傲慢な考えは私達にはありません。


 何故なら、あの御二人の関係を見ているだけでも十分過ぎる程に幸せになれますからね。




 ――――さて、我がエリルナファンクラブについてはご理解いただけたでしょう。


 本日も定例会です。

 学園内の一室にて、会員ナンバー一桁台――つまりは幹部クラスが集まっています。


 現在、我がエリルナファンクラブは大きく分けて三つの派閥に分かれています。


 最大派閥と言えるのが、『殲滅姫様を姉のように見守る薔薇姫様と、そんな薔薇姫様を慕って無意識に甘えつつも守る殲滅姫様、二人の関係尊い』派。


 これはどちらかと言えば一般向け――いえ、一般的な方々に多い傾向にありますね。


 あとの二つは、どちらも“薔薇姫様と殲滅姫様のどちらを推しているか”によって分かれます。

 御二人の関係を見ている内に自然と好みが分かれ、『薔薇姫様に可愛がられつつも、薔薇姫様を慌てさせる殲滅姫様の無意識な一言が尊い』派と、『殲滅姫様の何気ない一言に真っ赤になってもじもじする薔薇姫様が尊い』派といった傾倒したものが派生しました。


 ――ハッキリ言いましょう。

 私はもちろん、そんな派閥は幹部クラスにとってみれば、ナンセンスです。


 そもそも『御二人の幸せそうなやり取りが至高』というのが我々の共通認識。

 甲乙付けるなど甘い! どれも尊いのですからッ!


「本日のエリルナ観察ですが……尊かった、以上です」


「しょうがないね、うん。それはしょうがない。それしか言えない」


 具体性のない報告ですが、これはしょうがないですね。

 他の幹部も皆さん揃って深く頷いていますし、私達にとっては『尊い』の一言でありとあらゆる妄想――もとい、記憶が蘇ってしまいますから。

 そこに迸る愛情(鼻血)が溢れてないだけマシです。


 そんな事を考えていると、我らがエリルナファンクラブの会長――会員ナンバーゼロ番の御方がくすりと笑みを浮かべました。


「今日は皆様に、朗報があります」


「朗報、ですか?」


「えぇ、朗報です。一般会員には絶対に教えてはなりません。もしも教えれば、混乱を招く事になりましょう」


 私達の誰もが、思わず息を呑みました。

 エリザベート様を敬愛しており、エリルナファンクラブとなってからも尽力されていらっしゃる会長が、まさかそんな言い回しをされるとなれば……当然、只事ではないでしょう。


「――今週末、エリザベート様がルナ様を連れ、王都を案内がてら買い物する約束をしていましたわ」


「なん、ですって……ッ!」


「それは……ッ!」


「バカなッ! 一般会員に知られてしまえば、ただの貴族のお忍び騒動では済まんぞ!?」


 口々に飛び交う言葉に、私もまた頬に汗が伝うのを感じました。

 そんな事が知られてしまえば、偶然を装った一般会員達が殺到しかねない……ッ!


「ですから、一般会員に知られる訳にはまいりません、と言ったのです。わたくし達が全力で観察――お守りする為には、一般会員を隔離する必要がありますわ。ですので今回、私達は陽動作戦を用います」


「陽動作戦とは……?」


「エリルナが学園にいるという情報を流し、一般会員を学園に押し留めます。――当然、信憑性をしっかりと持たせる為に、会員の内、数名は学園にて一般会員の監督という日常通りの業務を行う必要があります」


「――ッ、それは、つまり……」


「……犠牲を払うしか、ないのね……」


 つまり、エリルナ様のプライベートを覗き見できる数少ない機会であるにもかかわらず、混乱を防ぐ為にこの場に残れ、と……。


 会長、なんと無慈悲な……ッ!


「――誰が見張りに残るかは、本来ならわたくしが決める事。しかし、今回は皆で平等に決めたいと思います。当然、運次第ではわたくしが残る側になる事もあるでしょう」


「そ、それは……! 会長は情報を掴んできたのですよっ!? 何より会長なのですから、ここは――」


「お黙りなさい」


「……ッ!」


「わたくしは確かに会長の席に就いています。しかしながら、私達は同胞。同士であり、同志でもあります。権限を用いて強権を発揮する事は容易いですが、私達はそういう関係ではありません」


 ですから――と言って、十本の線が伸び、下が折り畳まれた一枚の紙を会長が机の上に置きました。


「それぞれの平行線の間に、それぞれ二本ずつ横線を書いて繋いでください。その後、会員ナンバー九番から順に平行線の一本を選ぶのです。その先に当たりとハズレが書かれていますので、当たりが出れば観察――お守りを。ハズレとなれば、学園での監督業務に就いていただきます」


「……なるほど。ランダムに繋がった線を伝って、折り畳まれた箇所に書かれたゴールへと向かう、という訳ですね。しかし、こんな決め方は見た事がない……」


「東国でこういった選別方法があると耳にしました。決して均等とは言えませんが、当たりとハズレの場所を知るのはわたくしのみ。当然、わたくしは逆算できないよう、最後に選ばせてもらいます」


 ――徹底している。

 思わず言葉を失う私達を他所に、会長は二本の横線を描きました。


「さぁ、会員ナンバー順にこのように線を」


 ――その後、私達はそれぞれに線を描き、順番通りに平行線を選んでいきました。


 結果は、語るまでもないでしょう。

 ただ、私達はお互いがお互いに死地へと向かい合いつつも生還を祈るような面持ちで、それぞれにアヴァロニア式の敬礼を贈り合う事となったのでした。




 ……あ、会長。どんまいでした。


今日も学園は平和でした、まる。

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