2-7 班分けと試験 Ⅰ
「――魔装持ちの近接クラスへようこそ。私は赤竜騎士団第二番隊のコンラッドだ。貴族ではないので気楽に接してくれると助かるよ。平民な私には貴族相手の対応をするのも、されるのも苦手なのでね。まぁここはそういったルールは持ち込まれないはずだから、お互い気楽にいこうじゃないか」
くすくすと笑みが零れる程度には和やかな雰囲気で、私とエリーが選んだ騎士科魔装持ち近接戦闘クラスの階級分け試験に対する挨拶は進んでいきました。
私とエリー、それにどうやらジェラルド殿下もいらっしゃるようですが、そんな彼の隣には先程まではいなかった男子。
青みがかった短めの黒髪と、どこか憮然とした態度でコンラッドさんを見やるつり上がった黒い瞳を持ち、腰には長剣を携える彼こそが、青竜騎士団団長子息でありグランジェ伯爵家嫡男であるジャック様だそうです。
私とエリーがぽつんと少し離れた位置にいる事もあってか、ちらちらとこちらに目を向けては鼻を鳴らすような素振りをして、視線を外しています。
……鼻に虫でも入ったのでしょうか。
勢い良くやると鼻水が出て恥ずかしくなったりするので、そんなに鼻を鳴らすのはオススメしませんが。
「男子が九名、女子が五名か。ちょうど十四名で偶数だし、これなら集団戦訓練もできそうで何よりだよ」
「集団戦訓練ですか?」
ジェラルド殿下の問いかけに、コンラッド先生は頷いて肯定しました。
「殿下や諸君も理解している通り、アヴァロニア王国の戦いと言えば、人ならざる者――魔物との戦いだ。彼らは尋常じゃない膂力と敏捷性を有しているし、個体によっては強力な魔法を放ってくる事もある。そういう時、魔装持ち近接戦闘職は常に後衛を守りつつ戦わなくちゃいけない。もちろん、魔装がなくても〈才〉で切り抜ける人だっている。精霊は気まぐれだから、必ずしも戦闘向けの魔装が手に入るとも限らないからね」
――つまり、とコンラッド先生は私達を見回して続けました。
「キミ達は先陣を切る。相手がどれだけ強くても、怯んではならない、恐れてはならない、立ち止まってはいけない。それだけの覚悟があるか?」
刹那、重苦しい程の重圧が私達……いえ、私以外を襲ったようです。
びくりと身体を震わせ、カタカタと揺れているようですが……ふむ、何名かは涼しい顔をしていますね。一番近いところではエリーですね。
それと、女子生徒で二人、あちらも涼しい顔をしていますが、実践経験が豊富なようです。おそらく、冒険者として活動していらっしゃるのでしょう。
アヴァロニア王国の傭兵は冒険者として登録し、魔物狩り等を生業とするのが冒険者です。その依頼は多岐に亘りますが、魔物の影響で特殊な薬草等も生えるアヴァロニア王国において、冒険者は傭兵よりもポピュラーな存在であると言えるでしょう。
男子陣は……ふむ、殿下と青竜騎士団団長子息であるジャック様は、この程度の威圧に対しては耐えられるようですね。
ここで無様を晒すような真似をしない辺りは、相応に鍛えているという事でしょうか。
私同様、そうした生徒一人一人の反応を見定めていたのか、コンラッド先生は目を細めました。
「今の威圧に耐えられたのは男子が五人、女子が四人だね。女子がまさかそんなに耐えられるとは思わなかったけれど、男子も過半数を超えているだけマシかな。これなら班分けに苦労しなくて済みそうで助かるよ」
どうやら今の威圧は判断基準にする為のものだったようで、私とエリー、それに冒険者として活動しているらしい二人組の女子――フローラさんとジーナさんという御二人が別々の班に分けられ、最後に一人残ったセレーネさんが私とエリーの方へと割り振られました。
「フローラ嬢とジーナ嬢は冒険者として組んでいるらしいし、私の威圧に対して涼しい顔で乗り切った。お互いの癖も理解しているだろうから、二人で組むのが妥当だろう。対して、エリザベート嬢とルナ嬢は先程の威圧に対して全く反応してみせなかった。気付かなかった訳ではなく、そもそも効果が及んでいなかった、と考えるのが正直なところだが、どうだい?」
「わたくしは濃密な殺意に晒されながら訓練をする事が日課ですので、先程の程度であれば何も」
「さすがだね。あぁ、ルナ嬢は答えなくていいからね? キミが灰魔狼を素手で投げ飛ばして短剣で仕留めたのは私も見ていたからね」
灰魔狼……あぁ、フィンガルからこちらに来た時の狼型の魔物の事ですか。
という事は、コンラッド先生はあのフィンガル遠征に参加していたのですね。人の顔を覚えるのが苦手なせいか、まったく気付いていませんでした。
「灰魔狼を、投げ飛ばした……?」
「嘘でしょ……?」
「はわわわ……」
フローラさんとジーナさんが信じられないようなものを見るような目でこちらを見てきましたが、セレーネさんは私が魔物かのように怯えているようです。
怖くないですよー、とセレーネさんを見つめ返したら、息を呑んでさっと目を逸らされてしまいました。
解せません。
「セレーネ嬢は実戦経験もなさそうだし、エリザベート嬢とルナ嬢に色々教わるといい」
「へ? あ、は、はいっ」
「先生、どうして私達と一緒じゃないんですか?」
「冒険者としての戦い方を知るのなら、キミ達に教わった方がいいかもしれない。けれど、彼女はあまり我が強いタイプではなさそうだからね。キミ達の連携の良さの邪魔をしてしまったら、キミ達が気にしなくてもセレーネ嬢が気にしてしまうかもしれないだろう?」
「……なるほど。理解できました」
コンラッド先生がうまく言い繕ってくれたおかげで、どこか険のある物言いでコンラッド先生へと訊ねたジーナさんも納得したらしく、素直に引き下がってくれました。
おそらくですが、セレーネさんはずぶの素人。
瑠璃色の長い髪を後ろで纏めていますが、丸く大きな空色の瞳は涙を湛えていて、お世辞にも戦闘に向いている性格をしているようには見えません。
対するフローラさんはイオ様と似たタイプなのか、微笑を湛えた女性です。亜麻色の髪を肩口で纏めて、穏健そうに見えますが、同色の瞳には観察するような色が滲んでいます。
ジーナさんは赤い髪をボーイッシュなショートヘアにしていて、同色の瞳は鋭く、我が強そうに見えます。
こうして見ていると、ジーナさんが軽い気持ちで厳しい言葉を投げかけただけで、セレーネさんが落ち込んでしまったり慌ててしまったりという可能性もありそうなので、コンラッド先生の振り分けは見事に的を射ていると言えるでしょう。
「セレーネさん、よろしくね?」
「へっ、あっ、ひゃい! が、がんばりましゅ!」
「ふふふ、そう固くならなくても大丈夫よ」
すでにセレーネさんにはエリーが優しく対応してくれていますし、セレーネさんも優しそうなエリーの態度を見てほっとしているように見えます。
「あ、あのあの、ルナさんっ! 宜しくお願いします!」
「宜しくお願いします」
「あぅ……」
「あら、セレーネさん。ルナは基本的に表情に乏しい子だから、あなたを嫌っている訳じゃないのよ? 気にしないようにね?」
「え? そ、そうなんですか?」
「……? 何がですか?」
「へ、あれ……?」
「……?」
「……ぷふっ、ちょっと、ルナ。二人で首を傾げないでちょうだい。笑っちゃうじゃない」
セレーネさんが何か不思議そうに小首を傾げていたので、私もそれが一体なんなのか理解できずに首を傾げていたら、エリーに笑われました。
何か面白い事でもあったのでしょうか。
そうこうしている内に、男子勢もコンラッド先生の指示によって班分けが開始しました。
どうやら殿下とジャック様は同じ班のようで、さらに威圧に耐えられた一人がそこに追加されたようです。
残りの威圧に耐えられた三名の内の二名がもう片方の班になったようで、そこに男子生徒のあとの四人が二人ずつ割り振られました。
「んじゃ、エリザベート嬢の班はクラウス達と組んでくれ。殿下班はフローラ嬢とジーナ嬢だな。んじゃ、エリザベート嬢の班はそっち。殿下班はこっちに集まって、お互いに自己紹介してくれや」
これで班分けは完成したようですね。
エリーを代表とする私達の班は、女子三名に男子が四名。殿下の班は男子五名に女子が二名ですね。
「では、わたくしの班と言われているのでわたくしから。エリザベート・ファーランドですわ。公爵家の者ですが、学園では貴族という肩書きは忘れていただいて構いませんわ。武器は細剣ですわ」
さすがにエリーが公爵令嬢だという事は理解しているようで、皆さん特に驚かれる事は……セレーネさん以外はないようですね。
そんなに目と口を大きく空けて分かりやすい反応をしている方は他にいませんが。
次は誰が、と視線を交錯させていると、くすんだ茶色い髪のツンツンヘアーさんが口を開きました。
「んじゃ俺でいいか。クラウス、平民だ。武器は長剣」
「じゃ、続いて俺で。ラウレンツだ。同じく平民、武器は槍だ」
「……クロ、平民。短剣」
「ラルフ、平民だ。大剣を使う。よろしく」
ツンツンヘアーさんがクラウスさんで、ラウレンツさんはちょっと軽薄そうなチャラチャラした感じなのでチャラ男さんでいいでしょう。クロさんは無口なのか、必要最低限しか喋らないですし、無口さんですね。ラルフさんは屈強な身体をしていますので、岩男さんと覚えておきましょう。
「せ、セレーネですっ! 平民です! ぶ、武器はコレです!」
そう言いながら魔装を見せてくれましたが……なんでしょう、鞭、でしょうか。
気弱そうな女の子が鞭を持つというのはなかなか違和感がありますが……魔装は似合うものだそうですし、実は激しい気性の持ち主だったりするのでしょうか。
そんな事を考えていたら、隣に立っていたエリーに肘で押され、エリーに視線を向けると「ルナの番よ」と小声で言われました。
「平民のルナです。武器は……――コレです」
そう言いながら大鎌とランタンという私の魔装――『下弦の月』を具現化させると、セレーネさんはもちろん、男子全員があまりの異様さに顔を引き攣らせて後退しました。
説明しようがないので現物を見てもらおうと思ったのですが、何か間違えたのでしょうか。




