15話.内緒話にならない内緒話
本日二話目の投稿です!
彰先輩の時と同じように、休み時間に遊びに来た烈火達に事情を伝え、お昼は一緒出来ない事も伝える。
「なんつーか、大変だな玲央……。なんかあったら俺達に言えよ? 必ず力になるからよ」
なんてカッコいい事を言う烈火。惚れてまうやろー! いやすでに惚れてた。推し的な意味でね。
そうして午前中の授業も終わり、皆の勉強が終わった解放感のある雰囲気がクラスに漂う。
昨日は彰先輩が凄い勢いで来たから驚いたけど、今日は流石にそんな事はな……
ザワザワザワザワ……
おかしいな、廊下の方が騒がしい。
俺の席、扉のすぐ前だからよく聞こえるんだよね。
「ちょっと陽葵っち! 止まって、止まってぇぇぇっ……! そっち一年生の教室だからぁぁぁっ!!」
「だからそれで合ってるんだってばイッチー! 一年生の教室に用があるんだってば! スカート捲れる、捲れちゃうし!?」
「あ! ごめん陽葵っち!」
「!? だからって急に離したらバランスがっ……んきゃっ!?」
「きゃぁっ!?」
騒がしいので廊下に出てみると、階段の少し先で陽葵先輩と、この人は知らないな。
茶髪のギャル二号さんという感じだ。
二人がくんずほぐれつというか、重なって転んでた。
その、色々と見えてはならない絶対領域が仕事していない事になっていますけども。
「玲央君、見ちゃダメ」
「はい……」
後ろから目に手を回され、視界が遮られる。
いや別に見たいわけではないのだけど、つい視線が行っちゃうのは男のサガだと思うんですよ。
「いたたたた……もうイッチー……」
「ご、ごめん陽葵っち。だけど、基本的に下級生の教室に上級生が行っちゃダメっしょ……」
「それは分かってるし! けど、今日は絶対に外せない用事なんだし! ほら、立てるイッチー」
「ン、アリガト」
「なんでカタコトだし……」
「「アハハッ!!」」
目が物理的に見えないので、ギャル達のきゃぴきゃぴとした会話が鮮明に聞こえてきて想像を掻き立てる。
「あ! 居たし! れおちー! リーにゃん! ……何してるし?」
「貴女達が目に毒な事をしてるからです!」
「え? あ、スカート? まぁパンツ見せても何も減らないし!」
「減るでしょ!? 羞恥心とか持ちなさい!」
「アハハッ! リーにゃんはお堅いし!」
「いやこれはその子が正しいし陽葵っち……」
「良かった、そちらの方は常識人のようですね……」
「あー、陽葵っちは強いんですけど、それ以外をどこかに捨ててきたような子で……悪い子じゃないんだけど……」
「なんでよー。戦場じゃパンツとかいちいち気にしてられないっしょー」
「「……」」
陽葵先輩は時々、極論ではあるが、正しいことをズバッと言うんだよね。
「それよりもさ! 話ができる場所に行こっ! あーしが案内するし! ってわけで、イッチーはここでお別れね!」
「ウチには話せないって事ー?」
「そじゃなくて、パイセンの事なの!」
「あ、あー……。……その、ご面倒をお掛けしますが、適当にあしらっても良いので、よろしくお願いします」
何故か敬語になって、頭を下げてからこの場を去っていくイッチー(仮称)さん。
いや名前知らないんだよね……。
「適当ってなんだし!? あーしはいつも本気なのに!」
もしかしてこれ、俺が初めてってわけではないのかもしれない。
同級生相手に、同じようなことをしているんじゃないだろうか。
それを察して、イッチーさんは遠い目をした気がする。
「それじゃ、ついてくるし!」
「分かりました」
「……一応、今回は私もついていくわ玲央君。この人と二人きりは危ない気がする」
「あー、いや、それは絶対に大丈夫じゃないかな……」
「え……?」
「めっちゃ心外だし! あーしはパイセン、あ! 彰先輩の事ね! パイセン以外眼中に無いし!」
うん、知ってる。
烈火と一緒に彰先輩を応援しよう、エイエイオー! なんてやったのはこの人だけである。
人の良い烈火はそれに付き合うんだよね。
女性とのエンディングなのに、まさかの友情エンドである。
まぁ烈火も烈火で、お前とそういう(恋愛)関係はなんか違げぇんだよなって言うので、どっちもどっちではあるのだけど。
「よしっ! ここならあーし達の他に誰も居ないし!」
広々とした草原。
一本の大きな木がある以外、何の変哲もない場所だ。
ヴァルハラの校舎がよく見える良い場所だな。
風も気持ちが良い。
「さぁ! どうして昨日、あーしのパイセンと一緒に居たのか、洗いざらい話すし!」
凄い剣幕で詰め寄ってくる陽葵先輩。
まぁ、陽葵先輩なら話をしても問題ない。
言いふらすような性格ではないし、基本的に良い人だからね、この人。
なので、俺が何故彰先輩や千鶴先輩の事を知っているのかはぼかして、エリクサーを渡したことから説明をした。
「そんな……パイセンが探していたのが、あの幻とまで呼ばれた治療薬、『エリクサー』だったなんて……そりゃ見つからないはずだし……。ううん。それよりも……れおちー!」
「は、はい!」
何か怒られるだろうか? そう身構えたのだけど、違った。
「ありがとう……! ほんとにほんとに、ありがとう! マジ感謝してる! あーし、一年の時にチルチル……あ、千鶴の事ね! チルチルと競い合っててさ……ライバルみたいな関係だった。でも、急に病で休むことになったって聞いて……ホント心配してたんだ。それを、治してくれたんだよね。れおちーはあーしにとっても恩人だし! 困った事があったら、なんでも言って! あーしに出来る事なら、必ず協力するし!」
「陽葵先ぱ……じゃなかった、結月先輩……」
しまった、心の中でそう呼んでるから、つい出てしまった。
「アハハッ! なんで言い直したし! 陽葵で良いし! あーしとれおちーの仲じゃん!」
今日知り合ったばかりの仲ですけど。
「はぁ、本当に玲央君は……」
なんだか若干リーシャさんに呆れられてるのは気のせいだろうか?
「リーにゃん安心して! あーしはパイセン一筋だから、れおちーを取ったりしないよ!」
「!! そ、そんな心配はしてません!」
「アハハッ! かぁ~いいなぁリーにゃん!」
おぉう、二人の美女が笑いあってるのを見るのって最高だよね。
そんな事を考えながら見ていたら、寝起きの声が聞こえてきた。
「うぅぅん……誰だぁ、うるさくて眠れねぇじゃねぇか……って玲央!?」
「あ、彰先輩!?」
「んにゃ!?」
「え? にゃ?」
大木の向こう側に寝転がっていた彰先輩が、目をこすりながらこちらへと歩いてきた。
「彰先輩、寝てたんですか」
「おう。三年はもう学業は無いからよ。玲央のお陰でダンジョンに入り浸る理由もなくなったし、久しぶりにゆっくり寝させてもらったぜ」
成程……千鶴先輩の事を心配して、夜も穏やかに眠れる日はなかっただろう事を想像すると、仕方ないだろう。
今はゆっくり出来ているのなら、なによりである。
「嬢ちゃんに、陽葵じゃねぇか。どうしたんだ? こんな場所で」
「あぅ、その、あの……」
陽葵先輩が、真っ赤になってリーシャさんの後ろに隠れてしまった。
えぇぇぇ、なにこの可愛い生き物。
そう感じたのは俺だけではないようで。
「あら陽葵先輩、大好きな本郷先輩ですよ。挨拶しなくて良いんですか? ほらほら……」
「んにゃぁぁぁぁっ! リーにゃんお願いだから勘弁してぇぇぇぇっ!!」
「あっ……」
リーシャさんに前へ前へと押し出されようとした所、走って逃げてしまった。
速い。
「あー、相変わらず嫌われてんなぁ俺は」
「「え?」」」
「毎回、陽葵は俺と出会うとあーして逃げちまうんだよ。千鶴と仲良くしてくれてて、俺は感謝してるんだけどよ」
陽葵先輩ぃぃぃぃっ! 滅茶苦茶裏目ってますよぉぉぉぉ!!
貴女彰先輩大好きなのに、ぜんっぜん伝わってないじゃないかこれぇぇぇぇっ!!
「……」
恐らく俺と同じ感想に至ったリーシャさんまで、無言でなんとも言えない表情をしている。
普段のポーカーフェイスが仕事してない。
「陽葵はさ、俺と同じ刀を扱うんだが……こと抜刀の技術に関しちゃ、俺以上なんだぜ。俺は居合術、陽葵は抜刀術を扱うんだが、玲央はこの違いが分かるか?」
「月並みですけど……居合術は攻守兼備、抜刀術は攻撃型って感じでしょうか……?」
「おお、流石だな玲央。大体そんな感じで合ってるぜ。俺の居合は、確実に刀を抜くための技術だ。だけどあいつは違う。一撃必殺、守りを一切考えずにただ斬る事だけを考えた、研ぎ澄まされた一撃を放つ。ま、天才ってやつだな」
彰先輩をして、そこまで言わせるのか。
「俺がまだヴァルハラに入学したばかりの頃によ、街で魔族から陽葵を助けたのがキッカケだったみてぇなんだが……ヴァルハラに入学してきてよ、居合術を教えてほしいって言われた事があってな。試しに一手やり合ってみたんだが……そん時にはもうお前の方が抜刀に関しちゃ上だって言ったんだがな。その違いを多分あいつは分かっちゃいねぇ。そこら辺を教えてやりたいんだが、会ったら逃げられちまうからなぁ……」
天才肌が故に、感覚で二年生最強になっちゃった弊害か。
陽葵先輩が彰先輩に一目惚れしたエピソードは知っているが、居合術を彰先輩から学ぼうとしたのは初耳だった。
「陽葵は天才だ。俺とは全然違う、術理を磨き上げた侍だ。陽葵と切磋琢磨出来るのは嬉しいんだけどな」
そう笑って言う彰先輩は、どこか誇らしげに見えた。
「つーわけでよ、玲央に嬢ちゃんも、陽葵の事を嫌わないでやってくれると助かる。悪い奴じゃねぇのは俺が保証するからよ」
「分かりました。最初から、そのつもりでしたから」
「そうですね、素直な方だと思います」
「ははっ。ありがとな。さて、ここで会ったのも何かの縁だ。一緒にダンジョンにでも行くか?」
「「え?」」
こうして、思いがけない事から、彰先輩と一緒にダンジョンへ行くことになった。
お読みいただきありがとうございます。
次話は少しあきますので、よろしくお願いしますー。




