48話.モブのエピローグ
うーん、良く寝た。
今日は金曜日。明日の休日を思い、頑張ろうと思える一日になる人が多いだろう。
皆が学校や仕事に行く中、休日であるという背徳感、いや優越感だろうか。
なんかこう、せっかく平日の休みなんだから寝ていたいと思うのに、起きてしまうこの現象に名前をつけたい。
そんなくだらない事を考えながら、台所へ向かう。
「おはようおにい!」
「はよっ兄貴」
「……。……!?」
咲が、起きてる、だと!?
しかも、意識がはっきりしている!?
「おにい、流石に失礼過ぎない? 自覚はあるけどさ……」
「あれ声に出てた!?」
「いや兄貴が何考えてるかなんて顔みたら分かるし……」
「!?」
なん、だと。妹に弟はエスパーだった?
「昨日、俺休みだって言っただろ?」
「「うん」」
良かった、ちゃんと聞いてた。
ならなんで?
「おにいは昨日、お仕事頑張ってきたじゃん。おねえから聞いたよ、無茶して倒れたって」
「なっ!?」
リーシャさん、何故話してしまわれたのですか!?
イマジナリーリーシャ『ごめん、だって咲ちゃんに聞かれたら嘘は言えなくて』
そうですよね、分かります。
「私も、朝が苦手とか言ってらんないと思って。おにいが頑張ってるんだもん。私も来年はヴァルハラに行くし……今年からおにいみたいに、準備しておこうと思って」
「咲……」
お兄ちゃん、感動である。
咲がここまでの決意を見せるとは……!
「まぁでも、姉貴のこれは一過性のものだと思ってっから。多分三日持たないぞ兄貴」
「拓ぅー!」
拓よ、台無しである。
「ま、今日くらいはつきあってやってくれよ兄貴。ほら、いつものランニングにでも行ってくるとか」
「そうそう! 朝食は任せておにい!」
うーん、二人がこう言ってくれるなら、甘えるとするか。
「分かった。それじゃ俺はちょっと走ってくるよ」
「りょ!」
「ポカリ冷凍庫に入れ替えて冷やしとくな兄貴」
「おー、さんきゅ」
ジャージに着替えて、外に出る。
まだ夏は遠いからか、早朝はひんやりと肌寒い。
「にゃん」
「あれ、マカロン?」
「にゃー(私も付き合おう、玲央)」
「猫で!?」
「にゃん(猫であろうと私の力はそんなに変わらんのでな)」
「そ、そう。なら一緒に走ろうか」
「にゃ!(うむ!)」
俺は頭の中に内容が聞こえてくるので会話が成立しているけど、これ外から見たら確実にヤヴァイ奴案件である。
顔を振って、俺はいつものルートを走り出す。
「あら、玲央君おはよう! 今日も精が出るわねぇ。うちのバカ息子にも見習わせたいわぁ」
「おはようございますおばさん! いやいや、これは人によると思いますよ! 朝はゆっくり寝かせてあげてください!」
「もう、ほんと良い子ねぇ……」
「おはよう玲央君! はは、今日は猫と一緒かい?」
「おはようございますおじさん! なんかついてきちゃって」
「玲央君は優しいからね、きっと懐いちゃったんだろう。まだ早朝で車は少ないけど、気を付けてあげてね。まぁ玲央君なら大丈夫だろうけど」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
まだ朝早いのに、それでも仕事に向かう人や、散歩をしている人は割といる。
いつも同じルートを走っているので、出会う人も大体同じ。
何回も出会ううちに挨拶をするようになり、少しだけ立ち止まって、こうして雑談をしたりするようになった。
いつも出会うOL風のお姉さんがマカロンに興味津々で、近づこうとするがマカロンは捕まらなかった。
「ふぇぇぇん。玲央君、私やっぱり見た目キツイからかなぁ……?」
「い、いや、そんな事ないと思いますよ? お姉さん、クールに見えるだけでポンコツじゃないですか……あ、しまった」
「うう、玲央君そう思ってたんだね、地味にショックだけど言い返せない……」
「ご、ごめんなさい! マカロン、撫でさせるだけ、お願い! ね!?」
「にゃあん……(後で撫でろよ玲央……)」
「きゃぁぁぁ……! かーわいーい!」
それからマカロンをなでなでしたお姉さんは、すっきりした顔で駅へと向かって行った。
魔王を撫でてたなんて知ったら倒れるだろうなあのお姉さん。
そんなこんなでランニングを終えて家に帰ってくる。
「「「「「お帰りー!」」」」」
「へ?」
家に帰ったらリーシャさんや烈火達皆が居た。
何を言っているのか分からないけど、事実なので仕方がない。
「ふふ、昨日西園寺さんに提案されてね。皆で遊ぼうって話になったのよ」
「!!」
昨日の車でのあれか!
「外に出るのも、私達はまだ学生だし……平日だからね。少し悩んだのだけど……」
「私が、ならうちで遊べば? って提案したんだよおにい!」
成程、咲が手引きしたのか。
しかし、ここまで咲が上手く手筈を整えられるはずがない。
俺は拓を見る。
「……」
目線を逸らした、黒である。
「まったく……別に話してくれれば、俺は歓迎したのに」
「それじゃサプライズにならないじゃない? はい、昨日帰りに皆で再度集まって、さか……玲央君へのプレゼントを用意したのよ」
「「「「「玲央君!?」」」」」
「ちょっと、なんで皆がそこで驚くのよ!?」
「いやだって、リーシャさんが玲央の事を名前で呼ぶの、初めて聞いたからよ!?」
「ああ、驚いたぞ」
「頑なに玲央って呼ばなかったもんね! いっつも榊君だし!」
「そうですね。もしや私達のいない間に、何かあったのでは……!?」
「どいて剛毅、そいつ〇せない……!」
「アイン殿!?」
「何を勘違いしているのか知らないけれど、咲ちゃんも拓君も榊でしょ! 混同しないようにここでは下の名前で呼ぶようにしてるだけよ!」
「「「「「なぁんだ……」」」」」
「なんで残念そうなのよ!?」
リーシャさんが皆に翻弄されていてとても新鮮です、ありがとうございます。
「玲央君……?」
「ヒィッ……!?」
凄まじいオーラを放ったリーシャさんの言葉に背筋が凍った。
まるで昨日の化け物の魔力を感じた時のようである。
俺ナニカしちゃいましたでしょうか!?
「お、皆いらっしゃい。咲と拓からは聞いてるよ。うちの自慢の玲央をよろしくね」
「不出来な、とはとても言えないくらい、我が家の自慢の息子です。仲良くしてやってね」
「「「「「はいっ!」」」」」
「ちょ、父さん! 母さん! 恥ずかしいからやめてくれよ!?」
「ははは、玲央は人を褒めるのが上手いからなぁ。たまには褒めさせろ!」
「そうなのよねぇ。昔からアゲアゲされて、最初は恥ずかしかったんだから」
「「「「「(家でもそうなのか……)」」」」」
「父さんも母さんも頑張ってくれてるんだから、そんなの当たり前だろ!? 良いから、早く仕事にいけぇ!」
「分かった分かった、押すな玲央!? それじゃ、皆楽しんでいってね!」
「ちょっと玲央!? もう、皆うちの息子をよろしくね。行くわよアナタ」
二人の背中を押し、外へと放り出す事に成功する。
あのまま皆と一緒に居たら、何の話をされるか分かったもんじゃない。
部屋に戻ると、皆の視線がやたらと生暖かいような……。
「ははっ。玲央、やっぱお前は家でも変わらねぇんだな!」
「フ……玲央だからな」
「だからなんで氷河は毎回ポーズ取るのよ」
「ふふ、それでこそ玲央さんですね」
ちなみに皆、ヴァルハラの制服なんだけど、どうしてだろう?
「玲央君、あ、僕もここでは玲央君って呼ぶね。それで、今どうして皆制服なんだろうって思った?」
「!?」
ど、どうして分かるんだろう!? 咲や拓もそうだけど、実は皆エスパーだったりするのかな!?
「午前はこのまま皆で遊んでさ、午後は人工ダンジョンに行こうって話になったんだよ。ほら、玲央ってダンジョン攻略とか好きだろ?」
「!!」
「藤堂先生からの許可はちゃんと得てるから。制服着てたら自由にしろって言われてるの」
まさかの藤堂先生の許可有り……!
皆用意周到すぎる……!
「昨日の反省点も多い。ダンジョンで連携を強化するのも良いだろうと思ってな」
「そうそう、美樹也の言う通り。ついでに、玲央が好きなダンジョンを選んで貰おうと思ってよ、いくつかリストアップしてきたんだぜ!」
「ほとんど俺がやったがな」
「そ、それはそうなんだけどよ!」
烈火と美樹也が、まだ一年生にはそんなに知られていない人工ダンジョンを調べてくれたのか……。
「よし、ならダンジョンの攻略方法を皆で共有しようか!」
「まったく、やっぱり玲央君はそういう話になったら眼を輝かせるのね……」
「おにい……」
「兄貴……まぁ、兄貴らしいっちゃ、らしいか」
俺は部屋に戻り、無記事の白い大きな紙を持って降りる。
これにマップや詳細を書き込み、学園支給の機器にスキャンして保存する為である。
「彼を知り己を知れば百戦殆からずっていう言葉もあるからね! しっかりとした情報を知っておくのは、大事だよ!」
「おお、玲央が言うと重みがちげぇな!」
「フ……そうだな」
「でもおにい、最初から飛ばさなくても……少しくらい遊んだら?」
「そうだぜ兄貴。皆からのプレゼントもあるんだし、まずはそっちに興味示そうぜ」
「あ……」
「「「「「ははははっ」」」」」
こうして今日も、楽しい一日が始まるのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
これにて完結となります。
ズボラな私が、今日まで毎日投稿を続けられたのはひとえに、皆さんの応援のおかげです。
玲央のこれからの話も読みたい!と思ってくれた方は、是非ブックマーク、評価をお願いします。
もうこれで満足!という方は、ブックマークは外されても構いませんので、最後に評価をポチっとしていって頂けたら嬉しく思います。
代表作のふたゆめ(略称)も、モブのお話を気に入ってくれた読者の方々なら、きっと好きになってくれるお話だと思いますので、良ければそちらも読んで頂けると嬉しいです。(作品一覧から飛べますが、一応こちらにもリンクを)
https://book1.adouzi.eu.org/n0836fr/
最後に、ここまでお付き合い頂けた事に感謝を。
いいねや感想、とても励みになりました。ブックマークや評価が増えるごとに、読んでくれているんだ、続きを書こう!と思えました。本当にありがとうございました。
ソラ・ルナより




