22話.モブへの依頼
昨日は色々あったけど、総じて楽しかったな。
錬金術部のエース、副部長であるアーベルン先輩と縁が得られて。
烈火やリーシャさんと一緒に素材集めが出来て。
最後には、オールスターの戦いが出来た。
まさかゲームの仲間で戦ってスキル上げのシステムが、競技場で行う事になるとは予想外だったよ。
美樹也に西園寺さん、美鈴さんの凶悪なパーティに勝てたのは、ひとえに烈火とリーシャさんがとんでもない強さだったからに他ならない。
その後の反省会で、やたらと皆が俺を褒めてくるので、いたたまれなかったけど。
着替えも終えて、下へと降りる。
「おやようおにい」
「はよっ兄貴!」
「おはよう榊君」
うん。うん?
なんか朝の寝起きで幻聴&幻視が。
まだ夢の中だったりする?
聞こえるはずのない声と、姿が見えるのだけど。
「おにい、どうしたの?」
「兄貴? ご飯出来てるからさ、食おうぜ!」
「まだ寝ぼけているの? ふふ、榊君も朝は弱いのね?」
「あ、いや、そんな事は無いんだけどね……朝から妖精か天使が見えて思考停止しちゃっただけで……」
「「「!!」」」
「(聞いた拓! あの女にまったく興味すら示さなかったおにいが、あのおにいが歯の浮くようなセリフを!)」
「(聞いたぜ姉貴! くぅ~! あの兄貴にもついに春が! この恋、全力で応援しようぜ姉貴!)」
「(合点承知の助!)」
「そうなの? 榊君の"魔眼"は、通常では見えない物も見えてしまうのね」
「「(こっちはこっちで気付いてない~!!)」」
なにやら咲と拓が悶えているけど、気にしなくていいよね。
仲良きことは美しきかな。
「リーシャさん、早くない?」
「だって、榊君がどれくらいで家を出るのか分からないんだもの。スマホも持っていないから連絡も取れないし……だから、早めに待ち伏せしようと思ったの」
「んで、俺がリーシャの姉御に気付いたから、家に入れたんだよ」
「こ、こら拓!?」
「あ、良いのよ。私がOKしたの。そんな呼ばれ方初めてだったから、新鮮よ」
「そ、そっか。リーシャさんが良いのなら、それで……」
「そういえば榊君、"魔眼"のコントロールが出来るようになったのだから、もうスマホも使えるんじゃない?」
「「(あの眼が光ってた時かぁ)」」
「あ、そういえばそうだね。咲、拓。明日は土曜で学校休みだし、一緒に見に行く?」
「い、良いのおにい?」
「兄貴が行くなら、俺も行くぜ!」
「そっか。なら明日スマホを買いに行こう。ずっと我慢させてごめんな」
「ち、違うよおにい!? ただ、おにいが買うなら、私も持ってようかなって思っただけだし!」
「そうだぜ兄貴! 俺も別にスマホなんていらねぇけど、兄貴と姉貴が持つならって思っただけだぞ!」
昔の言葉を思い出して、つい微笑んでしまう。
小さい時も、同じような理由でスマホを持つのを断っていたもんな。
「ふふ、仲が良いのね。私には兄弟姉妹が居ないから、少し羨ましいわ」
「「!!」」
「ありがとうリーシャさん。俺の自慢の妹と弟です」
「もう、それをやめてって言ってるでしょおにい! そ、そうだリーシャさん! 良ければなんですけど、明日リーシャさんもどうですか!?」
「え? でも、せっかくの家族団らんの時間でしょう?」
「良いんすよ! リーシャの姉御なら!」
「……榊君、ええっと……」
「あ、俺はリーシャさんが良ければ大歓迎ですよ?」
「!? そ、そう。なら、お邪魔しようかしら……」
「「やったー!!」」
「なんでお前達が喜ぶの……?」
「ふふっ……」
という事で、明日はリーシャさんを含めて、スマホを買いに行く予定が出来た。
"魔眼"のコントロールが出来るようになって良かった……! ローガン師匠、今度菓子折り持っていきますね……!
『ふぉふぉふぉ……ヴァルハラ饅頭が良いのう……』
おかしいな、頭の中にイマジナリーローガン師匠の笑顔と声が聞こえた気がする。
そのまま雑談をしながら食事をして、家を出る。
うん、なんか恋人みたいで凄くドキドキするな。
俺とリーシャさんじゃ釣り合わな過ぎて、こんな考えをする事自体がおかしいけれど。
「ふふ、可愛い妹さんに弟君ね」
「はい! それはもう!」
自信をもって言えます!
「そこで即答するのが榊君の良い所よね」
「そ、そうかな」
俺なんかにはもったいないくらい出来た妹と弟を持てば、誰だってこうなると思うけれど。
今日も隣にリーシャさんが居るからか、誰も話しかけてはこなかった。
ただ、いつもと違うのが……
「あれが榊 玲央か……」
「あの氷河達のチームを破ったんだろ……?」
「えー、轟君やリーシャ様が強すぎただけでしょ?」
「それが、負けた相手が榊をやたら絶賛してるんだって」
「マジで? 榊って凄いんだな……」
等々、聞こえてくる。
なんだろう、凄く恥ずかしい。
「ふふっ……榊君もようやく認められてきたわね」
「なんでリーシャさんが嬉しそうなの……」
「それはそうでしょう? 友人が褒められて悪い気はしないわ」
「!!」
おうふっ……そんな破壊力満点の笑顔でそんな事言われたら、心臓が破裂するっ……!
鳴りやまない心臓の鼓動を(鳴りやむと死ぬけど)なんとか抑えながら、席へと着いたと同時に、藤堂先生がやってきた。
「おーい玲央! じゃなかった、榊! それにリーシャ! ちょっと用事がある、いつもの部屋に来てくれるか!」
「分かりました!」
「はい、藤堂先生。行きましょ榊君」
「うん」
もはや『表彰部屋』がいつもの部屋扱いなんだけど、それで良いのだろうか?
リーシャさんと共に、部屋へと歩く。
もしかして昨日の競技場の事で何か言われるのかな? と思ったりもしたけれど、予想は外れた。
「昨日の魔族の件は覚えてんな?」
「「はい」」
「その件で今日は呼んだんだ。ローガン、説明してやってくれ」
「うむ。玲央の"魔眼"を強制停止させた時に出てきた、魔王の精神体は覚えておるの?」
「勿論です。本体ではないのに、かなりの強さでした」
「その精神体は本体と通じておった。故に、記憶を引き継いだのじゃろう。誠也と並ぶ、脅威になるかもしれぬと思ったのじゃろうな。玲央を調べようと動き出した」
「「!?」」
え、俺を? 魔王が? 烈火じゃなく、俺を? なんで?
頭が疑問符で埋め尽くされる。
「知っておるとは思うが、このヴァルハラには強力な魔避けの結界を張っておる。じゃが、昨日確認した所、一部が破られておった。そこから魔族が侵入したと思われる」
「「なっ……!」」
「あの結界は並みの魔族じゃ触れると死ぬレベルの強さだ。それを破るとなると、魔王クラスが直接来たか、考えたくはねぇが……」
「内通者が居る、という事ですね」
「そういうこった」
ゲームでも、居たのだ。
サブキャラクターの一人で、仲間にはなるのだけど……最初は敵の、あの人が。
「それで、どうして俺達を?」
「うむ。結界に支柱があるのは、お主なら分かるじゃろ?」
「あ、はい。五ケ所、五芒星のように配置していますよね」
「「「!!」」」
あれ、違ったかな?
「う、うむ。お主、それ国家機密の中でも最上級の秘匿された内容じゃぞ、何故知って……いや、よそう。藪をつついて蛇が出ると困るわい」
「ったく、お前の情報量の多さは趣味で片づけられるモンじゃねぇぞ? 敵になってたらと思うとゾッとしねぇよ」
あ、そうか! それが知れるのはもう少し後の話だった!
今は藤堂先生やローガン師匠といった、ごく一部の人しか知らない情報だった!
「あ、はは。その、情報を集めるのが趣味でして……」
「榊君、私が言うのもあれだけど、このメンバーでその言い訳は辛いものがあるわ」
「「……」」
頷く二人に冷や汗が止まらない。
問い詰められたら、詰んでしまう。
「ま、良い。いや良くはねぇんだが、お前なら良い」
「そうじゃな。お主は信用できるからのう。ふぉふぉふぉ……」
「!!」
驚いた。英雄の二人が、俺なんかを認めてくれている。
こんな、モブの俺を。
「話を戻すが、その支柱の補強をしてぇんだ。今度は五芒星の上に、逆五芒星を重ねる形でな」
「うむ。そうする事でより結界は強固になり、内側からも破る事は不可能になるでな」
「成程。話は分かりましたけど、なんで俺とリーシャさんなんです? それなら、三年生にもっと凄い人が居ますよね?」
ヴァルハラの三年生は軍部に進むエリート達だ。
実力が足りなければ、二年生から上に上がる事は難しい事が、実力の証左になっている。
「それはの、魔力の流れの視える"魔眼"の持ち主であるお主にしか、出来ぬからじゃよ」
「!!」
「五芒星の結界は、複雑な魔力式を用いる事で成立しておる。そこに、逆の形で五芒星の陣を重ねなければならん。針に糸を通すがごとく、繊細な魔力操作が必要になるのじゃ。故に、この方法を取れる者が今まではおらなんだ。そこに、彗星のように現れたのがお主じゃ、玲央」
「俺が……。俺に、そんな事が出来るでしょうか……」
「ふぉふぉふぉ。安心せい、お主以外に出来ぬのじゃから、もし失敗しても責めはせぬよ。あと、これは正式なヴァルハラからの依頼になる故、ポイントは弾むでな?」
「……分かりました。俺で力になれるなら、やってみます!」
「おお、お前ならそう言ってくれると思ってたぜ! リーシャ、お前は玲央の護衛だ。玲央が五ケ所の支柱を埋め込む間、守ってやれ」
「分かりました、藤堂先生。この命に代えても、榊君は守ってみせます」
「ああ。お前なら出来ると判断しての依頼だ。頼むぜリーシャ」
「はい!」
それからローガン師匠に場所とやり方のレクチャーを受け、そのまま向かう事になった。
授業は全免除という事らしい。
まぁ学力は高校生くらいのものだし、この世界特有の内容なら俺は全て丸暗記してるので問題ないけどね。
さて、責任重大な依頼だ。
ローガン師匠は失敗しても良いと言ってくれたけど、このヴァルハラを守る為に全力を尽くそう。
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