21話.モブの共同戦線②
烈火とリーシャさんと一緒に、舞台へと上がる。
舞台の広さはそれ程でもないけど、運動場の半分くらいはあるだろうか。
美樹也は前衛、西園寺さんは中衛、美鈴さんは後衛のバランスが取れたパーティ。
ただし、美鈴さんは自己バフによる徒手空拳で前衛も兼任できるし、西園寺さんも剣術が免許皆伝の腕前であり魔力もランクEXの為前衛、後衛両方こなせるハイブリッド型だ。
流石に生粋の前衛である美樹也には及ばないまでも、二人とも高レベルで前衛を任せられるのは脅威。
まさしく隙のないパーティである。
対してこちらは烈火が前衛、リーシャさんも前衛で俺が後衛だ。
俺なんかが前に出たら一瞬でやられるからね、仕方ないね。
実力で言えば美樹也と烈火は互角、西園寺さんとリーシャさんはリーシャさんが上、美鈴さんと俺では美鈴さんが大分上と、総合力で負けている。
これが俺でなければ、もっとまともに戦えたはずだ。
だからこそ……俺は、俺の最大の武器である"皆の事を知っている"点を突かせてもらう……!
「それでは、試合開始っ!」
審判の掛け声と同時に、美樹也と烈火、西園寺さんとリーシャさんが前へと駆ける。
「「『パワーエンハンス』!」」
俺と美鈴さんのバフ支援が皆に飛ぶ。
最初こそ二人に掛けるという行為に慣れていなかったけれど、素材集めのお蔭で大分コントロールが上手くなったと思う。
「オラァッ!」
「フッ……!」
烈火と美樹也の剣が重なり、鍔迫り合う。
本来烈火の方が力が高い。それが互角という事は、美鈴さんのバフの効果量が俺より上という事! 当たり前だが、流石だね……!
「「『スピードエンハンス』!」」
順次バフ支援を掛けていく。
効果量が俺より美鈴さんの方が上である以上、指揮で差をつけるしかない。
ここからが俺の本領発揮だっ!
「この動きが見破れるか烈火! 『残影陣』ッ!」
「!! チッ……美樹也の分身かよっ……!」
「フ……残ぞ……」
「烈火、正面だっ!」
「!! オラァッ!」
「くっ……!?」
烈火の大斬りを、すんでのところで避けた美樹也は後ろへと下がる。
そこへ西園寺さんの斬り込みが入る、が
「させないわよ西園寺さんっ! 『一閃』」
「くっ!? リーシャさんっ……!」
リーシャさんがそれを許すはずがない。
烈火へと繋がる道に瞬時に立ち塞がり、凄まじい速度で切り払う。
「私も手伝うわ西園寺さんっ!」
「お願いします百目鬼さんっ……!」
「「はぁぁぁぁっ!!」」
「ふっ……!」
西園寺さんの舞踊のような剣と、百目鬼さんの凄まじい乱打をリーシャさんは片手の剣でいなしている。
流石は剣聖、凄まじいの一言だ。
リーシャさんなら、たった一つの助言で良さそうだな。
「リーシャさん! 西園寺さんの利き手は右手じゃない、左手だ! 左手が本命! 美鈴さんは左腕の殴りが右腕よりわずかに遅い!」
「「!?」」
「了解よ榊君! はぁぁぁぁっ!!」
「嘘っ!? そんな一瞬で見極め……きゃぁぁぁっ!!」
まず最初に、両手の乱打を崩された美鈴さんが弾き飛ばされ、
「隠し手をあっさり見破りますか……! ですが、防げますかリーシャさん! 『剣舞・桜花絢爛』」
「それが右手ね。なら、本命はそっちね」
「っ!!」
「破るわ。『天魔連斬』」
「かはっ……!」
「くっ……なんて力なのよリーシャさ……あいたぁっ!?」
美鈴さんが起き上がろうとしたところに、西園寺さんが吹っ飛んで重なる。
美鈴さんは下敷きになった、痛そう(小並感)
おっと、烈火は……
「あめぇぜ美樹也っ! こっちには玲央がいんだぜっ!?」
「くっ……ならばこれは防げるか烈火! 『コキュートス・ウォール』!」
「うぉっ!?」
美樹也の周りが氷の壁に包まれる。
だけど、無駄だ!
「烈火! 右に回って、地面すれすれを横凪に思いっきり斬るんだ!」
「オーケー玲央! 横だな、オラァッ!!」
「馬鹿なっ……玲央、お前はどこまでっ……!」
氷の壁が、一瞬で崩れ落ちる。
そのスキルは、支柱が存在する。
そしてその支柱には特に魔力が集中しているのだ。
家と同じで、支柱が崩れれば、支えられなくなる。
全部の壁を壊す必要なんてない。
「隙ありだぜ美樹也! 『パワーブレイカー』!!」
「ぐぉぉっ……!?」
烈火の一撃を剣で受けた美樹也は、西園寺さんと美鈴さんの近くまで吹き飛ばされる。
気付けば、烈火とリーシャさんは俺の近くに立っていた。
俺を守るように。
「「「「「ワァァァァァッ!!」」」」」
「はぁっ……はぁっ……西園寺、百目鬼。やはり、鍵は玲央だ」
「ええ……この短期間ですが、それを再認識致しました」
「うん。玲央が居るから、烈火にリーシャさんの力が最大限に発揮されてる。止めるべきは、一番最初に仕留めるべきは、玲央だ……!」
三人の目が、俺へと向けられる。
ゾクゾクっと、武者震いのようなものに襲われる。
俺の大好きな、推しの人達が、今は俺を敵として見ている。
だけどそれは、モブを見る目じゃない。
俺を、俺として見てくれている。
それが、どうしようもなく嬉しい。
「轟君」
「分かってんぜリーシャさん。あいつらの狙いは玲央だろ?」
「ええ。榊君には指一本触れさせないわ」
「おう!」
そして、そんな俺を守るように、烈火とリーシャさんが前に立ちはだかる。
もう鳥肌ものである。
これが皆の前でなければ踊ってるよ俺。
っと、真面目にやらないとね。
「烈火、リーシャさん」
「おう?」
「何かしら?」
「俺に策がある。耳を貸してくれるかな」
「「!!」」
そうして手短に、二人に伝える。
俺だからこそ分かる、俺だからこそ出来る支援を。
「行くぞ玲央っ! 『残影陣』!」
「行きます玲央さんっ! 『桜花・練武陣』!」
「行くわよ玲央! 『ダブルキャスト・パワーエンハンス・スピードエンハンス』!」
三人が同時に仕掛けてくる。
だけど悪いね、事前にそれは"視えて"たよ……!
「『マジックキャンセラー・エンハンス』!」
「そんなっ!? こんな、最初から分かってないと成功しない魔法を土壇場で!?」
分かってたよ美鈴さん、魔力の流れが視えていたから。
さぁ、追加だ。これは今の驚いている美鈴さんには防げない。
「『ダブルキャスト・パワーロウダウン・スピードロウダウン』」
「グッ……! なんだ、この重さはっ……!?」
「こ、これが、玲央さんのデバフ、ですかっ……」
本来掛かるはずだったバフが無くなり、そこにデバフが乗ってくる。
そのまま掛けても対魔力で効かない可能性が高い。
だけど、キャンセラーによる一瞬の戸惑い、その油断をつけば成功すると踏んだ。
烈火やリーシャさんですら、調子が狂うと言っていた。
そのデバフ版だ、効果がないわけがない!
「烈火、リーシャさん、今だっ!」
「オーケー玲央! くらえぇぇっ!! 『ラグナブレイカー』ァァッ!!」
「了解よ榊君! その隙、逃さないっ! 『天魔聖竜斬』!!」
「ぐはぁっ……!!」
「「きゃぁぁぁぁっ!!」」
凄まじい威力の技の二連撃。
まさか、藤堂先生を救う為に集める素材を守るあのボスを倒す技を、今見られるなんて……!
「くっ……れっ、か……今回は、負けを、認めよう。だが……! お前が、勝てたのは……玲央の、お蔭だという事を、忘れるな……。流石だ、玲央……」
そう言って倒れた美樹也の元へ、烈火は駆け寄る。
「へっ、そんなこたぁ俺が一番分かってんだよ美樹也。次は、俺の番さ」
烈火が小声で何かを美樹也に話していたようだけど、流石に距離があって聞き取れなかった。
「あいたたた……もう、凄まじい力ですね二人とも。それに、玲央さんがズルいです」
「そーだそーだ! 玲央がずっこいわよ!」
「え、えぇぇ……」
座り込みながらそう言う二人に、俺はなんと返せば良いのか。
そりゃ皆の事を誰よりも知ってるし、技も何してくるか分かってましたけども。
「ふふっ……諦めなさい。貴方達の負けよ」
「はぁ……。烈火君とリーシャさんの力は知っていましたが、玲央さんがこれほどとは……まさか氷河君と百目鬼さんと組んで、負けるなんて思ってもいませんでした」
「私もだよ。あーあ、烈火にお仕置きするつもりが、なんでこんな事にぃ」
「あはは。でも二人とも凄かったよ。西園寺さんの技は剣と魔力の複合技でしょ? リーシャさんだから防げただけで、大抵の人はあの二連撃は防げない。美鈴さんだって、バフの効果量は俺以上だったし、うまく使えば最高の支援役だよ。今回は前に出ちゃったのが敗因かな。後ろで支援に徹していたら、俺のデバフは効かなかっただろうし」
「ぐぅの音も出ない正論パンチ反対ぃ……」
「まったくです。褒めながら落とすなんて器用な真似はやめてください玲央さん」
「え、えぇぇ……」
「ふふっ。ま、反省会は後にしましょ。轟君は力の制御が甘いわよね榊君」
「え? ああ、そうだね。美樹也気絶しちゃったし……」
「うぉ、我関せずでいたら飛び火してきやがった!?」
「「「あははっ!!」」」
女の子三人に笑われる烈火。
うーん、主人公してるなぁ!
主催者から勝利のポイントを受け取り、俺達はその場を後にするのだった。
お読み頂きありがとうございます。
本日11時頃、エピソード2.3にて、お話の全否定のような感想を頂きました。
最初返信させて頂きましたが、せっかく頂いたとはいえ、他の楽しんで読んでくれている方も目に入るといい気はしないだろうと思い、削除させて頂きました。(私自身もここはこう直した方がという感想であれば受け止めたのですが、そもそものお話の否定から入る感想でしたので)
これから、そういう感想を頂いた場合は返信せずに削除対応させて頂きますので、ご了承くださいますよう、お願いいたします。
前文が長くなり申し訳ありません。
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