11話.モブな俺にもできる事
昼食を食べ終え、藤堂先生とリーシャさんとは別れた。
「この辺りなはずだけど……」
見渡す限りの草原。
ここは人工ダンジョンの一つで、一階層にはモンスターが存在しない。
その為、腕試しの場としても度々使用される場所でもある。
ゲーム内の烈火も、仲間達とここで手合わせをして経験値を稼いだなぁ。
このゲームはキャラクターのレベル上げの他にも武器の熟練度やスキルの熟練度があり、手合わせではキャラクターの経験値は入らないものの、武器やスキルの経験値は稼ぐ事が出来たからね。
あと、単純に戦闘が楽しいのもあって、仲間と戦えるのも楽しかったから、割と入り浸ったよね。
普通にリーシャに負けるし(武器やスキルの経験値は負けても入るし戦う相手に選んだ仲間も成長する)なんなら美樹也にも負ける時がある。
主人公強いけど、仲間も強いんだよね本当に。
敵になっても強さそのままのせいで、訓練時のやりごたえが半端なくて好きだった。
「おっと、待たせたかの」
「!!」
一陣の風が吹いたと思ったら、目の前に真っ黒い魔導士のローブを纏ったお爺さん……いや、聖賢のローガンが現れた!
「お、お会いできて光栄ですローガンさんっ!」
「ふぉふぉ! お主、若いのにわしの事を知っておるのか」
「それはもう! 火、水、風、土の四大属性全ての極大魔法を操り、光魔法まで操る魔法の極致! 魔道の到達点! 聖賢のローガンを知らない奴なんてモグリですよ!」
「ふぉふぉふぉ……! いやぁ、お主嬉しい事を言ってくれるのぉ」
はっ……! しまった、いつもの癖で言っちゃった!
ま、まぁローガンさんも気にしてないみたいだし、良しとしよう、うん。
「榊 玲央。誠也から軽く聞いたが、中々面白い奴じゃのぅ」
「!!」
ローガンさんの先ほどまでの穏やかな表情が急に引き締まり、氷のような目で全身を見られる。
「"魔眼"にはいくつかの種類がある事は知っておるか?」
「い、いえ」
そもそも、ゲームでは魔王以外に"魔眼"を所持しているキャラクターは居なかったのだから、ユーザーにも情報がほぼ無いのだ。
「うむ。一つは"魔眼"により潜在魔力を数倍に高める事ができるもの。これを強化型"魔眼"と呼んでおる。"魔眼"の主軸とも言えるの」
成程。多分これは魔王が持つ"魔眼"なのだろう。
「そしてもう一つ。"魔眼"により相手の能力を看破する事ができるもの。大体の力や、能力を知れるそうじゃ。これは鑑定型"魔眼"と呼んでおる」
スキルの"才能看破"の上位版という事だろうか。
"才能看破"で知れるのは、どんなスキルを持っているのか、だから。
「そして最後にもう一つ。"魔眼"により全ての魔力を知覚して視る事ができるもの。魔力を色として判断できたり、魔力で隠蔽されたものを見破る事ができるそうじゃ。これは支援型"魔眼"と呼んでおる。お主の"魔眼"はこれに当たるじゃろう」
「!!」
支援型"魔眼"か、モブの俺には過ぎた力だと思うけど、強化型じゃなくて支援型なのは、モブらしいと言えるのではないだろうか。
「……これは極秘事項なのじゃがな。"魔眼"は全て、魔王に繋がる者にしか現れる事は無いのじゃ」
「!?」
「つまり、わしが何を言いたいのか分かるかの?」
とてつもない殺気が、黒い魔力として放出される。
あ、これ死んだ。
「とまぁ、冗談はこれくらいにしておくかの」
「……え?」
「ふぉふぉふぉ。すまんすまん。お主があんまりにも平然と聞くもんじゃから、少し脅かしてやりたくなってのぉ」
「心臓に悪すぎますローガンさん……」
「ふむ、まずその呼び名から変えようかの。玲央よ、わしはお主の師匠となる。じゃから、わしの事は師匠と呼ぶのじゃ」
「え……えええええぇぇぇぇっ!?」
お、俺があの聖賢のローガンの弟子にぃぃぃっ!?
何人もの魔導士が門を叩いては、吹き飛ばされて無残にも帰らされてたエピソードを知ってるんだけど!?
「うぬぅ、み、耳が。お主肺活量が凄いのぉ」
「あ、はい。鍛えてますから」
「ふぉふぉふぉ、そういう所は誠也そっくりじゃのぅ。成程、気に入るわけじゃな」
俺が藤堂先生そっくり? なんだろう、嬉しいけど凄くむず痒いような、変な気持ちだ。
「ちなみに拒否権はないからのぉ。なんせお主はこれから、わしの指導を受けて"魔眼"の力を開発させていくんじゃからな」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!!」
そんな光栄な事を断るなんてとんでもないっ!
実際、聖賢のローガンはサブキャラクターではないので、主人公の烈火と絡む事はそんなにない。
つまり、俺が安心して関われる人なのだっ!
「お、おお、凄い食いつきじゃの。うむうむ、わしとしてもお主のような慧眼な者が弟子なのは嬉しいでの」
「慧眼、ですか?」
「ふぉふぉ……"魔眼"の話をした時のお主の反応でな。恐らく、知っておったのじゃろう?」
「!!」
強化型については、魔王で知っていたけれど。
他のは初めて知ったんだよな。でも、最初の態度で判断されてしまったようだ。
「隠さずとも良い。ああいや、誠也から聞いたが、お主は情報を得る能力が高いそうじゃな。国家機密である誠也が受けた呪いについても知っておるのじゃろう?」
「……はい」
「うむ。あ奴がもはや戦えぬという情報を魔族に知られては今は不味いのじゃ。均衡を保っている現状が、一気に傾きかねんからの」
それはそうだろう。藤堂先生程の実力者が居なくなる。
それは魔族にとって好機でしかない。
事実、魔族達は藤堂先生が自軍に引っ込んだ事を、何かの作戦と考え、攻めを緩めているのだ。
その時間が、今の時間軸なのだから。
「早急に代わりと言わぬまでも、援軍が欲しいのじゃよ。猶予はそれほどあるまい。持って半年から一年の間。そう見ておる」
「……」
これも正しい。魔族達は半年の間に、藤堂先生が戦えなくなった事を知り、攻勢に出てくるのだ。
それを烈火達が押し返す。『ブレイブファンタジー』の正念場で盛り上がる所だ。
「お主の力は、国防軍の光だとわしは思うておる。訓練は厳しいものとなる。じゃが……国の為、人間の未来の為……その力を貸してはくれまいか……!」
「!?」
あの聖賢のローガンが、並ぶものなしと呼ばれた最強の魔術師が、こんな一学生のモブに頭を下げた。
それがどれだけの覚悟を持ってここに来てくれたのか、否応なしに知ることになって。
俺は無意識に、膝を折った。
「ローガン師匠。俺は、弱いです。今の俺は、何も出来ない。知識はあっても、それを生かす事が出来ない。だけど……大好きな皆を、仲間を守れる力が得られるなら……どんな事にでも耐えて見せます!」
「玲央……。すまぬ、いや……ありがとう。……うむ! では早速始めるとしようかの! 時間は有限じゃからのぅ!」
「はいっ! ローガン師匠!」
こうして、モブの俺の訓練が始まるのだった。
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